「ディグディガ」元ネタ紹介:11.5話
これは、漫画「ディグインザディガー」11.5話公開に際して、原作の栄免建設と漫画担当の駒澤が淡々と元ネタ紹介をしていくコーナーですが、今回は栄免さん多忙のため、駒澤とゲストでお送りします。
前半:駒澤零(原作/漫画)
11.5話は急遽ストーリーも考えることになったので、出身サークルの定期イベント「聴き会」を取り上げてみました。イオロスのことは全く知らない人が聞くと面白いみたいで、また機会があったら話したいですね。急な話にご協力いただいた後輩たち/OBの皆さん、本当にありがとうございました!
◆聴き会(聞き会)
何人かで集まって同時に持ち寄った音楽を聴き、感想などを言い合う催し。イオロスでは定期的に開かれており、ジャンルはプログレにとどまらずイスラエルから最新の邦楽まで様々なものを取り上げる。しかし、プログレのウケが一番いいのはプログレサークルの性でしょうか…。
従来は学生会館の空き教室を借りて開催していたが、コロナ禍になってからはオンライン(Discord)で開催。会の終了後には曲目を共有する。かつてはホワイトボードに曲目を書きだしてLINEに貼り付けていたのが、今はプレイリストをシェアする形になり、より便利に。表記も私の現役時代は「聴き会」だったのが今は「聞き会」が使われているみたいですが、じっくり耳を傾けるという意のがしっくり来たので、"聴"のほうを使わせてもらいました。
◆John Tremendous's Soft Adult Explosion
イオロスOBで別サークル(MMT)でもお世話になっていた先輩。
いるだけで面白いそのキャラクターが大好きなのと、作る音楽が素晴らしいので今回無理を言って参加してもらいました。
最近バンド垢を別にしたようで、それで初めてジョントレが名前でソフトアダルトエクスプロージョンがバンド名らしいということがわかりましたが、いまだに謎が多い。バンドとしては基本3ピースで活動していて、わたしは財布に3円しかない曲が好きです。
出だしから最後までメンバーの紙人形が動き続ける狂気のMV(上記)、タオルやグラスのグラビアしかないTikTok、先日出た初のアルバムなど、コンテンツは色々あるのでぜひチェックしてみてください。本人が一番面白いけど。
あと彼といえばSoundCloudの投稿量がすごいことで有名。あまりに更新頻度が高いため昔の曲はどんどん消えていく始末。悲しい…
その独特のサンクラには根強いファンがおり、特にこの曲は「SoundCloudで初めて見る波形」と一部Twitterで話題になりました。
私の一番のおすすめは「続・驚異のウルトラスペースワールド」です。全編通して神曲。すごすぎる。大ファンです。60年代のサイケに精通していて、イオロスでは一緒にコピバンをやらせていただいたこともあります。関係ないですけど彼は左利きなんですが、ふつうの右利きギターを弾いています。しかも初心者用の1万のやつらしい……がめっちゃいい音。聞けば、最初からそれで練習してたら安定してしまったそうです。もう天才って怖いな~。
◆UFO
イングランド出身のハードロック・バンド。1969年、Phil Mogg (Vo)、Mick Bolton (Gt)、Pete Way (Ba) が在籍するHocus PocusというバンドにAndy Parker (Dr)が加わった際、バンド名を「UFO」に改名して結成。
メタル・ギターの最高峰とも呼ばれる技巧派ギタリスト、Michael Schenkerを輩出した事でも知られる。
ロンドンのクラブ・シーンで活動し、1970年3月、イギリスのマイナー・レーベルであったビーコン・レコードと契約し本格的にプロの道へ。
デビュー当初は売れ行きが不振だった。
初期のUFOは、Deep Purple、Led Zeppelin、The Jeff Beck Groupなどからの影響を受けながら独自のサウンドを模索していたが、二枚目のアルバム『UFO2/Flying』で"One Hour Space Rock"というキャッチ・フレーズを掲げ、スペース・ロック的な音楽に接近した。
