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「サーキュラーエコノミー」は日本にとってチャンスか脅威か?|イベントレポートvol.3

2022/12/19に開催したオンラインイベント「[メディア・VC・スタートアップが語る] 環境と社会の持続可能性に挑む!サーキュラーエコノミー新時代のつくり方」のイベントレポートです。本イベントレポートは、株式会社digglueが制作し、各社の許可を得て掲載しております。本レポートに関するお問い合わせはこちらまでご連絡くださいませ。​(文責:株式会社digglue 濵田智子)

📝イベント内容

  1. 「脱炭素社会実現に向けて サーキュラーエコノミー、循環型ビジネス構築の必要性ー国内外における循環型社会の現状についてー」環境ビジネス 尾見様・田中様

  2. 「国内外のサーキュラーエコノミーの現状と日本のクリーンテックスタートアップ」アーキタイプベンチャーズ 北原様

  3. 「国内のCleanTechが挑むサーキュラーエコノミーの新時代」digglue 原

  4. パネルディスカッション

イベントレポートの構成
▶︎vol.1:登壇1を掲載
▶︎vol.2:登壇2,3を掲載
▶︎vol.3:4パネルディスカッションを掲載(この記事です!)

4/14には新しいイベントを開催予定です(参加受付中)▶︎


パネルディスカッション|環境ビジネスメディア・アーキタイプベンチャーズ・digglue

ーーそれでは、ここからは、パネルディスカッションをスタートします!事前にご用意した3つのトークテーマと、会場からのご質問をもとに、登壇者のみなさまにお話しいただきたいと思います。

登壇者

📝ご登壇者紹介

Archetype Ventures Partner 北原宏和 氏
総務省にて、地域活性化施策の立案・実行、総務省全体の予算・政策方針の立案に従事。Boston Consulting Groupにて、情報通信、銀行・保険、製造などのセクターにおいて、企業戦略・事業戦略の立案に従事。Archetype Venturesに参画し、サーキュラーエコノミー、Climate Techなどサステナビリティ領域を中心に投資。fileforce社外取締役。

「環境ビジネス」編集長 尾見和則 氏 
1976年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして広告制作会社に入社。その後、業界紙の記者を経験し、日本ビジネス出版に入社。2016年に環境ビジネス副編集長を経て、2020年より編集長。

「環境ビジネス」編集企画部 田中倫太郎 氏
大手新聞社に入社後、エネルギー関連、エンタメ業界など幅広い業界の取材を通して、紙面、オンラインを通した企画などの立案に従事。環境ビジネスへ参画後は、脱炭素領域における販促マーケティングの支援を中心に活動中。

株式会社digglue(ディグル) 代表取締役CEO 原英之
「テクノロジーで持続可能な世界を実装する」をパーパスとする日本発の資源循環クリーンテックdigglueの創業者 兼 代表取締役CEOを務める。
カリフォルニア州立大学卒。商社の営業、ERPシステムエンジニアの経験を経て、digglueを創業。創業当初はエンタープライズ向けブロックチェーンの開発や新規事業などを行う。現在はサステナビリティ課題の解決に向け、サーキュラーエコノミーのDX領域に携わる事業を展開し、2022年7月には初の自社プロダクトMateRe(産業系廃プラスチックの資源循環DXプラットフォーム)のβ版を公開、ローンチに向けて開発中。
https://digglue.com/


サーキュラーエコノミーが「これからの日本」にもつ意味とは?

ーー最初のトークテーマはこちらです!尾見様、北原様のお話の中でも、サーキュラーエコノミーというテーマでは社会的な転換期という話がありましたが、一方で日本に目を向けると、人口減少時代を迎えて、経済をいかに成長させていくかといった問題にも直面しています。

そんな中でのサーキュラーエコノミーの世界的な潮流の変化というのは、日本にとってのチャンスとなるのか脅威となるのか。それはどういったところがポイントか。そのあたり、みなさんの見方をお伺いしてみたいと思います。

メディアからの視点を聞いてみたいのですが、尾見様、いかがでしょうか?

