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「ディグディガ」元ネタ紹介:第5話

これは、漫画「ディグインザディガー」第5話公開に際して、原作の栄免建設と漫画の駒澤零(と、たまにゲスト)が淡々と元ネタ紹介をしていくコーナーです。

ゲスト:DJ Pigeon(トラックメイカー、ディガー)

原作担当:栄免建設

ダウンタウンレコード

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下町、東陽町駅徒歩3分の住宅街に店を構える中古レコード店。取り扱いはオールジャンルで、低価格(50円!)のレコードも販売されている。

試聴機の前に大きなソファーがあるのが特徴。現在休止しているが、試聴中の方へコーヒーサービスがあり、夏はふるまいアイスも。

選盤にあたって1時間ほど滞在したが、いらっしゃるお客さんと都度都度、フレンドリーに接客していたのが印象的で、非常にアットホームなレコ屋だと感じました。上記のサービスもレコ屋としては斬新。

Twitter / 公式サイト / 通販(シングル専門)

Prefuse 73 - Vocal Studies & Uprock Narratives

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Scott Herrenによるプロジェクトの一つ、Prefuse 73の1stアルバム。
Prefuse 73は僕が一番好きなビートメイカーで、当時ヒップホップしか聞いていなかった僕を電子音楽に引き込んだアーティスト。

ヒップホップとエレクトロニカを織り交ぜた音楽の先駆者の一人で、当時はMachinedrumやPUSH BUTTON OBJECTらと「エレクトロニカ・ミーツ・ヒップホップ」なんて括られ方もされていた。

いまやEDM・ポップスでも一般的になった、声を切り刻む手法 " ヴォーカルチョップ " をいち早く楽曲に取り入れたことも彼の功績の一つで、本作は全編そのサウンドを武器にしている。ちょっと変わったヒップホップが聞きたい方は是非チェックしてもらいたい。

今回は作中で自転車が登場するのと、新キャラ登場にあたって顔が見えないアルバムを探した結果、これになりました。

Prettybwoy - Overflow EP

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Prettybwoyは東京を拠点にGarage、Grimeを中心に活動を開始し、UK Hiphopの名門「Big Dada」のコンピレーション『Grime 2.0』に楽曲を提供するなど、Garage、Grimeに軸を置きながら独自の音楽性を追求するプロデューサー。第一話で名前が登場する上海のレーベル「SVBKVLT」にも所属しており、エクスペリメンタルなGrimeを聞くことができる。

今作はフランスの前衛的なベースミュージックレーベル<<Polaar>>からリリースされた作品で、ミニマルながらアグレッシヴな「Overflow」や和楽器を用いた「Vivid Color」など、彼独自の作風が存分に楽しめるアルバムだ。
ちなみにPolaarのアーティストに僕の曲を買っていただいたことがある。またこの手のサウンドまとめたら送ってみようかな……。

普段は背景のレコードセレクトは漫画の駒澤に任せてるんだけど、今回は本当に店舗に置いてあったので取り上げさせていただきました。

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ゲスト:DJ Pigeon

◆Herbie Hancock - Sunlight

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Herbie Hancockのクラブ人気曲の中でも、普遍の人気を持つ「 I Thought It Was You」が収録された永遠の人気盤。

79年の笠井紀美子のカバーが2018年に再発された。(90年代にも再発された)
オリジナルとあわせて、どの時代でもクラブでかかっている曲。

更にDJユースな日本盤オンリーの15分のバージョンもある。(ちょっとレア)

90年代にはSex-O-Soniqueのフィルターハウス・バージョンもヒット。
そのPVでも再現されているが、このアルバムの最高なポイントは裏ジャケ。

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機材好きにはたまらない裏ジャケは、内スリーヴ/インナーの解説がセットになっている。特に内スリーヴは、よくTシャツなどのグッズになって売られているので、おそらく分かる人は分かるのでは。そのせいか、ディグで見つけても、内スリーヴ欠品のレコードだと少しがっかり感がある。

■ おまけ:この曲サンプリングの楽曲

・Todd Osborn – I Think it's me (2007)

・Flamingosis - Herbie (2017)

・NEBRASKA - The Vocoder (2018)

・Disco Lust - Suddenly (2020)

■ カバー曲

長岡成貢 - I thought it was you (2000)
TOKU - I Thought It Was You (2017)

Cory HenryとJacob Collierによるカバーも、一時話題になった。当日まさかの機材トラブルがあったが、即興力で“カバー”した回でもある。

■ パロディー曲
Joao Donato E Donatinho - Surreal (2020)

DJ Pigion

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漫画担当:駒澤零

東陽町、初めて降りました。東京都現代美術館の年パスを持ってるので、隣駅の木場はたまに行くのですが、その先の東西線は未体験で新鮮でした!
今回の解説ですが、なぜか一人で5000字近くあるので、適度にどうぞ。

◆Puhyuneco

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くもみの着ているTシャツ、実は "Puhyuneco - 00 " 柄になっていました。
どなたか気づいた方、いるかな?

