【論文掲載のお知らせ】学術雑誌「current-biology」に、弊社インフォマティクススペシャリスト・鈴木彦有が共同研究を行なった論文が掲載されました!
2024年11月21日、学術雑誌「current-biology」に、弊社インフォマティクススペシャリストの鈴木彦有(以下、鈴木)が共同研究した論文が掲載されました!
「current-biology」は生物学全般、特に分子生物学、細胞生物学、遺伝学、神経科学、生態学、進化生物学を対象とした学術雑誌で、専門家の査読を得た研究論文やレビューが掲載されております。
本研究では次世代シーケンサーを使って細胞内に存在するRNAの配列を網羅的に解析する手法を用いており、解析部分を鈴木が担当いたしました。
RNA-seqのデータを使い細胞内のあらゆる遺伝子の発現量を調べていくという解析は、ゲノム/トランスクリプトームデータを用いた生産株のデザインなど、digzymeのサービス内でも活用されております。
【論文掲載情報】
●掲載誌:「current-biology」(公開日2024年11月21日/ 米国東部時間午前11時)
●論文タイトル:Impaired pheromone detection
and abnormal sexual behavior in female mice deficient for ancV1R
●著者:Hiro Kondo ∙ Tetsuo Iwata ∙ Koji Sato ∙ Riseru Koshiishi ∙ Hikoyu Suzuki ∙ Ken Murata ∙ Marc Spehr ∙ Kazushige Touhara ∙ Masato Nikaido ∙ Junji Hirota
●論文のリンク:https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(24)01504-5
鈴木からのコメント:
本研究成果⁽¹⁾は、4億年以上昔のシルル紀から現在に至るまで多くの脊椎動物に保存されてきたI型フェロモン受容体様遺伝子(ancV1R)について、その生理的な機能を探求したものです。
ancV1Rについては、東京工業大学(現・東京科学大学)、東京大学、東京慈恵会医科大学、国立遺伝学研究所およびタンザニア水産研究所などの国際的な共同研究で行われたシーラカンスゲノムプロジェクト⁽²⁾において初めて発見された新規の遺伝子で、分子系統学的に既知のI型フェロモン受容体(V1R)遺伝子に最も近縁であったことからancient=古くからの、V1R=I型フェロモン受容体と名付けられました。⁽³⁾
ちなみに、その発見者・命名者は私です。(紹介記事後編も併せてご覧ください)
その後、様々な生物のゲノムデータを解析したところ、ancV1Rは古代魚から哺乳類に至るまでほとんどの脊椎動物において保持されている⁽³⁾ことがわかってきました。
一方で、フェロモンを感知する器官である鋤鼻器管が退化している一部の哺乳類(ヒトも含む)やカメ類、ワニ類、鳥類などではancV1Rが壊れていることも明らかとなっており⁽³ ⁴⁾、フェロモンの受容において重要な役割を持つであろうことは示唆されていたのですが、その具体的な機能については未解明のままでした。
本研究はゲノム編集技術を用いてancV1Rを欠損させたマウスを作製し、その生殖における行動について野生型マウスと比較観察したところ差が見られたことからスタートしています。また、行動観察と併せてin situハイブリダイゼーション法や免疫染色法を用いた組織化学的な観察も行っており、ancV1Rを欠損させた雌マウスは雄マウスの発するフェロモンを受容しにくくなった結果、雄マウスからの生殖行動を拒絶してしまうのだろうと結論づけられました。
例えば、雄マウスの涙にはESP1と呼ばれるフェロモンが含まれており⁽⁵ ⁶⁾、通常このフェロモンを受容した雌マウスは雄マウスの生殖行動を受け入れやすくなる⁽⁶⁾ことが知られているのですが、このESP1でさえもancV1Rを欠損させた雌マウスには効果がないことを本研究では示しています。
また、本研究ではancV1Rを欠損させたマウスと野生型マウスそれぞれの鋤鼻器管の間で、発現している遺伝子の発現量を網羅的に比較するトランスクリプトーム解析を実施しており、弊社鈴木はその解析部分をお手伝いさせていただきました。その結果として、有意に発現量の異なる遺伝子が74個同定され、そのうちの半数近い30個がI型またはII型フェロモン受容体遺伝子でした。
これらのフェロモン受容体がどのような化学物質(フェロモン)を受容しているのかはまだよくわかっていませんが、今後その機能を調べていくことができればancV1Rの詳細な機能、そして生理学的な存在意義に迫っていけるのではないかと期待しています。
本研究は廣田順二先生(東京科学大学教授)・岩田哲郎先生(東京科学大学助教)との長年に渡る共同研究の成果でして、本研究における多くの実験・観察は廣田研の博士学生である近藤宏さんが実施してくださいました。
また、共著者である東原和成先生(東京大学教授)・村田健先生(東京大学特任助教)にも、共同研究で長年お世話になっております。
二階堂雅人先生(東京科学大学准教授)には、私が学部4年生で研究室に配属した時から大学院卒業まで長くに渡って指導していただきましたし、ancV1Rの発見に至る研究機会を与えていただきました。
他にも多くの共同研究者の方々のおかげで現在もancV1Rの研究が進んでいることを発見者としてとても嬉しく、またありがたく思いますし、この場を借りて改めて感謝申し上げたいと思います。
⁽¹⁾ Kondo et al. “Impaired pheromone detection and abnormal sexual behavior in female mice deficient for ancV1R” Curr. Biol. 2024; 35:1–15
⁽²⁾ Nikaido et al. “Coelacanth genomes reveal signatures for evolutionary transition from water to land” Genome Res. 2013; 23:1740-1748
⁽³⁾ Suzuki et al. “A single pheromone receptor gene conserved across 400 My of vertebrate evolution” Mol. Biol. Evol. 2018; 35:2928-2939
⁽⁴⁾ Zhang and Nikaido. “Inactivation of ancV1R as a predictive signature for the loss of vomeronasal system in mammals” Genome Biol. and Evol. 2020; 16(6):766-778
⁽⁵⁾ Kimoto et al. “Sex-specific peptides from exocrine glands stimulate mouse vomeronasal sensory neurons” Nature 2005; 437:898-901
⁽⁶⁾ Haga et al. “The male mouse pheromone ESP1 enhances female sexual receptive behaviour through a specific vomeronasal receptor” Nature 2010; 466:118-122