ジェフ・マクニール バレルを打たない首位打者:打球角度、速度、飛距離の関係性
ジェフ・マクニールとは
ジェフ・マクニールはニューヨークメッツ所属の現在30歳の野手。身長185cm、体重88kgとメジャーの中では小柄な部類。ニックネームはリス。2022年シーズンは打率.326で首位打者を獲得しシーズンオフにメッツと4年US$50Mの契約延長をしました。
マクニール選手の特長はとにかく三振をしないこと。Baseball Savantでマクニール選手を検索するとトップに主な指標の全体でのランクが見れますが三振率99パーセンタイル、空振り率91パーセンタイルとその優秀さが分かります。
しかし現代野球で重視されている打球速度やバレル率を見るとかなり低い。これでどうやって首位打者を獲ったのでしょうか。今回はその謎に迫ってみます。
バレルゾーンとは
本題に入る前にまずはバレルゾーンの説明から。簡単に言うとバレルゾーンとは一定の打球角度と速度で打つと長打になる確率が高いと統計的に出された数値です。
MLB公式サイトの解説によると打球速度99mph(約159㎞)の場合は打球角度が25~31度がバレルゾーンで1mph(1.6km)増すごとに3度増え(100mphだと24~33度)、最大打球速度116mph(187㎞)で8~50度になります。
この定義から打球速度と打球角度の関係性が重要であり一方だけを上げてもバレルゾーンには入らないことが分かります。
マクニール選手のバレル率は2.7%で規定打席到達した252人中232位。バレルで打つことと打率は関係がないのではということが推測されます。
2020年シーズン全打球の統計結果
バレルゾーンで打つことと打率の関係性、そして打球角度、打球速度と飛距離の関係性を調べるためにMLB2022年シーズンのフェアゾーンに飛んだ全打球の統計を取って見ました(バントを除く)。
集計方法は打球角度を以下の15グループに分け、それぞれの打球速度、飛距離、打率、長打率を求めました。
‐50度以下
‐21から‐49度
‐11から‐20度
‐1から‐10度
0から5度
6度から10度
11度から15度
16度から20度
21度から25度
26度から30度
31度から35度
36度から40度
41度から45度
46度から50度
51度以上
‐50度以下はボテボテの当たりで最大‐90度はバットの真下に飛んだキャッチャーゴロで逆に最大90度は真上に飛んだキャッチャーフライとイメージすると理解しやすいと思います。
打球角度と打球速度の関係
打球速度は打球角度‐20度を超えた辺りから上がり始め6~20度で最大となります。イメージとしては強いゴロからライナー性の当たりが打球速度が最大となる感じでしょうか。そして徐々にではありますが20度を過ぎたあたりから減速していきます。
スタットキャストでの計測以来最高打球速度の122.4mphを記録したオニール・クルーズの一打は打球角度17度、飛距離111m。
打球角度と飛距離の関係
飛距離は打球角度が26~30度の時に最大となります。打球速度が最大値となる角度とは少し異なります。
打率と長打率
打率は打球角度11~15度で最大となり長打率は打球角度26~30度で最大となります。
ここまで見てきたように打球速度が最大となる打球角度と飛距離が最大となる打球角度は一致していない。そして打率は打球速度が最大となった時であり、長打率は飛距離が最大となった時である。
理想の打球角度とは?
では全ての打者はバレルゾーンで打つことを目指して打球角度26~30度で打つべきでしょうか。検証のために打球速度が90-95mphと100-105mphで打球角度が5-10度と25-30度の時の打率と長打率を比較してみます。
打球速度90-95mphと少し弱い打球では打球角度が5-10度の際は5割を超える打率だが打球角度25-30度だと.140と極端に低い打率となる。パワーが足りない打者が良い角度で打ってもただの外野フライになってしまうのでしょう。その一方打球速度が100-105mphと強い打球では打球角度5-10度の際は.680と当然高い打率だが打球角度25-30だと更に打率が.724に上がる。長打率は尚更である。
このことから各選手の打球速度により最適な打球角度は異なることが明らかである。パワーのないコンタクト型の選手は打球角度を上げ過ぎないほうが良く、打球角度を上げても野手の頭を超える打球を打てるパワーヒッターは打球角度を高めにしたほうが長打率が上がりOPSも上がる。
2022年全本塁打のデータ検証
少し視点を変え2022年シーズンのホームランについて見てみます(インサイドパークホームランは除く)。
全5208本
最多本数は打球角度26度
最大平均飛距離は打球角度28度
最高平均打球速度は打球角度16度
最低打球角度14度
最高打球角度48度
最も本数が多いのは26度、最高打球速度は16度、最長飛距離は28度と先に検証してきた通りの結果です。
飛距離に関しては打球速度と打球角度の他にバックスピン量も重要になってきますが、Baseball Savantのデータでは打球のスピン量が得られないので今回の記事ではあえて触れないことにしました。
ホームラン動画
まずは最低打球角度のボガーツ選手の弾丸ライナーホームラン。打球角度14度、打球速度113mph、飛距離120m。
こちらは最高打球角度のアンソニー・リゾ選手のホームラン。打球角度48度、打球速度99mph、飛距離100m。この日リゾ選手は3本のホームランを打っており、最高打球角度のやつは3本目のもの。ヤンキーススタジアムの狭いライトスタンドがナイスアシスト。
大谷翔平選手が打った最も高い角度のホームランは2021年8月26日に打った打球角度45度、打球速度111mph、飛距離114mのこちら。この試合は現地観戦していたのですが、打った瞬間は外野フライだと思ったらホームランになったので驚きました。
2022年シーズンに日本人選手で最大打球角度でのホームランは大谷選手ではなく筒香選手の角度43度、打球速度97.3mph、飛距離108mのものでした。大差のついた試合で名捕手のモリーナ選手がピッチャーとして投げている際に打ったもので稀少度の高い一発です。
こちらは最低打球速度(85.4mph)でのホームラン。角度は33度、飛距離98.5m。ドームラン?
こちらは最高打球速度119.8mphのホームラン。角度20度、飛距離133m。打ったのはEVキングのスタントン選手でした。
こちらは2022年最長ホームラン。飛距離154m、角度37度、速度110mph。気圧の影響で飛距離が出るクアーズフィールドで飛ばし屋のCron選手と役者が揃った一発でした。
ジェフ・マクニールという生き方
マクニール選手の全安打の打球角度を調べてみると7.4度、シングルに限っては4.4度とかなり低い角度です。大柄の選手のように強い打球は打てないが、鋭い低い打球を打つことを徹底することで首位打者を獲得するまでの成績をおさめることが出来るという最高のお手本がマクニール選手なのです。先に見たようにマクニール選手のバレル率は2.7%。これはマクニール選手がメジャーで活躍するためにあえてバレルで打たないという選択の結果だと言えるのではないでしょうか。
最近は打率よりもOPS重視で然もすれば単打よりも長打を打つことが正義であるような意見も見られますが、打率重視が悪であるような考えは間違っているのではないでしょうか。勿論長打を打てる素質がある選手はその方向で行けば良いと思いますが、フィジカルで劣る選手が単打中心でとにかく三振しないタイプの選手を目指すこともまたありだと考えます。
本題とは全く関係ありませんが、マクニール選手と言えばグリップのない変てこなバットを使っていることでも有名ですね。
最後に
今回の記事ではジェフ・マクニール選手を題材に打球角度、速度、飛距離と打率の関係性について書かせて頂きました。今後野球を見る際の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。またどこかの野球場でお会いしましょう。