ドイツ公演でギターのMick Boltonが突然失踪したため、ドイツのScorpionsのギタリスト Michael Schenker が急遽代役を務めた。その後ミックは脱退し、後任は数名を経たのち、以前よりラブコールを送っていたMichael Schenkerの加入が決定。そしてバンドは全盛期を迎える。
1974年4月に発売されたアルバム『Phenomenon』は、「Rock Bottom」「Doctor Doctor」のようにMichael Schenkerの鋭角なギターを活かした曲がヒットし、英米で知名度を上昇させる。何名かセカンド・ギターやキーボードを加入させるも、Michael Schenkerと揉めて脱退や解雇が続く。そして76年12月には、両方こなすPaul Raymondが加入。この頃には英米だけでなく、日本やヨーロッパでも人気を博していた。
『Obsession』は、1978年6月にドロップされたアルバム。それまでライブアルバムは日本でのものしかリリースされていなかったが(1972年にリリースされた『UFO Landed Japan』が後にドイツ、イギリスでも発売)、同年12月にイギリスで8位をマークするライブ・アルバム『Strangers In The Night』が出ることを考えると、一番脂の乗った時期だと言えよう。
11話取材時に『Obsession』をPINK MOON RECORDSで発見し、メインにこそしなかったものの、ジャケットが印象的だったため密かに背景に。ちょうど聴き会の中でも話題に上がったので、今回も描いてみました。
UFOは人気バンドになったが、名声の裏側で、堅物なリーダーのPhil Moggと完璧主義で英語が不得手なMichael Schenkerはしばしば衝突し、精神が不安定なMichaelは失踪を繰り返していた。そして本作の発売直前の1978年11月、正式に脱退する。即座に後任を迎え再開するも、相次ぐメンバー脱退と音楽性の迷走によりセールスが伸び悩み、バンドは1983年4月に解散。
翌1984年末から何度かバンドを再開しようとしつつも失敗に終わり、1994年、ようやく最盛期のメンバーでバンドを再編成。復活アルバム『Walk on Water』をリリース。しかし、例によってMichaelが他のメンバーと衝突し途中で脱退するが、UFOのバンド名の使用権利を主張。
MichaelなしでUFOを名乗れなくなった2人はMogg/Wayの名での音楽活動を続けるが、2000年に三度目の復帰を決めたため、UFO名義での活動を再開させるも、2年ほどでまたしても離脱。だが今回はMichaelがUFOのバンド名の権利を放棄したため、バンドは代わりのメンバーを加入させ、安定した活動を行っている。2019年に創設メンバーのPhilが脱退。翌年にPeteが死去。
ほんとうにマイケルという一人の人間に振り回されすぎてて、他人事としては面白過ぎるだろ。それだけ彼が偉大だということでしょうか…。
◆ヒプノシス
イギリスのアート・グループ。メンバーはStorm Thorgerson、Aubrey Powell、Peter Christopherson。先ほど挙げたUFOをはじめ、Pink Floyd、ELP、Genesis、Renaissanceと、多数のバンドのアートワークを手掛ける。
1968年、StormとAubreyの2人で結成し、ロンドンを拠点に活動を始める。当初は出版物のデザインなどが中心だったが、Pink Floydの2ndアルバム『神秘』のデザインを依頼されたのを契機に(これに関しては、友人のRoger Watersからという話と、中心メンバーのSyd Barrettが同居人だったから、という説がある)、音楽アルバムのアートワークを中心に活動するようになった。74年にPeterが加わり3人体制に。80年代からはMVなど映像制作がメインになり、それに対応して映像会社「グリーンバック・フィルムズ」を設立するため、1983年にチームとしては解散。後に会社も倒産した。
ユーミンの『昨晩お会いしましょう』もヒプノシスの作である
その一時代を築いたそのアートワークは随所で伝説化されており、2017年にはカバーアートの全集も発売されている。サムネになっているフロイドの『炎』(1975)では、実際に人に火をつけて撮影を行ったらしい。
日本語版はこちら。
