香川オリーブガイナーズの挑戦【User Interview Side-B】
どうも、デジタルキューブグループ 広報のタカバシです。
先日、 TPM上場やIPOプロジェクトのためのツール FinanScope を導入いただいている日本独立リーグ・四国アイランドリーグplus の公式球団「香川オリーブガイナーズ」の方にインタビューをさせていただきました。
今回はその Side-B とも言える記事、「香川オリーブガイナーズの挑戦」です。地域のスポーツチームが上場を目指すお話はとてもワクワクするものでした。
今回、お話を伺ったのは、香川オリーブガイナーズ球団株式会社 代表取締役社長の福山さんと営業の平岡さんです。
地域に根ざして築く未来
━━ 香川オリーブガイナーズの企業活動について、都市部と地方都市との違いはありますか?
平岡さん:違いは確実にあります。まず、地域との密接なつながりです。地方都市なのでコミュニティの結びつきが強く、地元の方々からの応援や支援を受けやすい環境があります。都市部では情報が多く、選択肢も多いため、企業として目立つのは難しいですが、高松では地域の一員として活動することで、多くの方々に親しまれ、応援していただけるというメリットがあります。
そして、人々の温かさと協力体制もあります。高松の人々は非常に親切で協力的です。ビジネスの観点から見ても、取引先やサポーターとのコミュニケーションが円滑で、電話や対面での対応も非常に丁寧です。都市部では忙しさからか、冷たい対応を受けることもありますが、ここではそういったことはほとんどありません。
福山さん:地域の会社であることを皆さんが誇りに思ってくださっていると感じます。私たちも地域の方々にしっかりと貢献し、支えていただきたいと考えています。この支え合いの関係は、東京と比べても非常に強固なものがあります。
━━ ある意味、地域というコミュニティでみんなで一緒にやっていこうと団結する感じでしょうか?
福山さん:そうですね。東京では自分たちが「東京の会社だ」と意識することは少ないのですが、高松に来ると、「ああ、我々は高松の会社なんだ」と実感する場面がよくあります。これはおそらく、都市の規模や人口に対する企業数の違いも影響しているのかもしれません。高松では、地域の温かさを感じることが多く、その分、地域とのつながりを強く意識することができます。
関わる人たちの人生の価値を高める
━━ ファンを増やしていくという点で意識されていることはありますか?
福山さん:短期的な目標と中長期的なビジョンの両方があります。短期的には、スポンサーの方々に足を運んでもらうことに注力しています。ファンマーケティングとスポンサーシップの戦略を一致させることで、スポンサーの数を増やし、その職員の方々にも試合に来ていただくよう働きかけています。特に就業後や土日に家族を連れてきてもらうことを促進しています。この取り組みの結果、昨年は100人未満だった観客数がおかげさまで800人に増えました。
また、子供たちの数も増えてきており、この施策は成功していると感じています。しかし、昨年が少なすぎたこともあり、今後どれだけ観客数を増やせるかという限界はまだ見えていません。数を追い続けると、一喜一憂してしまうこともありますが、それが私たちの主目的ではありません。非財務的な価値を持ちながら、しっかりと経営基盤を作ることが重要です。野球チームが存続できるようにするためには、経営が安定していなければなりません。万が一経営が破綻してしまうと、地域の方々もがっかりされるでしょう。ですので、堅実な経営を目指していくことが必要だと考えています。
━━ ある意味でこれまでのことを覆して、変えていかないといけないですよね。
福山さん:もし失敗したら「やっぱり駄目だった」と思われてしまうでしょうが、その逆もまた然りです。私たちが変わり、成功に近づくことで、周囲も「我々も変われるかもしれない」という勇気を持ってもらえると思います。少し話が戻りますが、私たちが進めてきたブランディングの一つに「香川に来たら人生が変わる、ガイナーズと接することで良くなる」という価値観があります。
以前は「ガイナーズの人と会うとすぐに協賛金を頼まれる」と言われていたこともありました。が、そうではなく、ガイナーズと接することで何か得られる… それは金銭的なお得感かもしれませんが、試合を観に行くと非常に楽しくなるといった価値を提供したいと考えています。実際に、「気落ちしていたけど野球の試合を観に行ったことで元気になって、それ以来10年間もファンです」という方もいらっしゃいます。