尾見)根本的なことですが、日本は資源の乏しい国です。で、日本が資源の少ない国であることは、今に始まったことではありませんーー歴史的にそうなわけです。その日本の歴史上、江戸時代には鎖国をして、資源の少ない中で非常に”循環型”の社会を構築していました。あらゆるものに問屋がいて、流通するシステムが確立していたと言います。これこそ究極的だなと思いますよね。

今の日本の状況を考えてみると、日本にはやはり資源が乏しいまま。ただ、高い技術がある。「もったいない」思想というのも、江戸時代から脈々と受け継がれているものでもあります。そう思うと、サーキュラーエコノミーというのは、実は日本人に適応しやすい思想・文化になっていくのではないかなというのが、私の考えです。


資源の奪い合いの中で、日本企業が「買い負ける」未来も

尾見)今後の世界に目を向けると、新興国が劇的に経済力を伸ばしていくでしょう。そして、資源の奪い合いが世界中で起こることが考えられます。日本企業はその競争のなかで、“買い負けて”いく可能性が、大いにあります。競争環境は厳しくなっていくでしょう。

この中で、日本が成長できるチャンス、強くなるチャンスがあるのが、サーキュラーエコノミーという社会の在り方なんじゃないかという気がしているんです。

ーーなるほど。江戸時代の循環型社会が、一つのサーキュラーエコノミーの究極の形だったというのは、興味深いですね。尾身様、ありがとうございました。
田中様は、同じく「環境ビジネス」の中で、企業への取材や記事制作に携わられていますが、どのように考えていらっしゃいますか?

田中)昨今ではCO2の可視化がキーワードとして、メディアなどでも目にされるんじゃないかと思うんです。サーキュラーエコノミーについても、カーボンニュートラルを目指すロードマップ上で、不可欠なものと感じています。

製造業の方とお話させていただくと、自社製品のライフサイクルを、上流から下流含めて、見える化していくことが非常に重要になっていくと意識を持つ方が多いです。その中ではやはりCO2と資源循環が鍵です。それが製品の環境価値の向上やカーボンニュートラルへの取り組みを進める、ポイントになるのではないかと思います。

ーー確かに、日本経済で製造業の占める比重は大きいですし、製品のライフサイクルという観点での環境評価も始まりつつあります。一方、サーキュラーエコノミーという文脈は海外が先行していますね。北原様は投資家として、国内外のさまざまな企業を調査されていますが、海外と比較したときの日本のサーキュラーエコノミーというのはどうなのでしょうか?

デジタルだけでなくリアルが絡む事業は、海外から参入しづらい

北原)海外、特に先行している欧州では、サーキュラーエコノミーというのは「環境政策」としてではなくて、「経済政策」として考えられているーーという基本の思想がまず違います。

スタートアップという文脈では、VCとして見ると、日本ではピュアなソフトウェア産業って厳しいな、という所感を持っています。そういうものって簡単に海外から入ってくることができるんです。すぐ市場も変わってしまう。Notion、Slackを使って仕事している方も多いでしょう。移り変わりは激しいし、海外から覇権をとるサービスが広まってくることも多い。

それに対して、制度が絡むサービス、リアルが絡むサービスは、簡単には海外から入ってくることはありません。そういった意味で、国内で事業を作る余地が十分にあるのが、このサーキュラーエコノミーの特徴かなと思います。

それと、製造業のフットプリントが日本産業でもある形になっているので、それをうまく使っていけば、日本発で海外でも活躍するサービスが生まれる余地もあるのではないでしょうか。そのような意味で、私はサーキュラーエコノミーへの転換は、日本が経済成長を遂げていく武器になるのではないかと見ています。

ーーありがとうございます。皆様、このテーマに関しては「チャンス」の側面を見ていらっしゃいますね。原さん、最後に事業会社として日本でサーキュラーエコノミーを進めている立場としては、「サーキュラーエコノミーがこれからの日本に持つ意味」、どう考えますでしょうか?