後述するBirth Controlのイギリスデビュー盤『Birth Control』では、一見スタイリッシュだが、裏をよく見ると極めて悪趣味な写真として仕上げている。(気になる方は画像をクリックしてdiscogsをチェックしてみてほしい)
今回漫画で描いた『Hoodoo Man』など、Heinz Doffleinの描くジャケ絵は過激ゆえに当時は一部のレコ屋で取り扱いを拒否されたそう。
ヒプノシスは英語で「催眠術」という意味。
当時はアー写が主流だったレコードジャケットを「アートワーク」として視覚的に変換し、様々な衝撃的な作品をニーズに応えて制作し、リスナーを”催眠術”にかけるように虜にしていったその手腕は、音楽ファンならずとも、もっと広く知られていいところだろう。
かくいう私は、聴き会の日まで『ヒプノシスマイク』しか知らなかったんですが(本当にプログレサークルですか?)、手掛けたジャケットを見たら「プログレ全部じゃん」っていうぐらい有名な盤だらけで笑いました。
ちなみにこころの入部エピソードですが、ほとんど私の実話です(笑)。かつて新歓が怖すぎて凍り付いた時の漫画を発掘したので、よければどうぞ。
この頃は廃部寸前かつ女子部員が私だけだったのですが、今はオンライン中心の活動ということもあってか、人数も増えて楽しそうです。漫画内で書いたように他大、2年以上はもちろん、高校生の子もいて和気藹々としてます。興味ある方はぜひ公式に連絡を取ってみてください✨
後半:ArtSpaceイオロス(ゲスト)
今回、有志の方に解説のほうをお願いしました。題材をくれた皆さん、解説をくれた皆さん、改めて本当にありがとうございます!
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弊サークルはプログレを中心とした、東日本唯一のバンドサークルです。King CrimsonやYesの王道プログレは勿論、MaxophoneやTai Phongのようなユーロプログレ、CAN等のクラウトロック、さらにはP-MODELやZELDAといったニューウェーブまでコピーしています。最近はサークル員のニューウェーブ率が高く、プログレ寄りの新入生を求めています。プログレ好きの学生は覗いてみてください。
また、今回の漫画で取り上げられたような「聴き会」も一種の伝統行事として行われています。現代音楽からアニメソングまでなんでも流してOKな非常に自由度の高い会です。他の人の持ち込んだ曲で素晴らしい出会いをすることもしばしばあるのが聴き会の魅力ですね。皆さんもご友人と聴き会を開かれてみては?思わぬ発見があるかもしれません。
◆Il Guardiano Del Faro - Amore Grande Amore Libero (by EPOCALC)
Il Guardiano Del Faroは、イタリアの作曲家・Federico Arduiniによるプロジェクト。当時としては先進的だったシンセサイザーによる自作曲を70年代に数多く発表し、彼のアルバムはイタリア国内で連日チャートを賑わすほどの好セールスを記録しました。
この曲は、75年に大ヒットを記録したアルバム『Amore Grande Amore Libero』の一曲。オーケストラをバックにシンセサイザーを粛々と演奏していくのはクラシック畑の彼らしい編曲です。この後名盤と言われる「Oasis」を発表。そちらは完全に電子楽器のみによるアルバムで電子音楽をポップスに取り入れた先進的取り組みのうちの一つとして取り上げられます。
しかしポール・モーリアなどと一緒にムード音楽の分野で語られてきた存在であったため、オルタナロックやヒップホップが主流になるにつれ音楽ファンからも忘れられいってしまいます。
そんな中、最近のアンビエントリヴァイバルによって彼に再び注目が集まることに。特に名盤Oasisは世界中のレーベルで再発され、今やイタリア国内だけにとどまらない存在になっていますね。
漫画内でも触れられていますが、プログレサークル的には彼がレコード会社の重役になった際レーベル内のプログレプロジェクトを差し止めたという逸話にも触れておきたいですね。彼に差し止められたと主張するバンドの一つにPangeaがあります。1stアルバムは幻の名盤と言われていましたが再発済み。ユーロロックらしい素敵なシンフォ系プログレです。
