見出し画像

ウルフズ・ワンナイト・スタンド ep-11 #ppslgr

前回までのあらすじ

空中戦艦をあと一歩のところまで追い込んだリキヤ、アイネ、A・Zの3人。しかし村を人質にとられ、手も足も出なくなってしまう。
このまま敵を逃してしまうかと思われたその時、リキヤの武装ファンクラブが駆けつけた。部隊長クレアと共に、3人は決戦に挑む。


「散開!」

 号令一下、灰色装甲のソウルアバター傭兵部隊が唸りを上げた。大型機も小型機も、箱型も流線型も、全ての機体がブースターから炎を猛らせ、砂煙と共に八方へ散る。上空のエイ型戦艦は高度を上げながら、ハリセンボンのごとく身に備えた迎撃機銃でそれを追う。凶弾の掃射が赤熱する雨となって砂漠に降り注ぐが、傭兵達はこれをかすり傷にとどめて躱していく。

「お返しだァ!」

 訓練された混沌のうねりともいうべき回避軌道の中からミサイルが打ちあがった。クレア機が背負うミサイルコンテナからの一発、それを皮切りにまた一発、また一発と誘導弾が放たれていく。ミサイルはすぐさま機銃の雨に遭って撃ち落されてしまい、なんとか火線を潜り抜けた物もバリアに掴まれて爆散していった。

 赤い雨を降らせる黒雲と化した飛行戦艦はさらに上昇していく。徐々に地表への死雨はまばらに、そして艦に届く攻撃も減っていく。そうしながらも船はぴたりと一点を見据え、微かにその巨大な口腔を赤く光らせている。砂丘に身を沈め、ライブステージの残骸を盾にこちらを睨む2機のSAを。盾はいまだに紫電を帯び、飛び上がる機会を伺っているようだった。

「ヘリ隊、野郎の頭を押さえろ!」

 そこへ彼方から別のミサイル群が降り注ぐ。10数機のヘリ部隊が列をなし、砂丘の陰から天空へ向けて飛び上がった。群れは戦艦の高度を超えると、迎撃機銃で針だらけの艦上面へ向けて次々とミサイルを射掛けた。

 同時に艦の下を駆ける機動傭兵隊、その内の重武装型達が各々の切り札を天に掲げた。あるものはクジラのごとく巨大なミサイル。またあるものは陽炎を吐く大質量弾射出用電磁加速砲。戦車程度ならば粉と飛ぶ破壊兵器の数々が弾雨の中で屹立した!

「撃ちまくれェい!!」

 クレアのマイクロミサイルが飛ぶ。戦艦の機銃がこれを掃射、あっというまに爆散させ、ぶどうの如き爆炎を空に実らせる。その煙を裂いて大型ミサイルが飛翔!バリアへ着弾する直前に爆発し、数十万の散弾が不可視の城壁へ突き刺さる!
 大しけの海原もかくやという荒れ模様を見せるバリアへ、マッハ10に届かんばかりの弾丸が追い打ちをかける!電磁加速による槍はバリアの摩擦で削り飛ばされていくが、その残り滓が速度を保ったまま障壁を抜け、戦艦の黒い装甲を切りつけた。

 それでも戦艦は上昇をやめない。傭兵たちに焙られ、削られてもなお不可視の盾で身を固め、真っ白な玉となって空を上っていく。

 その白濁した球体から極太の熱線が照射された!
 唸りをあげて空気を焼くエネルギーが向かう先には、リキヤとA・Z!

「だめかっ!」

 複合重機巨人がステージ天蓋の盾を振りかざし、熱線を受け止める。その巨体の陰で冥王は首を振った。ギターをか細く紡ぎ、紫電の狼を編み上げていたその運指を早め、胸元に抱いた獣を解き放つ。獣はゴロゴロと唸りながら熱線に喘ぐ盾にすがりつき、紫電の渦となって宿る。冥王の指先が高く弦をはじくと、致死の熱線をからめとった紫電が八方に散り、小さく破裂して消えた。

「すまねえクレア。しくじった」
「いいや。あの野郎、最初っからオレらは眼中に無しだ。頭くるぜ」

 頭上から降る機銃掃射をかわしながら、クレア機はカメラアイとレーダーで敵艦の腹を見上げる。武者の矢筒に似たそのレーダーはクレア隊が敵に与えた損害を捉えた。傷は多い。だがいずれも小さい。女傑は舌打ちして表示を睨んだ。