ガイナーズと接すると良くなる、これが地元の方々に還元したい価値です。また、遠方から来る方々、例えば兵庫や東京から来る方にも「香川に来たら人生が変わる」という価値観を持ってもらいたいと思っています。これは野球選手にも同様で、引退後にビジネスマンになる、海外の野球チームに行く、指導者になるなど、彼らの LTV(ライフタイムバリュー)を高めることにつながります。「香川に来たら人生が変わる」という価値観を対外的に広めていくことで、香川のブランディングが中長期的に向上し、「ガイナーズと何かをすると良いことがある」と思ってもらえるブランドを作っていきたいと考えています。
━━ LTV を高めるということについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
福山さん:選手に関しては、ユニフォームを脱がずに指導者として活躍することが、本質的に LTV を伸ばすことにつながると思います。野球を10年以上続けてきた選手がユニフォームを脱いでスーツを着ると、途端にその価値が下がることがあります。これをセカンドキャリアとして受け入れてしまうケースが多いのですが、本質的にその人の価値を高めるには、持っている野球の知識や経験を活かせる場に持っていくことが重要です。具体的には、アジアでの指導やクリケット選手になる、という選択肢も考えられます。
多くの選手がプロを目指していますが、実際にプロになれるのは非常に少数です。その中で毎年100人以上の選手が首を切られる現実があります。コーチや監督になるための席も限られています。一方で、プロになれなかった選手はビジネスパーソンとして再出発することが多いですが、そうするとスーツを着た瞬間に誰かわからなくなることもあります。
それよりも、海外の指導者としての道に進むと、急に報酬が上がるケースもあります。例えば、インドネシアでは野球人口が2万人しかいませんが、これは成長トレンドにある2万人です。そこに行けば先駆者としての価値が高まり、LTV が大幅に上がるでしょう。
選手以外の LTV も高めたいと考えています。香川県の人口は減っていますが、総年齢数としては増えているかもしれません。そんな中でシニア世代、特に80歳以上の野球好きな方々をどうやって取り込むかが次のポイントです。四国や香川県は野球王国と言われていますし、彼らに野球を楽しんでもらう、プレイはできなくても、試合を見に来たり、応援したりすることで、野球関係人口は増え続けます。まだまだ開拓の余地があると思っています。
香川に来たら人生が変わる、そのために
━━ 「香川に来たら人生が変わる」という価値観を持ってもらいたい、といったビジョンって、チーム一丸というか、チームのメンバー、選手もそうですし、フロントやスタッフにも、みんなに広めなければいけないと思うんですが、その浸透はどのようにされているんですか?
福山さん:シーズンごとに勉強会や研修、講習会を実施してきましたが、実績や事例が少ないのが現状です。もっと言えば、多くの事例や実績があるものの、それらが埋もれてしまっていて、みんなに知られていないという問題があります。ガイナーズ出身のプロ野球選手は現在29人いますが、全員の顔と名前を一致させることが難しい状況です。また、ガイナーズ出身で起業して成功している方も何人かいますが、意外とその情報は広まっていません。
これらの事例や実績を可視化し、整理していくことが重要だと考えています。そうすることで、野球選手としての成功だけでなく、他の道もあるということが皆に伝わり、「自分にもできそうだ」と思ってもらえるようになると思います。この取り組みには時間がかかると思いますが、コツコツと広報活動を特に社内向けに行っていくことが大事だと感じています。時間をかけて一歩ずつ進めていくことが成功への鍵だと思います。
平岡さん:私自身もそうだったのですが、基本的に外の世界を知らないんです。私は十数年間、野球だけをやってきて、野球以外の世界を全然知らなかったので、そういった外の広い世界を見ることができる環境を作りたいと考えています。
各人が輝ける場所はそれぞれにあると思いますので、その場所を提供していきたいです。それが香川で実現できれば、なお嬉しいです。社内向けのアプローチとしては難しい部分もありますが、広い世界を全体的に見渡せるような活動を進めていきたいと思っています。
━━ そこからまた新しい事例ができて、それがみんなに伝わって、「香川に来たら 人生が変わる」となっていくって感じですよね。では、逆に苦労してること…たくさんあると思うんですけど、なんか言える範囲の中での一番の苦労ってありますか?