サーキュラーエコノミーで日本のものづくりに付加価値を

原)私たちのプロダクトの顧客も製造業です。日本の製造業って、知れば知るほど「すごい」と思うことが多いんですよね。品質の高さ。ものづくりへのこだわり。技術力。本当に尊敬できるところが多い。ですが、一つ思うことがあって。それは価格を安く提供してきたのではないかということなんです。

もちろん、コストを低く抑えるための努力は素晴らしいことですよね。その一方で、付加価値をもっとつけていくにはどうしたら良いかは、もっと模索する余地があると思うんです。ここにサーキュラーエコノミーがプラスに働く可能性があるのではないかと、そういうふうに思っています。

一方で、消費者の意識に変化の兆しが見えていることが、大きな意味を持つと思います。北原さんのプレゼンにもありましたが、若い世代で環境意識が強いというアンケートデータがありました。消費者の意識が変わってくると、企業側も環境配慮と品質向上の取り組みに付加価値を付与していくことができるようになるはずです。

ここで、海外企業にこの戦略を先行して取られてしまうと、また激化した競争の中に放り込まれてしまいますから、サーキュラーなエコデザインのブランド作りを先行して進めていくことが、今の日本企業にとって非常に重要なことかなと感じています。


サーキュラーエコノミーの社会的な転換期におけるスタートアップの役割とは?

ーー次のトークテーマはこちらです!国内では、先日政府がスタートアップへの投資額を2027年には10兆円規模、現在の10倍に引き上げるとするスタートアップ5ヵ年計画が出てくるなど話題になりました。サーキュラーエコノミーのスタートアップという観点ではどうなのでしょう。今回はVCの視点をまず伺ってみたいです。北原様、いかがでしょうか。

北原)ソフトウェアとディープテックというのがキーワードになるかな、と思っています。

まずはソフトウェアという観点で。サーキュラーエコノミー転換に向けて、今のデジタルの世界はまだ、資源や製品のリアルな流れを抑えられていない状況がありますが、ここから、既存の企業や業界をまたいで情報を把握していかなくてはならないでしょう。

スタートアップがここでチャンスかなと思うのが、一つはテクノロジー、そしてもう一つがスタートアップの持つ中立性です。既存の企業同士では、すでに競合関係があったりなどして、ある企業が音頭をとっているプラットフォームには、別のある企業は入りにくくなるという実情があります。そこに中立性をある程度持ったスタートアップが果たす役割は大きいのではないかと思うんです。

時間のかかるディープテックにこそ、投資を

北原)それから、ディープテックについて。ディープテックというのは、革新的な技術によって社会に深く根ざした問題を解決したり、社会を大きく変えたりするテクノロジー分野のことです。解決には社会的な構造の問題や人々の習慣や生活が関わりますから、これには、時間がかかります。

今のスタートアップへの投資は、ソフトウェア・インダストリーに傾きがちです。そちらの方が結果が出やすい。政府の今回の大きな後押しを得て、結果が出るのに時間がかかるディープテックの分野に資金が流れていくと、スタートアップが存在意義を強めるのではないかと思っています。

原)スタートアップに「色がついていない」ということ、確かに重要だなと思いますね。サーキュラーエコノミーというものを考えると、非常に多くのステークホルダーが関わるんですよね。それらをどうつなげていくのか。どの分野においても、これがとにかく大きなテーマになります。


“持たざる存在”のスタートアップだから、Win-Winを模索できる

原)さまざまな技術もあると思いますが、中立性を保ち、きちんと全てのステークホルダーと良い距離と関係をもち、Win-Winの関係を築くことができることーーこれが最も重要なことに思えるんです。そうなってくると、ある意味”産業を持っていない”スタートアップの、持他ざることが強みになるのかもしれません。

スタートアップはサーキュラーエコノミー時代にステークホルダー間をつなぐ役割を担えるんじゃないでしょうか。循環プロバイダー・・・という言葉もありますが、その”つなぐ役割”、”推進していく役割”を、スタートアップが担っていくといいのではないか、ぜひそういうふうになっていきたい、と思ってやっています。

田中)そうですね、大手企業とベンチャーが組む、というやり方も含めて、サプライチェーンの上流から下流までしっかりと繋いでいく役割は、スタートアップだからこそできるのかなと私も思います。今後、それをビジネスチャンスと捉えて出てくる企業も多くなるはずです。また、サーキュラーエコノミーを大きな潮流にしていくための役割も、スタートアップが果たしていくといいのではと、取材を通して感じることがありますね。

