UZRに騙されるな:MLBゴールドグラブ賞のUZR値の検証
ゴールデングラブ賞の選考時期になると、あの選手よりこの選手の方がUZRが良いのに選ばれないのはおかしいという文句がファンの間で繰り返されのが毎年の風物詩。ただしそういう人の中には本当はたいしてUZRのことを知らないのに通ぶって言ってるだけなんじゃないって人も含まれているのはまさに自分がそうなのでよく分かる。生半可メジャー通のセイバーメトリクス厨。そこでUZRがどれくらい本場MLBのゴールドグラブ賞の選考に反映されているのか検証してみることに。
ゴールドグラブ賞とは
1957年に発足された最も守備に優れた選手に贈られる賞。正式には野球機具メーカーのローリングスが発足したのでローリングス・ゴールドグラブ賞となります。いまやローリングスはMLBのオーナーだけどね。
選出方法は同じ地区の監督・コーチからの投票(自チームの選手には投票不可)が75%、セイバーメトリクスの数値が25%。監督・コーチの投票は日本も早く導入したほうが良いのでは。
2010年までは外野手のポジションを分けずに外野手3人を選出していましたが、2011年以降はそれぞれのポジションで選ぶようになったそう。
2011年よりゴールドグラブ賞受賞者の中からファン投票でその年最も優れた守備の選手を選ぶプラチナム・グラブ賞が始まる。ア・リーグは割と年ごとに入れ替わっているが、ナ・リーグは2010年代初期はモリーナが4回受賞、2017以降はアレナドが5期連続受賞と圧倒。
日本人プレーヤー
日本人プレーヤーではイチロー選手が2001年から10年連続受賞。流石。それ以外の選手の受賞はないが前田健太投手と秋山翔吾選手が2020年度のファイナリストに選出されている。個人的に日本の投手はフィールディングが良いので田中投手や前田投手が受賞していてもおかしくないと思うが、ア・リーグではダラス・カイケル、ナ・リーグではザック・グレインキーという高い壁に阻まれた。
守備のセイバーメトリクス
やっと本題。現在メジャーで主に使われている守備指標はUZRとDRS。UZR(Ultimate Zone Rating)はFangraphが開発しDRS(Defensive Runs Saved 守備防御点)はThe Fielding Bibleが開発した指標。細かい部分での差異はあるが基本的に両者は似た計算式を使っているといわれている。大きな違いとしてはUZRは過去の累積データと比較するのに対しDRSはその年のみのデータを使うこと。これによりUZRは多くのデータとの比較で数値が平均化されるのに対しDRSは比較データが少ないために数値の差が大きくなる傾向がある。ゾーンの分け方もUZRとDRSでは異なるよう。
それでは過去2年の受賞者・ファイナリストのUZRとDRSを見てみる。
こちらが2020年
こちらが2021年
UZRは投手と捕手にはつかないので省いた。黄色のハイライトが受賞者で各ポジションでの最高値が赤字。
まず目に付くのがUZRとDRSにかなり差があるケースがあること。中にはどちらかがマイナスでもう片方が大きくプラスなこともある(2020年のコレアや2021年のフレッチャー)。
UZRがトップで受賞を逃した選手が2020年は5人(36%)、2021年は4人(29%)。
DRSがトップで受賞を逃した選手は2020年は5人、2021年は4人とUZRと同じ割合。
もう少し詳細に見てみる。
UZRもDRSもトップではないのに受賞したのは2020年のCesar Hernandez、Javier Baez, 2021年のYuli Gurriel, Nolan Arenado, Brandon Crawford。結構たくさんいるじゃないか。
UZRとDRSがトップで受賞を逃した選手のは2021年のMatt Olson、Ryan McMahon, Kevin Newman。
UZRとDRSともにマイナス指標なのにファイナリストに選ばれたのは2021年のBryan Reynolds。
2021年のDRSで最も高い数値はコレア選手の20だが、それはコレア選手が必ずしもその年に最も素晴らしい守備をしたのではなく、同リーグの同ポジションに大きなばらつきがあったことを意味する。コレア選手の高い数値の裏ではシーズン途中までエンゼルスにいて大谷選手と仲が良いことで日本で有名になったホセ・イグレシアス選手のマイナス20の存在があった。
SDIとは
ローリングスのゴールドグラブ賞のウェブサイトを見てみると25%を占めるセイバーメトリクスには独自のSDI(SABR Defensive Index)を使っているとある。
こちらが先ほどのリストにSDIを加えたもの。
ざっと見た感じSDIの数値はUZRとDRSの間くらい。
賞の選考にSDIを使っているので当たり前だがSDIがトップで受賞を逃した選手は2021年のKevin Newmanの1人のみ。Kevin NewmanはUZR, DRS, SDIの全てにおいてトップなのに受賞出来なかったのは謎。
もう一人特筆すべきはアレナドがカージナルスに移籍した後にロッキーズの3塁手となったRyan McMahon。UZRとDRSではアレナド超、SDIでも同値と堂々とアレナドと渡り合っている。McMahonは2塁手での起用も多かったので3塁手専属ではなかったのも分が悪かったのかもしれん。来年以降が楽しみ。
使用グラブ
これは全くの余談だが2021年ファイナリストの使用グラブを調べてみた。
ファイナリスト全員ではローリングス21人、ウィルソン19人、ミズノ1人、イーストン1人。ほぼローリングスとウィルソンが互角の争いという感じ。
受賞者に限るとローリングス6人、ウィルソン8人。
最近の選手で守備が有名なマット・チャップマンとノーラン・アレナドは、チャップマンはウィルソン、アレナドはローリングスを使用。ちなみに良く知られていることだが、この2人は同じ高校の出身でアレナドがチャップマンの2学年上。高校時代は2人ともショート。アメリカではチームで守備が一番上手い選手にショートを守らすので、然もありなん。チャップマンはヤンキースがショートとして補強するという噂があるのでどうなるか気になるところ(2022年1月現在)。
チャップマンモデルの捕球面にはチャップマンの有名な足を広げ低い姿勢の姿が刻印されてます
他の有名選手だとトラウト、ジャッジ、デグロム、コール、アクーニャJrはローリングス、カーショー、ベッツ、ソト、ゲレーロJr.はウィルソン。タティスJr.は以前はSSKだったと思うが2021年はミズノに変更?(未確認)。
ナイキは一般向けの野球グローブの製造を中止したがトレバー・バウアー、ルーカス・ジオリト、ジョージ・スプリンガーなどにはプロモデルを継続して提供。このモデル欲しい。
個人的にグローブを集めるのが好きでメジャーなモデルは所有しているが、最近44Pro Glovesという新しいメーカーに嵌まっている。かなり細かいパーツごとに皮の色と柄をカスタムデザインすることが出来るので世界に一つだけのデザインのグローブを作ることが出来て楽しい。品質も悪くなく、価格も他のメーカーに比べるとかなりお手頃。メジャーでは特に中南米系の選手が最近よく使用している。
結論
この拙文はそもそもUZRもしくはDRSの信憑性を検証するような大それたものではなく、単にゴールドグラブ賞とUZRの関係性の検証である。それでもUZR値が高くても受賞してない例はたくさんあることが分かったので、NPBゴールデングラブ賞でもUZR値が高いからといって必ずしもその選手が受賞するべきとは言えないのではというのが多少なりともの結論。
あくまで個人的な見解だが守備というのは非常に多角的に評価しないといけないので、どの指標もまだ不完全なのではということ。それだけ守備というのは奥深いものということだ。
最後までお読み頂きありがとうございました。