第3回 サービス産業の「収益構造」から考えるBYOD活用
コロナによる収益構造の変化
今回からは店舗サービス業のBYODによる生産性向上について、詳しくご説明します。
まずは業界の「収益構造」に視点を当て、店舗スタッフのBYODによる人件費構造変革の可能性について考えてみたいと思います。
コロナで大打撃を受けている外食業界の収益構造を例に考えてみましょう。都心部の大企業を中心に今後の働き方が「在宅・リモート勤務」主体となっていくことが想定されており、そのような変化が起こると売上はBeforeコロナの約70%程度に落ち込むと推測されます。その場合、店舗運営の収益構造を抜本的に見直す必要が出てきます。(図1参照)着目すべきは最も大きなウェイトを占める「人件費」です。
図1. 外食業界の収益構造の変化
人件費の構造を変える場合、真っ先に浮かぶのが人数の削減になります。しかし、顧客接点を担うスタッフの数を減らし過ぎてしまうと、逆に顧客の不満を増大させてしまいます。これは「サービスの同時性」がある(サービスの生産と消費が同時に行われる)ため、サービスの提供を受けるために待ち時間が発生してしまうことや、忙しいとサービスの質が下がってしまうからです。特に、働き方が変わり来店客数の増加が見込めなくなる今後は、リピート顧客を失うことで更に収益を圧迫することにつながります。よって、顧客接点を担い価値を生むスタッフを大幅に削減することは得策ではありません。
私はむしろ逆の考えで、スキルの高いマルチタスク人材を育成し、適切な人数での店舗運営を目指すべきだと思います。さらにスキルの高い人材が複数のブランドをまたいで働けるようになれば、人材を共有し、複数店舗での最適配置が可能になります。もし自社がドミナントで店舗を展開していれば、その効果はかなり大きくなるはずです。スキルの高いスタッフの接客により顧客満足度も高まり、効率的でムダの無い店舗運営が可能になります。このように考えていくと人件費構造の見直しもポジティブな要素のひとつと捉えることができます。
BYODが可能にするスキルアップ教育
スキルの高い人材を育成したいと考えても、スタッフ教育がこれまでの帯同教育や、店舗に1台のPCやタブレットでしかマニュアルが共有できない環境では、効率化はなし得ません。また、コロナ禍で今後も集合型の研修もできない状況が続くと考えられます。
しかし、スマホを活用したBYODなら実現可能です。いわゆるE-learningを想像してみてください。スタッフには自身のスマホでマニュアル動画を視聴してもらい、理解度をチェックするクイズ(テスト)に答えることで学んでもらいます。学んだスキルは実際に店舗で、店長や育成担当に確認してもらうことで認定すれば、お互いが安心して業務に臨むことができます。
会社としてもスタッフ一人ひとりのスキル情報を取得することで、マルチタスク人材の管理ができ、店舗の戦力値の把握や、人材育成をしっかりと行う店舗・店長の情報取得が可能になります。
一方のスタッフにとっても、スキルが上がることで仕事の楽しさが得られ、定着率が向上します。複数店舗での勤務が可能になれば人間関係による離職を最小限に抑えることも可能です。人が定着すれば、経験豊富なスタッフによる店舗運営が可能となり、人時生産性が高くなってくるのです。(図2参照)ひいては新規採用のための求人広告費の削減にも寄与してきます。
図2.ファミリーレストランチェーンによるスタッフBYOD化による実績例
BYODを活用した収益構造の変革
上記のようなBYODによるスタッフのスキルアップが実現し、複数店舗で人材を共有できるようになると、リピート顧客の創出によって売上が向上し、更に少数精鋭の最適配置が可能になります。このような店舗運営に切り替えることによって人件費を削減し、以下のような収益構造に変革でき(図3参照)、営業利益の改善を実現するのがBYODの活用による店舗DX化の本来の目的です。
図3.外食産業の収益構造変革(BYODによる業務変革後のイメージ)
次回以降ご紹介しますが、店舗内のカメラ画像を活用した売上を高めるための施策やSVの臨店コストを下げる等の取り組みによって、収益構造をさらに変えることも可能です。今回は、外食産業を事例に取り上げましたが、小売やその他サービス業でも同様な考え方ができると思います。
最後になりましたが、私は「スタッフのスキル教育」を店長の評価のひとつとして取り入れることを推奨しています。人を育て、店舗を成長させることが店長の仕事の大半を占めると思っているからです。現状のように、これまでの常識が通用しなくなるほどの変革期では、「売上」という指標だけで店長を評価するのではなく、しっかり人を育て、最適に配置し、店舗の営業利益までを追える、マネジメント力のある店長を作り出していくことが本質的に必要ではないかと考えています。
★過去のこの著者の連載
第1回 サービス産業のデジタルシフトを目指して
第2回 BYOD活用における情報漏洩問題について
第4回 BYODで可能になる、画像を活用したリモートマネジメント
第5回 BYODアンケートから見えてくる、スタッフの本音
ナレッジ・マーチャントワークス株式会社 代表取締役 染谷 剛史
1976年 茨城県生まれ。1998年 リクルートグループ入社、中途・アルバイト・パート領域の求人広告営業に従事。2003年 株式会社リンクアンドモチベーション入社(東証1部上場)、大手小売・外食・ホテルといったサービス業の採用・組織変革 コンサルティングに従事。2012年 執行役員就任、新規事業開発(グローバル事業立ち上げ、健康経営部門の立ち上げ)を経て、サービス業に特化した組織人事コンサルティングカンパニー長。2017年 ナレッジ・マーチャントワークス株式会社を設立、代表取締役に就任。
◆店舗改革プラットフォーム「はたLuck®️」 https://hataluck.jp/
◆染谷代表のブログ「SWX総研」 https://kmw.jp/column/
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