 A・Zも同様にレーダーを見ながら歯噛みしていた。急ごしらえの対艦回転鋸。その有効射程範囲からエイが外れつつある。いま放てばぎりぎり間に合うかもしれない。だがそれは敵からの反撃を受けなければの話だ。敵の盾は、A・Zとリキヤの合体技に一瞬ではあるが抗った。船は二度目のダメージで大きな被害を受けるだろうが、引き換えに二人は熱線砲をもろに浴びるに違いなかった。

「このまま、見逃すしか無いのかよ!」
「いいや、もう一度だ。もう一度やる。オレ達でさっきのバリア攻撃を誘う。その隙に」
「ええ、畳みかけましょう」

 砂丘の頂から、ラフィングジェミナスがブースト光の尾を引いて飛び上がった。その背には再び大型バックパックが負われている。小柄な機体に不似合いの大出力ブースターが吠えると、ジェミナスは戦艦を追って飛ぶ輸送ヘリに追い付き、機体下部のSA用ハンガーを掴んだ。

「ただし囮はクレアさんとリキヤ。A・Zは私に付き合ってもらうわ」
「なに言ってんだ。リキヤとそいつがいなきゃ、さっきの技は」
「いや、残念だがセッションはもう届かねえ。さっきのが最後のチャンスだった」
「んだと?!それじゃどうやって―――」
「どうにかやるのさ」

 A・Zは冥王を守るように盾を砂地に突き立てて身をかがめた。膝をつくと巨人の両足に緑光が走り、分離し、分解していく。細身の機体に大きな両腕という一見するとバランスの悪い恰好。A・Zはそれを目視確認し、小さく頷いた。

「幸い、追いかけるのは得意だ。ご一緒するよ、アイネちゃん」

 ◆

 クレア麾下全機が、逃げる戦艦を追って動き出した。地上にある者も空中にある者も皆、空飛ぶエイめがけて発砲する。戦艦のバリアは砲火にあぶられて真っ白に染まり切り、まるで真珠のように輝き始めた。

「衝撃波、来るぞ!」

 クレアの警告にあわせて一斉に灰色のSA軍が退く。瞬間、白い波濤が全方位に向けて放たれ、天地を震わせた。地上を駆けるSA部隊は突風と振動で機体をぐらつかせ、砂地に蛇行の跡を刻む。かたやヘリ部隊も大きく機体を揺さぶられ、減速を強いられる。しかし衝撃波回避のために散開したヘリ部隊は、いまや鶴が翼を広げたような陣形でもってゆるやかに戦艦を包囲していた。

 そのヘリ群を飛びわたる巨影2つ!

 左翼にラフィングジェミナス。曲芸のようにヘリ下部のハンガーに取り付き、掴んでは前方回転し、次のヘリへ飛びついていく。

 やや遅れて右翼より複合重機巨人。アンカーを射出してヘリ機体を掴めば、ワイヤー巻き上げ機構によってヘリからヘリへ飛び移っていく。その速度は凄まじく、あっという間にアイネを追い越して先頭のヘリを掴んだ。

 戦艦の迎撃機銃がヘリ群へ向けて回転する。A・Zはワイヤーをしならせて空高くへ舞い上がり、ヘリ隊の前へ出た。アイネはヘリと共に後退して射線を切る。最も手近なA・Z機へ標的を変えた機銃群は駆動音を高鳴らせ、ゆっくりとその落下軌道を追う。無数の迎撃機銃を備えた敵艦上部。まるで針の大地のようなそこへ飛び込んでいきながら、A・Zは唇をなめた。

 対空火器群が火を噴く、まさにその瞬間。複合重機巨人のアンカーが明後日の方向へ放たれた。
 青い空をアンカーヘッドが横切る。その行く手へ一発の大型ミサイルが滑り込み、猛禽のごときその爪を受け止めた!

 対空機関砲がA・Zを襲う!ワイヤー巻き上げ機構が機体を高速で横移動させるが、左脚部先端が砲火に千切り飛ばされた。宙を舞うその残骸はなおも火線の上で踊る。

 逃げる重機巨人を追って機銃群が回頭する。しかしその射線状が白く濁った。地上の傭兵隊からの砲火がバリアをつるべ打ちに叩き、A・Z機を隠す。

 その弾幕の後方、砂丘の上で立ち上がる機影あり。ライフルもミサイルコンテナも、あらゆる武装を降ろしたクレア機が屹立した。その両の手で振りかぶるは、今夜のライブステージを覆うはずであった銀色の天蓋。
 灰色の機体は両足を砂地にしっかと踏ん張り、全身の関節アクチュエーターを湯気が出るほどに加熱させていた。

「やれ!クレア!!」

 足元に跪くは冥王機。ギターを縦に構え、常人の目では追いきれぬほど素早い運指で弦を弾く。そこから生まれ出でた紫電は無数のセントエルモの火となり、天蓋の縁を彩った。

 リキヤの号令に、クレアは満面の笑顔を弾かせる。そして、吠えた!

