上場という選択肢を、もっと身近なものに - TPM 上場と FinanScope に込めた想い
どうも、株式会社デジタルキューブ、広報室のタカバシです。
2024年10月18日、デジタルキューブは東京証券取引所 TOKYO PRO Market(TPM)に上場いたしました。
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今回は、TPM 上場に至った経緯や理由、そして私たちが見据える未来について、代表取締役社長の小賀さん、取締役の立花さん、そして CFO の和田さんにインタビューを行いました。
上場を目指すことを決めた理由を教えてください。
小賀:率直に申し上げると、私が死んでも会社が存続できる状態を作りたい、というのが最も根本的な理由です。ただ、これは単純に私個人の問題ではありません。
会社を永続させる方法は3つ考えられます。ひとつ目は子供に継がせる。私の場合、これは選択肢にありませんでした。次に、M&Aで売却する。これは相手がいることで、自分たちでコントロールできる範囲が限られます。もうひとつが上場する、というものです。ただ、一般的に IPO は時間もかかり、ハードルも高いです。
そんな中で、和田さんとの出会いがありました。実は和田さんは当初、M&A の提案でデジタルキューブを訪ねて来たのですが、私が「M&A には興味がない」と伝えた際の会話の中で、TOKYO PRO Market(TPM)という選択肢を教えてもらいました。
TPM 上場を目指すことを選んだ理由は、私たちが求めていた機能に最適だったからです。一般的な IPO ほど高いハードルではなく、しかも会社の規模感にも合っている。さらに、「仕組みを作る」という私たちの目的に対して、2年程度で達成できる具体的な時間軸も見えました。
この決断の背景には、現実的な課題意識があります。今、働いている従業員とその家族にとって、「社長が死んだら会社が終わり」というのは致命的な問題です。お客様にとっても同様です。そういったリスクを排除し、安心して働き、取引していただける環境を作ることが、経営者としての私の責務だと考えました。
また、これは単なる「終わり方」の話ではありません。デジタルキューブという会社が、社会に対して価値のある存在であり続けるためには、創業者である私個人から独立した、持続可能な組織である必要があります。そのために、パブリックカンパニーになるという選択をしました。
私たちが持っている価値観やビジョンを、未来に渡って継続させていくための、最適な選択だったと考えています。
上場準備で特に困難だった課題はどんなものでしたか?
和田:外的環境の変化への対応、特に為替の急激な円安が大きな課題でした。私たちのビジネスでは、円安の影響を大きく受けます。為替レートが10年以上続いていた110円台から、140円、150円、160円台へと変動したことで、当初の予想とは大きく数字が変わってしまい、経営面での舵取りで困難な場面が続きました。
また、上場審査のプロセスでは、予実管理について特に厳しく見られます。例えば、人材採用において、当初の予定以上に採用が進んだことは会社としては良いことなのですが、予実管理の観点からは課題となりました。1人採用すると数百万円単位で数字が変わってきますので、当社グループのような中小規模の会社では、当初計画との整合性を説明することに苦心しました。
小賀:補足すると、確かに予実管理の観点では課題がありましたが、これは見方を変えれば非常にポジティブな「困難」だったと考えています。
採用については当初の3倍程度のペースで進み、18年の歴史で初めて赤字決算となりました。しかし、これは将来への投資です。採用できたメンバーは現在、しっかりと業務を回してくれています。一緒に働きたいと思ってくれるメンバーが増えたことは、むしろ喜ばしいことでした。
立花:ヘプタゴンとしては、予想以上にスムーズに進められたと感じています。これには主に3つの理由があります。ひとつ目はメンバー全員が理解を示し、協力的だったこと。ふたつ目は、チャレンジを恐れない企業文化があったこと。最後はグループ全体を見据えた管理部の支援があったことです。
仕組みやガバナンスの整備は、時として負担に感じられがちですが、私たちはこれをポジティブに捉えました。整備された仕組みは、むしろ私たちの強みを発揮するためのガードレールとなり、より本質的な部分に注力できる環境を作ってくれました。
以前は私自身もバックオフィス業務を担当していましたが、この体制整備によって、経営やヘプタゴンの強みを活かす活動により集中できるようになりました。これは小賀さんが考えていた「属人性の排除」が実際に機能している好例だと考えています。
同時並行で FinanScope も開発、そのきっかけは?
和田:FinanScope のきっかけは、実際の上場準備プロセスで体験した課題から生まれました。具体的には、証券会社とのやり取りの中で、まだまだ伝統的な進め方に直面したことです。タスク管理がメール+ Excel で行われ、月次の定例会では進捗状況を確認することに多くの時間が割かれることや、情報が閉じられたファイルの中でやり取りされる... こういった非効率な進め方に対して、「これでは当社の上場準備自体も進めるのが難しそうだ」という課題感を持ちました。
また、もう一つの視点として、会社の価値算定の問題がありました。従来、企業価値は上場企業の売上高や営業利益といった決算書の数字でしか測れませんでした。しかし、非上場企業でももっとカジュアルに株価を算定できれば、様々な選択肢が取れるのではないか。M&A なども含めて、より多くの可能性が開けるのではないか、と考えました。
小賀:さらに上場準備のプロジェクト管理に関しても、証券会社の皆様に多くを依存せざるを得ない状況でした。本来、証券会社の皆様には経営やファイナンスに関する専門的なアドバイスという、より本質的な部分でご支援いただくのが役目だと認識しています。しかし、事業会社側でプロジェクト管理を主体的に進められる環境が整っていなかったため、その部分まで担っていただいていたというのが実情でした。
FinanScope は、この状況を変えることができるサービスだと考えています。事業会社が主体的にプロジェクトを推進し、必要な時に必要な形で証券会社の専門的なアドバイスを受けられる。そんな理想的な環境を実現することで、双方にとってより価値のある関係性が築けるはずです。
実際、証券会社の方々からも前向きな反応をいただいており、より効率的な協業の可能性を感じています。これは業界全体の DX にも貢献できる可能性を示唆していると考えています。
立花:FinanScope が上場プロジェクトで、実際に「使える」プロダクトになっていることを確認できたことは、大きな自信になっています。これからも実践的な改善を重ねながら、より多くの企業の成長をサポートしていきたいと考えています。
FinanScope、そしてデジタルキューブグループが目指すものは?