Puhyunecoは2017年インターネット上に現れ、一部のボカロリスナーを震撼とさせた(ている)トラックメイカー。楽曲は基本的に初音ミクを使用しているが、内省的な世界観と壊れたような音を多用する作風は他に類を見ず、耳の早いリスナーの間で熱狂的な支持を生んでいる。

1996年生まれ、どうやら絵も自分で作っているらしい、ということ以外何の素性もわからない。すごい。昨今はみんなインターネットに情報開示しすぎなので、もういっそこのくらいの匿名感でいいんじゃないかとすら思う。

ポスト・初音ミクというか、ボーカロイドが持つキャラクター性のアウラをことごとく払拭して純粋に楽器として(しかし必然性のある)用いる文脈はわずかではあるがひっそりと存在していると思っていて、たとえばYoshino Yoshikawa『prng』、hirihiri『sunscreen』などはその典型だと思う。これをもっとアノニマスにして「機械音声」という記号にまで落とし込んでいるのがPorter RobinsonやSnail's Houseという認識。逆説的にミクを突き詰めて脱臭した存在として、sasakure.UK、ピノキオピー、きくおの名も挙げたい。

以前芳川さんにお話を聞いた時「『prng』はミクを持っている知り合いに全部調声を頼んで作って。あえて通常の意味と真逆にしてる歌詞とかあるんですよ」ということを言ってて、初音ミクとのこの距離感はそこから生まれるのか、とハッとさせられた。

黎明期の初音ミクはリスナーの欲望するキャラクターであり、人格を持つ存在だったが、「メルト」を筆頭とした曲主体の物語が登場することで作曲者とボーカロイドの1:1の関係は崩壊した。そして物語はさらに拡張し、2012年の「カゲロウプロジェクト」メディア展開を皮切りに完全にボカロの"脱キャラクター化"が進んだ。「あくまでもボカロはツールであり、聞いてもらえるための手段」という発想から「ボカロはメジャーデビューの踏み台」という揶揄があちこちで浮上したのもこの頃だったように思う。

しかし、ここでボーカロイドは本当に楽器に回帰したのだろうか。あくまでも漫画・アニメの巨大なカテゴリに回収されただけで、実は歌声にラベリングされたキャラクター性からは全くと言っていいほど、逃れられてないんじゃないか?

私はこれに対抗する唯一の存在がこうしたポスト・初音ミク文脈だと思っていて、インターネット・アートの側から接近することで真の意味でキャラクター性を殺して「有象無象」にしているように思う。ある種の関心のなさというか、作曲者と歌い手に横たわる「距離」の擬人化。もはやミクの存在はデ・ジ・キャラットやlainのようにある種のミーム化していて、アイコニックな図像がすでにかなり飽和しきった状態にあるからこそ、こうした殺戮によってはじめて浮かび上がるボーカロイドの歌声という、不気味だが心惹かれるなにかがある気がする。私はその幽霊をポスト・初音ミクと呼びたい。

毛色は違うけどアノニマスミク音楽としてはこちらもおすすめ

話をPuhyunecoに戻そう。

ポスト・ダブステップ?グリッチを多用した作品が特徴で、Arcaなどの影響を感じさせる。初音ミクを使用しながら、先日サブスク解禁されたEP「akane」も素晴らしいが、やはり特筆すべきは「アイドル」であろう。

透明で冷たい空気感の中で横溢する言葉が絶妙で、ミクが歌うことの必然性がものすごく現れている。のに、ことごとく個性が剝奪された感触。このアンビバレンスこそ彼の作品の魅力なのだ。

world's end girlfriendがナタリー連載で言及したりと、ほんとに注目の存在だと思ってる。本人が2019年のお気に入りの曲を挙げたプレイリストがあるので、ルーツが気になった方はチェックしてみては。

ちなみに今回描いたのはこのTシャツの黒。私は同柄の長袖を持ってます!

MOOG Minimoog Model D

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1970年に登場した、世界初のポータブル型シンセサイザー。

パッチングが必須のモジュラーシンセと異なり、一切の接続なしにそのまま音が鳴らせる。今でこそ内部配線のシンセは一般的だが、当時はオシレーター、フィルター、アンプリファイヤー、LFO、エンベローブなどの各機構を手配線で繋ぐのが一般的で、Minimoogは非常に革新的な存在であった。
もちろん、音色合成の自由度がモジュラーに劣るなどデメリットもあるが、演奏中に音色や機能を調整しやすいという特徴は、キーボードを用いた音楽表現の拡張に、確実に大きく寄与したと言えよう。

1981年に生産完了するも、独特の太く深みのあるベースサウンドで人気を博し、現在も多くの根強いファンを持つ。代表的な使用アーティストに、Keith Emerson、Rick Wakeman、Trent Reznor、Gary Numan、Jan Hammer、Dr. Dre、そして今回取り上げたHerbie Hancockなど。要はプログレ御用達。

2016年にはMIDIやピッチベンドなどを追加した復刻版・Model D reissueが限定発売された。しかし、復刻版は発売から1年もせずに生産終了。公式発表ではパーツ枯渇とのことだが、3,749ドル(約41万)という価格や、同時期にBehringerやRolandが3~5万ほどで同種の製品を発売したことも原因ではと囁かれている。ちなみにMinimoogをエミュレートしたソフトシンセはすべて商標権の譲渡のみで、MOOG自体が開発に関与した製品は1つもない。

