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モバイル・マネー先進国ケニヤを襲ったギャンブル依存症の罠。
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MITテクノロジーレビュー(MIT Technology Review)は2022年05月19日に、国内GDPの2倍もの金額がモバイル決済されるアフリカ・ケニア。銀行口座を持たない人々を救い、金融包摂を実現すると期待されたモバイル・マネーは、今では深刻なスポーツ賭博の被害も生み出していると報告した。
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2018年のある土曜日の深夜、ヒッチハイクをしたダンプカーの助手席に座っていたビル・キルワ(Bill Kirwa)は、賭けのことをほとんど忘れていた。彼がその日の午後に賭けたのは、3大陸で開催されるサッカー4試合。ハーフタイムとフルタイムの両方でどちらのチームが優勢かを予想するという、長丁場のものだった。一文無しで路上に立ってヒッチハイクをしていたキルワは、帰りの車を探すのに必死だった。だから最初の3試合が予想通りになっていたことに気づかなかった。
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同じ頃、8000km離れたローマのスタディオ・オリンピコ(Stadio Olimpico)で、ロレンツォ・インシーニェ(Lorenzo Insigne_が強烈なシュートを放ち、SSCナポリ(SSC Napoli)はイタリア・セリエAの初戦を2対1の勝利で収めた。キルワの予想はこの試合でも的中していた。乗せてもらったダンプカーがケニア西部の高地を疾走している時、彼のインフィニックス(Infinix)製スマートフォンに通知が届いた。モバイルマネーで賭けた3500ケニア・シリング(当時約US$35)が、US$8500近くにもなったのだ。思わず歓喜の声を上げそうになったが、運転手を一瞥して思いとどまった。「気づかれたくなかったんです。」「生まれてこの方、あんな大金を目にしたことはありませんでした。」と、当時を振り返って言う。
https://time-az.com/main/detail/76892
現在26歳のキルワは、この大金を有効に使った。車を購入し、近くの町エルドレト(Eldoret)でウーバー(Uber)のような配車サービス「ワシリ(Wasili)」に登録し、ドライバーとして働くことにした。だが、ギャンブルを続け、やがて負けが込んでいった。わずか数年で、彼の大勝利は帳消しになってしまった。
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キルワの経験は、決して珍しいものではない。5年ほど前から、ケニアやアフリカ大陸各国の議員、地域社会のリーダー、研究者たちが、スポーツ賭博の普及に警鐘を鳴らしてきた。慣習化したスポーツ賭博は、キルワのケースよりもはるかに大きな一攫千金物語を生み出したが、一方で家庭が崩壊したり、大学の学費を使い果たしてしまったり、自殺に追い込まれたりする者さえいるという。
アフリカのスポーツ賭博は、完全にデジタル化されているわけではない。失業中の若者が集まる薄暗い賭博場は、長い間、町の風景として定着していた。しかし、スマートフォンや高速インターネット、銀行口座がなくても携帯電話で決済できるモバイルマネー・プラットフォームなどのテクノロジーが急速に普及したことも手伝って、賭博の場が以前より増してオンラインへ移行している。今なら、ほぼどこにいても賭博ができる。大学のキャンパス、僻地の村、そしてキルワが少し恥ずかしそうに認めたように、運転中の車の中でさえもだ。専門家は、こうしたアクセスのしやすさが参加者を増やし、アフリカ全土で賭博の中毒性を高めていると話す。ナイジェリアや南アフリカのような経済大国、コンゴ民主共和国のような貧しく国力の弱い国、アフリカ・ネイションズ・カップ(Africa Cup of Nations)の2021年優勝チームの本拠地セネガル(Senegal)のような多くのスーパー・スターを生み出したサッカーのメッカでは、オンライン賭博は後発ながら毎年50%ずつ成長している。
