ラップ×ヒューマンビートボックス映画『帰ろうYO!』|インディペンデント映画を巡る vol.4
カウンター・カルチャーのニュアンスが強い“インディペンデント映画”。低予算の中で、芸術性や作家性を重視して作られた映画は、新しい考えや想像力の源泉として、観た人の記憶に残るはずだ。
今回はインディペンデント映画の中から、ラップ×ヒューマンビートボックスが奏でるオフビートな恋を描いた松本卓也監督の映画『帰ろうYO!』を紹介。
あらすじ
ラッパーのリクはHIPHOPグループを組んで活動していたが、メンバーの脱退により解散する事になった。それを機に、リクは恋人のマイにプロポーズし、地元に戻って暮らす事を決意。女手一つで育ててくれた母にマイを紹介するため、2人は帰省するが…。
ラップ×ヒューマンビートボックスが奏でるオフビートな恋
ラップと田舎の組み合わせは、邦画では入江悠監督の『SRサイタマのラッパー』『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』など既に先例がある。小説でも、モブ・ノリオの『介護入門』では祖母の介護をする青年が文中で「YO、FUCKIN、朋背(ニガー)」とたまに掛け声をかける。彼ら/彼女らは、田舎で介護、バイト、風俗、家業の蒟蒻屋などに従事しながら、そのもやもやした鬱憤をラップでぶつける。 SRシリーズでは、ラストシーンで、1では “SHO-GUNG”が食堂で、2では “B-hack”がメンバーの母親の法事の場という、場違いな場でラップするのが泣ける。伴奏もないまま、気まずい沈黙を破る彼ら/彼女のシャウトの、なんと心を打つことよ。彼らは田舎に根付いていて、その覚悟がビートを生み出している。
『帰ろうYO!』は、いわばその前日譚のような映画だ。ラッパーのリクはメンバーの脱退により組んでいたHIPHOPグループが解散する。それを機に、リクは田舎に戻ることにする。恋人のマイを女手一つで育ててくれた母親に紹介するために連れていくが、彼女の体はリズム星人に乗っ取られていた…。リクを演じるマチーデフのラップもいいのだが、マイを演じるサイボーグかおりのヒューマンビートボックスがいい。リズム星人に乗っ取られているマイは場違いなビートを口だけで奏で続ける。
実家の畑で母親に向かって2人がラップするラストシーンは、SRシリーズとはまた違う良さがある。これから何があっても2人なら大丈夫だ、そう思えるのだ。SF仕立てで、派遣社員をだったリクの立場もそんなに深刻さはなく、全体的に軽さが特徴の本作品。観終わった後は、あなたの口もヒューマンビートボックスを奏でていることだろう。
text 夏目深雪
INFORMATION
『帰ろうYO!』
監督・脚本・編集:松本卓也
撮影・照明:岩崎登
撮影助手:鶴田太路
録音:奥山竜輝、田原勲
カチンコ:後藤龍馬
記録:倉田奈純
衣装:中條夏実
美術応援:猪瀬まな美
ヘアメイク:田村友香里、多田香織
制作:増本竜馬、川上悠
制作応援:民輪恭子、今野友裕、井黒英明
エキストラ担当:川島田ユミヲ
車両応援:斉藤宣紀、内田直人
スチール:多田浩志
音楽:バクザン夫婦
ラップ監修・指導:マチーデフ
キャスト:マチーデフ、サイボーグかおり、森下由美(だるま食堂)、小林明、イグロヒデアキ、青戸昭憲、田原イサヲ、倉田奈純、丸中一大、三浦ぴえろ、後藤龍馬、川島田ユミヲ、藤代舞、沢本美絵、増本竜馬、西川千尋、マーキー・レオニダスⅢ世、Maki 、JEEP(初台WALL 店長)、中西遼平太(LIVE CLEAN STAY YOUNG/CABAL RECORDS/JBz)、今田元(LEXT/BEACHPARTY RECORDS/JBz)、稲村ヶ崎光(初台WALL PAチーフ)
2015年/39分/コメディ
ⓒシネマ健康会
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