大谷選手2021年シーズンの4シームについての一考察
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大谷選手の投手としての最大の武器は100マイル超えの速球とスプリット、それに加えて2021年はスライダーがとても有効であった。以下が各試合ごとの球種割合だが、シーズン途中からスライダーとカッターが増え、ストレートが減っていることが分かる。
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ストレートに関しては、大谷選手の球は速いがあまりホップしない球であると言われている。ホップしない理由は回転数と回転軸にあるようだ。それに関しては自分も記事を書いた。
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一般的にホップする球が質の良い球であると考えられている。それは現場でも同じようで、選手もよりホップする球を投げられるよう練習する。大谷選手は昨年オフに投手のトレーニングで有名なドライブラインに通ったそうだが、そこでそのような練習をしたのではないだろうか。
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ホップする球が理想とされるのは、空振りをより多くとれるからである。
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2018年に大谷選手がバッターとしてバーランダー投手と初対戦した際にバーランダーの球を品があると評したが、それは自分もそのような球を投げたいという願望の現れなのではないだろうか。
2018年5月16日バーランダーとの初対戦の結果は4打数0安打3三振
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ご存じの通りバーランダーの球はメジャーでも屈指の回転数とホップ成分を誇る。
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それに対し大谷投手のストレートはその真逆の真っ垂れ系と言われるものであった。MLB平均の縦変化量(ホップ成分)が45cm程度なのに対し、バーランダーの球は50cm以上、大谷投手の球は40cm程度。その差はボール一個分以上。
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それでは大谷投手の速球は品のない球なのであろうか。
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ピッチャーの一番の目的は打者を打ち取ることである。そして打者を打ち取るのに必要なことは打者の予想と違う球を投げることであろう。他の投手より速い球を投げることもそうだし、他の投手と違う軌道の球を投げることもそうである。投げる球自体ではないが配球で裏をかくのが有効なのもそのためだ。
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ホップする球は打者が思った以上に垂れずに伸びてくるのでバットはボールの下を振り空振りをしやすい。ただその反面、バットがボールに当たった時はボールの下に当たりフライになり、長打になる確率が高くなる。ピッチャーを形容するのに一発病があるという言い方をする場合があるが、それはこのタイプの投手であることが多い。昔で言えば江川投手が代表格か。
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真っ垂れ系の球は空振り率は減るがバットはボールの上を叩くことが多いのでゴロになる確率が高い。このタイプの球は回転数が低く、ジャイロ成分が大きいために空気抵抗が減り、初速と終速の差が小さいのも利点である。
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要は平均的な球が打たれやすいのであり、平均以上に垂れるのは十分武器になりえる。しかも100マイルの球速があればなおのことである。
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品がない球で何が悪い。
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以下が大谷選手の試合ごとの4シームの球速、変化量、回転数だが、ご覧の通り縦変化量は6月以降40cmを切り、その後更に落ちて行く。
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回転数が減り縦変化量が落ちていった間の大谷選手の投手成績はどうだったかというと絶好調であった。
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開幕当初はストライクを取るのにかなり苦労して球数が増え甘くなったところを痛打される、もしくは好投していても球数が嵩み降板して後続投手が打たれるケースが多々見られた。それが7月以降は大幅に改善され7月と8月は7戦に投げ5勝、防御率2.20 (リリーフに勝ちを消された試合1試合を含む)。9月は勝利数は一つだけであったが、9月10日の試合以外は素晴らしいパフォーマンスであった。
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以下が試合毎の4シームの結果の割合。シーズン当初はボールの割合が40%を超え、最大61%とコントロールに苦しんでいるが、7月以降は大きく改善されているのが明らか。
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回転数の減少について一つ忘れていけないのは、粘着物質検査が6月21日から始まったことだ。特殊な粘着物質は別として、松脂程度ならほとんどの投手が使っていたと言われるので、大谷選手の回転数が落ちた要因の一つかもしれない。
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ただし私にはこの変化は意図的だったのではないかと思われる。オフシーズンにホップ成分の大きい球を投げられるようにトレーニングして臨んだシーズンであったが、確かに回転数が上がりホップ成分は大きくなったが制球が定まらなかった。詳細は分からないが回転数を高くするために握り、手首、指の角度や使い方を変えたことにより制球に乱れが生じたのであろう。それを7月以降は以前のものに戻したのではないかと推測する。
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その背景には空振りは従来のスプリットに加えてスライダーが非常に有効であったために無理して4シームで空振りをとる必要がなかったこともあるだろう。
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品のある球から品のない真っ垂れ系への帰還である。
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大谷選手にそう決心させたのはおそらく6月30日のヤンキース戦であったのではないだろうか。この試合は2021年シーズンの大谷選手にとって最も屈辱的な試合であった。超満員のヤンキーススタジアムにやる気十分で臨んだ大谷選手であったが、いきなり先頭3人を歩かせノーアウト満塁でスタントンにシングルを打たれまず1点、グレイバー・トーレスにもシングルで2点目、次の2人は抑え2アウト満塁になったところで次の打者にデッドボールで3点目、そして次の打者に四球で4点目を与えたところで投手交代。しかも後続投手が満塁から走者一掃の2塁打を打たれために0.2回を投げて自責点7という惨憺たる結果に終わった。
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そしてこの試合の球審は現在MLBで最も正確性が高いと言われているJohn Libka。正確性が高いというのは逆に言えば投手にとっては際どいコースをストライクコールしてくれないと言う事で、この試合もことごとく際どいコースをボールにされた。
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この試合を境にして大谷選手はホップする球で空振りを取ることを捨て、制球重視の従来の投げ方に戻したのではと考える。
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今後大谷選手がどのような4シームを投げてくるのかは分からない。もしかすると再度回転数が高くホップする球を投げるようチャレンジしてくるかもしれない。ただ個人的にはこのまま品のない真っ垂れ系ストレートで突き進んでほしいと思っている。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。