「このアルバムがほろ苦いのは、たくさんの理由があるんだ」 母親と親友Takeoffの死を乗り越え、セカンドアルバムをドロップ! Metro Boomin - HEROES & VILLAINS (2022)
ドレイク「Jumpman」、ミーゴス「Bad and Boujee」や、フューチャーの「Mask Off」といった多くのクラブアンセムを手掛けてきたMetro Boomin(メトロ・ブーミン)。
彼は、21 Savageのブレイクにも一役買い、The Weekndの2020年のアルバム「After Hours」では4曲をプロデュースするなど、ヒップホップの枠を超えて最も注目されるプロデューサーの1人です。
そんな彼が、セカンドアルバム「HEROES & VILLAINS」(2022)をドロップ。
ここでは、このアルバムについて解説します。
レーベル : Republic Records, Boominati Worldwide, Metro Boomin Want Some More
リリース日 : 2022年12月2日
名前 : Metro Boomin
本名 : Leland Tyler Wayne
年齢 : 29歳
出身地 : ジョージア州アトランタ
母を殺された悲劇を乗り越えて
2022年9月、メトロ・ブーミンはSNSでアルバムのリリースを発表し、これが亡き母に捧げたアルバムであることを明かしました。
母親のLeslieは、2022年6月に夫に射たれ、夫もまた自ら命を絶つという痛ましい事件でこの世を去りました。
男性はメトロ・ブーミンの実父ではないようですが、2人は結婚しており、事件の詳細や動機については明らかにされていません。
2019年の母の誕生日には、メトロ・ブーミンはプレゼントの写真とともに「俺の最大のインスピレーション」とツイートし、母が急逝後のInstagramのストーリーでは「母は昔も今も宇宙一の親友だった。俺のことをよく知っている誰もが、俺がずっとママっ子だったのを知っているはずだ」と投稿。
メトロ・ブーミンにとって、母親はかけがえの存在だっただけに、この事件は非常に心苦しいものでした。
母親の死を受け止め、本作のリリースに向けて邁進していましたが、本来の発売日だった11月4日が12月へと延期されると、ファンやメディアからはドレイクと21 Savageのアルバム「Her Loss」と「発売日が重なることを避けているのでは?」と憶測が飛び交いました。
延期についてメトロ・ブーミンはTwitterで「サンプルの権利問題をクリアできなかった」と述べ、さらに「誰かのせいでアルバムの発売日をずらすなんてことは絶対にしないからね😂」とも明かしています。
11月には「ヒーロー」サイドと「悪役」サイドの2つの顔を持つアルバムのアートワークを公開。
これは、イギリスのロックバンド、ピンク・フロイドが1975年にリリースしたアルバム「Wish You Were Here」にインスパイアされているようです。
その1週間後には、Young Thug、Gunna、モーガン・フリーマンが出演し、アメコミを思わせるアルバムのショート映画をYouTubeで公開しています。
アルバムについて
本作はメトロ・ブーミンが2017年に立ち上げたレーベル、Boominati Worldwideのミキシング&レコーディング・エンジニアであるEthan Stevensをエグゼクティブ・プロデューサーに迎えて制作されました。
Ethan Stevensは、リアーナ、ポスト・マローン、ミーゴスなどのヒット曲でレコーディングエンジニアを務め、21 Savageやメトロ・ブーミンの関連プロジェクトでも度々参加しており、メトロ・ブーミンの右腕的存在です。
アルバムには全15曲が収録され、21 Savage、Travis Scott、Future、The Weeknd、A$AP Rocky、Takeoff、Don Toliver、Gunnaなど錚々たるゲストが参加しています。
メトロ・ブーミンのInstagramには、ゲストアーティストをアメコミ風に描いた作品が投稿されており、視覚的にも楽しめるユニークなアイデアが活かされています。
アルバムの2曲目「Superhero(Heroes & Villains)」は、2021年にラッパーのLil Double 0とフューチャーとの楽曲としてリークされていました。
しかし、実際にリリースされたものでは、Lil Double 0のバースはカットされ、曲の終盤にビートスイッチし、クリス・ブラウンが参加したバージョンとなりました。
その為かどうかはわかりませんが、YouTubeで公開されたMVにはフューチャーのバースのみが収録されています。
Metro Boomin & Future - Superhero (Heroes & Villains)
10曲目「Creepin’」は、The Weeknd、21 Savageをフィーチャーし、Mario Winansの「I Don't Wanna Know」(2004)をサンプリングしています。
この曲ではMario Winansが新たにボーカルを提供していますが、2人の出会いは10年ほど前に遡り、Diddyのマイアミの自宅に呼び出され、曲作りに取り組んだのがきっかけだったようです。
そこでMario Winansは、メトロ・ブーミンの豊かな音楽性に深い敬意を抱き、後にDon Toliverの「Swangin' on Westheimer」を共同でプロデュースしています。
Mario Winansはメトロ・ブーミンについて「俺は多くの天才の周りにいたけど、彼は間違いなくその中の1人だ。見た瞬間、即座にそう思った」と明かし、メトロ・ブーミンは彼を「俺のメンターの1人」として挙げ、歳は20歳ほど離れた2人ではありますが、とても良い信頼関係にあるようです。
Metro Boomin, The Weeknd, 21 Savage - Creepin
Mario Winans - I Don't Wanna Know (2004)
12曲目「Walk Em Down (Don’t Kill Civilians)」は、21 SavageとCamila CabelloやThe Weekndとソングライターやバックコーラスを担当したカナダのシンガー、Mustafaが参加しています。
Mustafaは、メトロ・ブーミンとのコラボについては、彼の心の広さと各アーティストの才能を信じる姿勢に感銘を受けたようです。
Metro Boomin, 21 Savage feat. Mustafa - Walk Em Down (Don't Kill Civilians)
14曲目「Feel The Fiyaaaah」ではA$AP RockyとTakeoffがゲスト参加。
Takeoffといえば、先日28歳という若さでこの世を去り、多くのファンや関係者が悲しみに暮れていますが、メトロ・ブーミンは過小評価されがちなTakeoffにソロでスポットライトを当てたいと考え、意図的に他のミーゴスの2人をアルバムに参加させなかったようです。
そのため、21 Savage、Travis Scott、Futureなどが複数曲に参加しているように、Takeoffもこのアルバムで3曲に選抜される予定だでしたが、彼の死によって1曲のみに限定されたようです。
Metro Boomin, A$AP Rocky feat. Takeoff - Feel The Fiyaaaah
おわりに
セカンドアルバムとなった今作は、同じくDr. Dreのセカンドアルバムで名盤とも呼ばれる「2001」に大きく影響を受けて制作を進めていたようです。
メトロ・ブーミンはDon Toliverに「"2001"のように、Nate Doggの役割を担ってくれ。それが君だ」と伝えていたようで、レジェンドたちの軌跡と功績を意識していたようです。
また、これまでの音楽史では、各年代ごとに時代を築いたプロデューサーがおり、今の時代を振り返った時に、自分の名を残したいという思いがあったようです。
2022年も残りわずかとなり、ラップアルバムとしては今年最後の大目玉作品となりました。
メトロ・ブーミンのセカンドアルバムは、本人が言うような、後世に残る傑作となりうるのでしょうか。是非あなたの耳でお確かめください。
今回紹介した楽曲のDJプロモーション音源はこちら⬇️⬇️⬇️
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