◆Mcdonald & Giles - Mcdonald & Giles (by @Seaweed_prog)
解説:涌嶋
ビートルズという指針の喪失、自我の発達、麻薬の蔓延などの要因から、1970年の英ロックシーンは良く言えば群雄割拠、悪く言えば混乱の渦にあったと思われる。レコード会社さえ次なる潮流の把握が困難だったのか、わけのわからんアングラバンドと契約しまくり、その結果、構想ばかりが先行するボンヤリとしたアルバムが大量に残された。
本盤もそのような時代の産物である。
タイトなドラムを中心とした高い器楽的力量がかろうじてこの混沌を(表面的に)まとめ上げているものの、音楽的ベクトルは散乱しており、高度に理性的なミクスチャーというよりも、先輩方の蓄積によりかすかに像を結んできた「イギリス的音像」を足掛かりにして、膨大なアイデアをかたっぱしから詰め込んだという方が実態に即しているだろう。結局、ばらまかれた種は何一つ実を結ばないまま、我々をやけに心地よい夢のような場所に取り残してこのアルバムは終わる。
B級なのは確かである。しかしB級アルバムからにこそ、当時の奴らが何をDNAとし、何に憧れ、何を蓄積し、何に直面し、何に挫折したかを伺い知(ったような気にな)ることが可能だ。自分はこういう無鉄砲な野心をこそ愛したいし、こういう混沌をこそプログレと呼びたい。なぜなら無茶な進歩主義こそがロックだからである。
◆Birth Control - Hoodoo Man (by 御納戸色)
Birth Controlとは、1966年に結成されたドイツのプログレッシヴハードロックバンド。1983年に一度解散したが、1993年に再結成。
2014年、バンド初期からドラマー兼ボーカリストとして活躍し、Birth Controlの屋台骨であったBernd Noskeが亡くなったために活動終了。だが2016年、残ったメンバーに過去在籍していたメンバーを再びバンドに迎え入れたことで活動を再開。今もなお精力的にライヴを続けており、今年6月にアルバムのリリースも予定されている、老舗中の老舗である。
今回のディグディガで登場したのは、1972年に発表された3枚目のアルバム『Hoodoo Man』。ジャケットは、ぶくぶくと脂肪を纏った醜女が目印。Birth Controlの持ち味である、プログレ的曲展開にのせたパワフルなハードロックサウンドと、それに劣らず鳴り響くオルガンを遺憾なく発揮している。作中でも話題になった『Gamma Ray』は、このアルバムの4曲目に収録されている。ガイガーカウンターを彷彿とさせるシンセサウンドから始まり、間奏のギターソロからのパーカッションソロ、さらにはNoskeのスキャットと、至れり尽くせりな楽曲である。
作中で語られたように、Kai Hansenはこの曲名を冠してパワーメタルバンドGamma Rayを結成。ちなみにGamma Rayは3枚目のアルバム『Insanity and Genius』で同曲をカヴァーしているので、そちらも是非聴いてみて下さい。
◆ジョン・ライドン(John Lydon)
John Lydon (Johnny Rotten) は英国パンクロックを代表するバンド、Sex Pistols のボーカルです。
同バンドは1975年に結成され、当時主流であったプログレなどを否定し、「オールドウェーブ」とみなす潮流を作ったバンドとも言われている。
音楽性としては単純なロックンロールでラジカルな歌詞が特徴的。そのラジカルさは、エリザベス女王在位25周年祝典の日にテムズ川のボートでゲリラライブを行った上に、皇室批判の曲 "God save the queen" を演奏する程だった。(後に逮捕) 同曲は英シングルチャートで最高2位を記録した。この破壊精神は全人類見習うべきだと思う。
78年のアメリカツアー最中にメンバーとの不和で彼は脱退し、後にPublic Image Ltd (PIL) を結成した。PILはピストルズとは一転して音楽的になり、ポストパンクの先陣を切ることになった。結成後も破壊精神は相変わらずで、サビで"This Is Not A Love Song"と言い続ける曲を作る程だ。最高。
今回のプレイリストはこちら。
以上、ディグディガ11.5話の元ネタ紹介でした。ありがとうございました!