◆SENNHEISER VSM 201

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取材以降すっかりHerbie Hancockにハマってしまい、ボコーダーが欲しくて毎晩毎晩夢を見るので、勢い余って描きました。

SENNHEISER VSM 201は1978年にゼンハイザー社が発売したボコーダー。
20バンド。独VirSynのMATRIXXILS 201 Vocoderのソフトウェア・エミュレーションなど、後続のボコーダーにかなり影響を与えている。発売価格は16,000マルク(日本円で当時112万ほど)で、経営としては大赤字だった。

Kraftwerk『Die Mensch-Maschine』(1978)、Neil Young『Trans』(1982) をはじめ、Frank ZappaStevie WonderPatrick MorazDaft Punkなど多くの音楽家から支持されている。

Herbieは『Sunlight』の制作で使用。なんでも、キーボード雑誌で知って、約1万ドルで2台購入したそう。『Possibilities』(未訳)の中で、Brian Bellと汎用キーボード/ボコーダーをライブで用いる方法を開発した話をしている。

◆Kraftwerk - Tour De France

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ドイツの誇る電子音楽グループ、Kraftwerkの1983年シングル、およびにツール・ド・フランス100年記念で制作された同名のアルバム。ツール・ド・フランスとは毎年7月にフランス周辺で開催されている世界的な自転車ロードレース大会のこと。

ジャケットはロードバイクに乗ったバンドメンバーが隊列を組んでいる様子を、斜めにしたフランスの国旗に重ねたデザインになっている。2003年のアルバム版では、顔がメンバー入替に合わせて差し変えられている。本楽曲はアメリカ映画『ブレイクダンス(原題:Breakin')』(1984)にも収録されており、「Breakdance」としても知られているそう。

今回「新キャラ登場」「自転車」という要素から真っ先に浮かび採用。一応元自転車部なので気を引きしめて描いたけど普通に難しかった!表紙の元ネタのPrefuse 73が籠付きのママチャリなのにロードバイクに改変して描いているのは、本ジャケのドロップハンドルに合わせたからでした。

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Kraftwerkは1970年結成。クラウトロックの代表格であり、テクノポップの先駆者として知られる。世間的にはサカナクションがMacBookを広げて整列するライブスタイルの元ネタ、と言うのが一番わかりやすいかもしれない。

一人一人の前にVAIOのノートPCが載る小さな卓があるのみで、演奏はすべてCubaseによるリアルタイム・コントロール。このスタイルは2002年のCité de la musique公演からで、それまではステージ上を機材でぱんぱんにしてライブを行っていた。近年は観客に専用のメガネを配布して興行する3Dコンサートを行っている。いつか観に行きたいなー!

余談ですが、Kraftwerkを知ったのはある日のドイツ語の授業でまるまる90分彼らのライブを観る回があり、そこで『Autobahn』を聴いたことでした。『Autobahn』は彼らの出世作で、前述したMinimoogをエンジン音に見立てて効果的に演奏している楽曲。

◆SUGAR BABE - SONGS

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取材先の名前をお伺いした時から「"ダウンタウン"レコードって、SUGAR BABE「DOWN TOWN」と関係あるのかな」とウキウキしていたが、レコ屋に入ってすぐの棚に『SONGS』のLPが飾られていたので確信。あえて訊きませんでしたが、嬉しかったので描きました。

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SUGAR BABEは、山下達郎の自主制作盤「ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY」(1972) の制作メンバーにより、1973年に結成されたバンド。

日本初のミュージシャンズレーベルと言われる、大滝詠一主宰<<ナイアガラ・レーベル>>最初のアーティストであり、レーベルとしても第一作目になったのが、この『SONGS』(1975) である。

当時は珍しかった、メジャー7thや分数コードなどのコード・プログレッションを多用するほか、コーラス・ワークに重点を置いた音作りが特徴。「DOWN TOWN」は本作で一番最初にレコーディングを始めた曲であり、伊藤銀次と山下達郎による共作となっている。この曲は3回ほどシングルカットもされている。

『SONGS』は1986年のCD化以降、30周年盤、40周年盤と数えきれないほど再発をしている。名曲ぞろいのアルバムだが、当時主流の昭和歌謡とは大きく乖離していたので全く売れず、アルバム1枚のみで1976年解散。メンバーの山下達郎 (Vo.Key) や大貫妙子 (Vo,Gt,Cho) らの活動によって、現在はシティポップ文脈の重要な存在として周知されている。

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ちなみに本作は、Wikipediaの熱量が凄く、クレジットまで載っている。「音楽ファンはクレジット目的でフィジカル購入する」とよく聞くのに載せちゃっていいのかと冷や冷やしたが………愛が深いですね。

私が知ったのはDAOKOのインスタがきっかけ(多分レアパターン)。

今回のプレイリストはこちら。

以上、ディグディガ5話の元ネタ紹介でした。ありがとうございました!





















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