ーーそれでもやはり、メディアとしては「環境ビジネス」様でも、社会的にインパクトの大きな大企業の動きを取り上げる機会の方が多いかと思いますが、尾見編集長はいかがですか。

尾見)はい。取材を通して大手企業に話を聞くと、グローバル展開していて欧州拠点がある企業は特に、欧州の動きを注視しています。脱炭素を含めて、年々EUのレギュレーションは厳しくなっていますから。

そんな中で、スタートアップは技術力がチャンスになるのかなと思います。技術力があるからこそできることが、どんどん増えているというのも、サーキュラーエコノミー時代の特徴のように思っています。


サーキュラーエコノミー新時代に向かう課題

ーー最後のトークテーマが、こちらです。「サーキュラーエコノミー新時代に向かう課題とは?」各業界において課題があり、簡単に転換できるものではないという実態もあります。

ここで、お時間も迫ってまいりましたので、非常に良いご質問も会場からいただいていまして、こちらの質問とも絡めてご回答をいただき、本日のパネルセッションを終了とさせて頂こうと思います。

「サーキュラーエコノミーが一般認知されていくのに必要なことはなんだと思いますか?」というご質問です。こちらも合わせて、皆様にお伺いしたいと思います。

原)官民学一体でやっていく必要があります!これはありきたりに聞こえるかもしれませんが、本当にそう思います。

それから、サーキュラーエコノミー事業を進めながら事業成功する企業、高い利益を上げていく企業というのが出て注目されるようになると、たくさんのサービスが追随して出てくるとか、多くの企業が取り組みに本気になる、という転換点がくるのかなと思います。流れが変わる瞬間が、経済界の中でサーキュラーエコノミーについてもあるのではないかと思っています。

全てのプレイヤーが「資源循環」を自分ごとに考える未来

尾見)一般認知という意味では、意識の共有とその拡大ですね。脱炭素・カーボンニュートラルという流れはこの数年で、ものすごい勢いで浸透しました。これは気候変動を止めるためにはCO2の削減が必要だというロジックが、わかりやすく、共有されたのが要因だと思うんです。サーキュラーエコノミーの場合も、何かが”共有”されて、その認知が拡大していくときに、一気に広まると見ています。

田中)認知拡大は非常に重要ですね。他人事に思わなくなることが一つの鍵ではないでしょうか。今は「動脈産業」と「静脈産業」といったりしますが、そんな分け方も意味を為さなくなり、製品や資源のライフサイクルのどの瞬間に位置する企業も、資源の循環を自分ごととして考えることで、自社の循環型ビジネスモデルの構築が実現するものかなと思います。

今回のイベントもそうですが、例えばdigglueさんのように、サーキュラーエコノミーに取り組む企業のことも、もっと知っていただけたらいいなと思っています。

北原)そうですね。私としては、今回のイベントでもご覧に入れた「サーキュラーエコノミー企業のカオスマップ」をまとめる調査で、「調べてみたら、サーキュラーエコノミーの事業に取り組む企業は思ったより多かった!」という経験をしたんですよね。周りのキャピタリストと話しても、「そんなにあると思わなかった」という方が多い。

サーキュラーエコノミーという旗をしっかり立てて、それに基づいて情報を整理して、行動して、訴えかけていくーーというのが、基本的なことではありますけれども、結局は、重要なことだろうなと思っています。

ーーありがとうございました!最後、駆け足になってしまい申し訳ありません!オンラインで視聴いただいたみなさまも、ありがとうございました!


最後までお読みいただき感謝いたします。ありがとうございました!

また、最後に、今回ご登壇いただきました「環境ビジネス」尾見編集長、田中様、アーキタイプベンチャーズ北原様、有意義なお話をありがとうございました。


株式会社digglueでは、サーキュラーエコノミーやサステナビリティ(持続可能性)をテーマとしたイベントを定期的に開催しています。Peatixのグループをフォローしていただくと最新イベントの情報をお送りします!ぜひフォローしてください。(こちらから▶︎


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