和田:FinanScope を通じて、上場というプロセスについて、もっと共通認識を作っていきたいと考えています。「上場するなら、これとこれが必要だよね」という基本的な理解が広まれば、より多くの企業が選択肢として検討できるようになるはずです。また、実際に上場を目指す際のスピード感も変わってくるでしょう。
そのために、今後はコンテンツの充実や研修教材の開発なども進めていきたいと考えています。特に財務面での日本全体のレベルを底上げすることで、経営者の方々が本業により集中できる環境を作っていけるのではないでしょうか。
立花:私自身、以前は上場というのはスタートアップ企業しか目指せないものだと思っていました。しかし、実際に M&A や TPM 上場を経験してみて、「意外とできるんだな」ということを、まず自分たちが実感として理解できました。上場は自分たちとは縁遠い選択肢だと思っていたものが、現実的な選択肢になりました。
TPM という市場は、信用力の向上や採用力の強化、ガバナンスや管理体制の充実など、必ずしも証券市場からの資金調達を必要としない企業にとっても多くのメリットがあります。特に堅実にビジネスをしている地方企業にとっては魅力的な市場で、これからの日本にとってとても重要な市場になっていくと考えています。これまで上場という選択肢を持てなかった方々にも、その可能性を届けていきたい。それが FinanScope の重要な役割だと思っています。
小賀:「地方」というのは単なる場所の問題ではありません。ヒト・モノ・カネ+情報へのアクセスが届きにくい状況、それが実質的な「地方」なんです。でも、インターネット上のサービスをハブにすることで、その格差は解消できる。FinanScope を通じて、そんな可能性を提供していきたいと考えています。
これまで私たちはオープンソースやコミュニティの文化の中で育ってきました。その経験やマインドを活かして、新しい社会運動を起こしていければと思います。まだ気づいていない人たちにも可能性を知ってもらい、大きなうねりを作っていきたい。それが私たちの目指すところです。
経営者の皆さんに、ぜひ問いかけてみたいことがあります。
『一代でやめてもいいと、本当に思っていますか?』
20年、30年と事業を続けてこられた方々に、本心を聞かせていただきたい。正直に言えば、我が子が継いでくれたらいいなと思っている方も多いでしょう。あるいは「社長、次は私が継ぎますから安心してください」と従業員が言ってくれることを、密かに期待されているのではないでしょうか。
事業というのは、やめるためにやっているわけではありません。結局のところ、お客様に価値を提供し続け、従業員とその家族の生活を支え、そして地域社会に貢献する―そういった価値のある会社は残っていくべきなんです。たとえ創業者がいなくなっても、経営陣が変わっても、価値のある会社は存続していくはずです。
もちろん、爆発的な成長を目指すスタートアップ型の企業もありますが、それは全体の数パーセントに過ぎません。ほとんどの会社は、周りの人たちの生活を便利にしたい、価値を届けたいという思いから始まっています。そうして10年、15年、20年と時間をかけて、会社としての存在意義を築いてこられたはずです。
私たちが提案する上場は、そういった企業の継続性を実現するための現実的な選択肢の一つです。また、M&A についても、単に『買われた』というネガティブなものではなく、成長するための戦略として捉え直していただきたい。
私たちは、10年や20年ではなく、100年、200年、300年という単位で企業が存続していける仕組みづくりを目指しています。たとえゆっくりとした成長でも、長く続けられることこそが重要だと考えています。複利の考え方のように、長い時間をかければ、必ず大きな価値を生み出せるはずです。
皆さまの会社が持つ価値を未来に繋げていくために、ぜひ新しい可能性にチャレンジしていただきたいと思います。
今回のインタビューを通じて、TPM 上場というイベントの向こう側にある、より大きな未来が見えてきました。特に印象的だったのは、小賀さんの「一代でやめてもいいと、本当に思っていますか?」という問いかけです。これは単なる事業承継の課題を超えて、企業の存在意義そのものを問う言葉だと感じました。
和田さんが語るように、上場準備という一見ハードルの高そうな課題も、適切なツールと知識があれば実現可能なものになります。立花さんが自身の経験を通じて語る「意外とできるんだな」という気づきは、きっと多くの経営者の方々の背中を押すものになるのではないでしょうか。
今後も我々は新しい選択肢を提供していけるように、挑戦し続けていきます。
それでは、また。