しかし、ケニアほど深刻にスポーツ賭博が流行している国は他にない。ケニアは、アフリカ大陸初のモバイルマネー・サービス「Mペサ(M-Pesa)」が誕生した国であり、アフリカ大陸におけるハイテク大国としてアフリカの「シリコン・サバンナ(Silicon Savannah)」とも呼ばれている。ケニアのモバイルマネー革命は、貯蓄を奨励し、金融サービスを利用する自由度を高めるのに大きな役割を果たしたが、賭博においてMペサが果たす役割は、ある種のパラドックスを示している。今日、不安定な経済状況にある人々が全財産を使い果たすことが、かつてないほど容易になっている。賭博の普及に関する推計はさまざまだが、米国の調査会社ジオポール(GeoPoll)が2021年12月に実施した調査の報告では、調査対象のケニアの若者の84%が賭博(Online Gamnling)をしたことがあり、その3分の1は少なくとも1日1回は賭けをしているという。キルワのように、大多数はモバイル・マネーを使ってスマホ経由で参加している。
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ナイロビにあるケニヤッタ大学のファビオ・オガチ心理学教授(Fabio Ogachi, a professor of psychology at Nairobi’s Kenyatta University)は、「ケニアで賭博をする人のほとんどは、娯楽としてやっているのではなく、お金を儲けたいからやっているのです」と言う。オガチ教授によれば、賭けをしているケニア人はかなりの割合でギャンブル依存症の兆候が見られると話す。例えば、失った賭け金を取り戻すために賭ける、賭け金を増やすために賭ける、自分の賭博習慣について嘘をつくといった行動だ。そしてオガチ教授は、スポーツ賭博の普及にはテクノロジーが大きく貢献していると付け加えた。「人々は長年モバイル・マネーを使ってきており、ビジネスには欠かせないものとなっています。オンライン賭博が登場したとき、モバイル・マネーと非常に相性がいいことが分かったのです」と話している。
モバイル・マネーがアフリカでこれほど普及し、賭博の流行を加速させることになったのは、ある意味では歴史の偶然と言えるという。アフリカのモバイル・マネーのルーツは、2006年にイギリスのボーダフォン(Vodafone)とケニアのサファリコム(Safaricom)が実施した実験にさかのぼる。この実験は、従来、銀行サービスから排除されていた人々が金融サービスにアクセスできるようにする方法を模索するものだった。
当初は、貧困者向けの小口金融(マイクロファイナンス)の融資(microfinance loans)と返済に、携帯電話を利用することを想定していた。しかし、ケニアでの実験の参加者たちは、ほかの用途に携帯電話を使い始めた。家族への送金である。若者が家族経営の農場を捨てて、都会で収入の場を探し続けるこの国では、モバイル・マネーは必要不可欠な新たなツールとなった。以前は親族への仕送りのためにバスや郵便を使って現金を送っていたが、信頼性が低く、料金も高かった。サファリコムは、受取人がデジタルウォレットから現金を引き出せるように、人間ATMのような役割を果たす代理店のネットワーク構築に多大な投資をした。M-Pesa(Mは「モバイル」、Pesa(はスワヒリ語で「お金」を意味する)と呼ばれるこのシステムは、やがてほかの決済サービスや融資サービスと提携し、最終的には完全に現金に代わる存在となり始めた。現在サファリコムには、ケニアの成人人口に匹敵する3000万ものMペサ・アカウントが登録されている。2021年3月までの12カ月間で、ケニアのGDPの約2倍に相当する1930億ドルもの決済を処理した。
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Pesaの成長は、実験の結果が示した通り、目に見える利益を生み出した。ケニア中央銀行(Central Bank of Kenya)によると、2006年時点で貯蓄、借入、現金以外の支払い(クレジットカードなど)といった正式な金融サービスを利用できるのは、ケニアの成人のうちわずか27%だった。M-Pesaのおかげで、現在では84%が利用している。経済学者のタブニート・スリ(Tavneet Suri)とウイリアム・ジャック(William Jack)が2016年に発表した研究によると、M-Pesaへのアクセスが、女性が自給自足農業から小売業に移行できるようにしたこともあり、ケニアの2%の世帯を極貧から引き離すことにつながったという。モバイル・マネーが普及した国々の研究では、モバイル・マネーの利用が金融ショックに対する回復力を高め、家計の貯蓄率を向上させることが分かっている。
GSMA(Global System for Mobile Communications Association)の報告によれば、2020年現在、モバイル・マネーは96カ国で310のサービスが提供され、3億のアカウントが開設されている。その半数以上がサブサハラ・アフリカ地域である。
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