第30回デジタル進化生物セミナー
第30回デジタル進化生物セミナーを開催します。
2023年3月23日(木) 15時〜
岡村 悠 博士
東京大学 大学院理学系研究科 植物進化学研究室 学振PD
「わさび食う虫も好き好き」の化学生態学
〜シロチョウの食草適応機構〜
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要旨
「蓼食う虫も好き好き」という言葉があるが、これは虫が人間の食べないような苦かったり辛かったりする葉を好んで食べている光景がもととなっている。一般に植物の持つこの苦味や辛味は、植物が身を守るためにわざわざこしらえた化学防御物質であり、多くの生物にとって忌避物質として働く。しかし、植食性昆虫は、自らの食草に含まれるこれらの化学防御物質を解毒する適応機構を進化させており、これによってこの“美味しくない”植物を主要な餌資源として利用できている。植物側の防御機構と植食者側の適応機構は、両者の相互作用が始まってから現在に至るまで、絶え間なく互いに影響を与え合っており、その共進化的な側面の理解は進化生物学や化学生態学において重要なテーマである。しかしながら、多くの場合、植食性昆虫の食草適応機構については理解が進んでいないのが現状である。
日本で春先からよく見られるモンシロチョウの仲間は幼虫時に様々なアブラナ科草本を広く食草として利用する。アブラナ科草本はわさびに代表されるような辛味成分を保有しており、これが一般的な植食性昆虫に対して強い忌避効果をもつことが知られている。一方シロチョウの幼虫はこの辛味成分の生成を抑えるタンパク質を腸内で発現していることが知られていたが、その詳細な解毒メカニズムや、進化的な側面の大部分は不明であった。本セミナーでは、シロチョウのこの食草適応機構に注目し、食草の化学組成に応じた解毒遺伝子の微妙な発現調整や、集団遺伝学的な解析からみた野外における小進化、ゲノム編集から見えたその生態的意義や、全ゲノムシーケンスから明らかとなった食草転換に伴った大進化的なパターンについて最近の発見を中心に紹介したい。
参考文献
Okamura Y. et al. (2022) Testing hypotheses of a coevolutionary key innovation reveals a complex suite of traits involved in defusing the mustard oil bomb. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 119(51), e2208447119
Okamura Y. et al. (2022) Microevolution of Pieris butterfly genes involved in host-plant adaptation along a host-plant community cline. Molecular Ecology, 31, 3083–3097.
Okamura Y. et al. (2019) Molecular signatures of selection associated with host plant differences in Pieris butterflies. Molecular Ecology, 28:4958–4970 DOI: 10.1111/mec.15268
Okamura Y. et al. (2019) Differential regulation of host plant adaptive genes in Pieris butterflies exposed to a range of glucosinolate profiles in their host plants. Scientific Reports, 9:7256
また、本公演のタイトルからAIで画像を生成しました。本講演内容とヒトの食事はおそらく関係ありません。