「うおおおおりゃああああ!!」

 怒号にジェネレーターが応えて轟音を上げる。太い脚部が地を踏みしめ、その反力と機体関節部が生み出す揚重力の合力がまとめ上がる。腰部を、そして両腕部を振り抜き、天蓋は再び戦輪となって空高く舞い上がった。

 紫電を帯びた戦輪は艦ではなく、艦の遥か頭上めがけて飛んでいく。その軌道をいぶかしむように、エイの背負う機銃たちが控えめに旋回してあとを追った。

 戦輪は何もない空を飛んでいくかに見えた。その孤独な飛行を追う機銃群の視界に、一発の大型ミサイルが滑り込む!

 重機巨人は大型ミサイルを蹴って飛び、アンカーでもって戦輪に食らいついた。ワイヤーロープがぎしりと軋み、戦輪の軌道が傾く。
 A・Zはその手応えに頷くと背部ブースターを迸らせ、一気に戦輪との距離を詰める。そして空中の戦輪へと強引に着地した。巨人の衝突が、さらには遠くから響くリキヤのギターが戦輪に宿る紫電を震わせ、戦輪の軌道を変えた。

 重機巨人のカメラアイが、A・Zが、戦艦の黒い背を睨み据えた。

「捉えたぞ、真芯!」

 黒きエイが震えた。上部装甲が一斉に開き、ミサイルが飛沫をあげて打ち上げられ、頭上の脅威を撃ち落さんとす!だがA・Zは意に介さず、雷光をまとった薄刃を真っすぐに蹴り込んだ!

 戦輪がミサイルをくぐり、速度を上げる。
 A・Zの視界をクレアがリキヤへ伝える。
 リキヤは戦艦の中央を見据え、ギターをかき鳴らして戦輪の軌道を調整する。

 飛行戦艦は金切り声のような音を立て、迫りくる断頭斧へ不可視の障壁を叩きつけた。だが回転する凶器は止まらない!
 バリアが波を打って戦輪を傾かせようとする。その波間へさらに深くえぐり込む。バリアの波はますます高まり、戦輪を傾けていく。紫電が最後の輝きを放って戦輪を加速させ、バリアへ押し付けた。トンネル掘削シールドドリルがごとく、バリアへ張り付き、削り取る戦輪!不可視の盾は白い稲妻を放って輝き、足掻く!

「仕上げよ」

 ラフィングジェミナスがヘリを蹴って跳躍した。
 沈みゆく陽光を背にバックパックが大きく展開し、細身の手足を包み込む。重装甲の大熊と化した紫紺の機体は荒れ狂うバリアの海へ頭から踊り込み、太い両腕を振るった。迎撃機銃とバリア諸共、赤熱する大爪を備えた豪腕が滅茶苦茶に薙ぎ払う!

「レーザートーチ、オンライン」

 上空からワイヤーを手繰り、重機巨人が落ちてくる。右腕レーザートーチを青ざめた光とともに引き絞りながら、熱線砲へ向けて真っ直ぐに。
  なけなしのバリアが巨人を受け止める。次の瞬間、トーチの極大熱量がバリアを突き破った。

 風船の割れる音を立て、不可視の壁は散った。

 戦輪が火花を上げて艦表層を削り飛ばす!
 ラフィングジェミナスは艦深くに両腕を突き込む!
 複合重機巨人が熱線砲を両断する!
 空中、地表の全SA部隊が一斉に射撃する!

 ■

 冥王の如き威容のソウルアバターは、地響きを立てながら身を起こした。
 彼方の空が爆炎と閃光に満ち、やや遅れて強い風と音とが砂漠を震わせた。きらきらと輝く粒子が舞い、その中を2機のソウルアバターが舞い降りて行く。

 冥王の両肩、そして胸の狼頭三首が勝鬨を上げる。リキヤは深くため息を付き、そして笑った。

「まったく。ずいぶん派手な前座だったぜ」

 ◆

 【目次】

 ◆

本稿は以下の物語の二次創作小説です。スーパーロボット活劇!

筆者は以下の物語を連載中です。


サポートなど頂いた日には画面の前で五体投地いたします。