福山さん:それは成功してから発信したいですね。「そういえばこんな苦労もあったな」と思えるようになってから、失敗談や苦労話をまとめて後世に引き継ぐことが重要だと思います。同じミスを繰り返さないためにも、特にプロスポーツチームの話や、他の地域から来て仕事をする際の難しさは語られることが少ないですが、非常に重要なポイントだと思っています。
野球界では、例えば大谷翔平選手のように、数字が詳細に分析されるようになっています。昔は球の速さだけが注目されていましたが、今では初速と終速、回転数など、解像度が上がっています。経営も同様に、単に利益が上がったかどうかだけでなく、数値を可視化することで共通項が見つかり、うまくいっていない事例も科学的に分析できるはずです。
地域性やプロスポーツの特有の難しさも考慮する必要があります。失敗談を積み重ねていくことは非常に大切です。しかし、現時点でそれを発信すると「まだ何も成し遂げていないのに何を言っているんだ」と思われてしまうかもしれませんし、同情を買うような形になってしまうかもしれません。ですので、今はまだ発信せずに、次の世代が同じ苦しみを経験しないように、しっかりと記録していきたいと思っています。
夢を追い続けられる環境を…
━━ 今後、こういうことができたらいいなと考えていることはありますか?
福山さん:いろんな切り口がありますが、結論として、IPO をすることが最大の広報活動だと思っています。我々は地方の中小企業ではなく地域のスポーツ球団です。例えば、20年前に四国にプロ野球チームができた時は大人気でした。私は高校生でしたが、その時のことをよく覚えています。地域スポーツが盛り上がったのは、この20年ほどです。サッカーの Jリーグも地域密着型で、20年前からどんどんチームが増えていき、現在では47都道府県のほとんどにプロスポーツチームがあります。
プロ野球独立リーグも、今では全国に21球団ありますが、できては潰れ、できては破産して再建し、チーム名だけが存続するという歴史が続いています。今年で独立リーグは20周年を迎えましたので、次のステージとしては、存在感を示すだけでなく、具体的に企業経営をどう持続させるかが重要なトレンドになると思います。
プロ野球の NPB の12球団も似た歴史を辿っており、盛り上がっていた時期から人気が低迷し、再び人気が復活するまでの過程があります。経営破綻した球団を見ていると、東京の感覚で「売上を伸ばせばいい」と考えていたのは誤りだと気づきました。地域に応援されることが、ファンの力がチームの力になるという非財務価値を持つのです。地域に根ざすこと、チケットを買ってもらうことが発展の鍵だと学びました。
現在、香川県ではバスケットボールが非常に盛り上がっていますが、野球も同様に盛り上げるために、まずは町中にポスターを貼ったり、チラシを配ったりして、県内での認知度を高めることに注力しています。そして、大きな広報活動として IPO を目指し、この2つの軸で県内に根ざして活動を続けていきたいと思っています。
━━ 香川オリーブガイナーズをどんな存在にしていきたいですか?
平岡さん:理想は子供たちに夢を与えられる存在でしょうか。僕自身、中学校から野球を始めたのですが、その頃からプロ野球選手を目指す夢を抱けたのは、金本さんや赤星さんといった選手を見てきたからだと思っています。そうした経験から、野球をやっていない子供たちにも「まだ夢を諦めなくてもいいんだ」と思ってもらえるような世界観を作りたいと考えています。夢を追い続けられる環境を提供することで、子供たちが自分の可能性を信じ、挑戦できるようにしていきたいです。
香川オリーブガイナーズの価値観を伺っていると、デジタルキューブと非常に近いものを感じ、本当に興味深く、ワクワクする部分がたくさんありました。
デジタルキューブグループのヘプタゴンは、地方における課題解決だけでなく、地方の可能性を最大限に引き出し、地方から世界へ、その次の世代へとクラウドのノウハウとマインドを広めていくことを目指していますが、そこに通じるものを感じました。
ガイナーズの選手たちが次のキャリアを成功させ、その経験を持ち帰って地元に還元してくれることで、地域全体が豊かになっていく… そうして関係した人が成長し、地元にも良い影響をもたらす、というサイクルが続いていくことを期待しています。
それでは、また。