近未来建築診断士 播磨 第3話 Part2-1
近未来建築診断士 播磨
第3話 奇跡的な木の家
Part2 『現場調査』-1
「どうなってるんだろ、これ」
見れば見るほど興味の尽きない家だ。車のダッシュボードに置いたプロジェクタから映し出される三次元写真をぐるぐる回しながら、思わず呟いた。
ワイルドなんて一言ではとても言い表せないガタガタの床、壁、天井。だというのに住めそうにもないかと問われれば、そんなことはないと応えるだろう。写真で見る限り、少なくとも頑丈そうではある。
「いつまで写真みてんの」
運転席の女はハンドルを握りながら呆れ顔でこちらを見た。その姿は仕事用のいでたち。伊達眼鏡にお団子頭。汚れても一切問題ないミリタリー風ジャケットにズボンという隙のない姿だった。
「これから嫌でも見るってのに」
「少しでも心構えしておきたいんだ。こんな建物、見たこともない」
へぇ、と春日居燕は気のない返事をする。それが無関心からくる態度でないことが、最近わかりはじめた。表面的には非協力的だが、実際は真面目に仕事をこなす。
「そんなレアもの仕事に、ウチみたいな素人連れてっていいの?」
「欲しいのは人手だからね。この透視スキャナはドローンに乗せられない。だから室内の調査はぼく。きみは外回りを歩いて、断層写真を揃えてくれ」
「ドローンと同じ扱いってことね。せいぜい給料分は働きましょ」
「頼むよ」
車が曲がり角を曲がると、行く手にスーツ姿が2人見えた。片方の大男は作事刑事だ。とするともう片方が、同期の市役所職員だろう。
その傍らには、こんもりとした緑の塊。
「愛想良くね」
「わかってる。ツバメちゃんは猫かぶり、得意なんだぜ」
■
「播磨宮守と申します。こちらは助手の」
「春日居燕です」
「本件担当の釣瓶と申します」
ホログラフIDを受け取り、VRグラスの隅にはり付けながら釣瓶氏の風体を確かめた。
釣瓶氏は恐らく年上というくらいの若手。厚い眼鏡をかけた腰の低い男だった。作事刑事と並んでいるせいもあって、ずいぶん小さく見える。
「すでに写真はお持ちかと思いますが、こちらがその物件です」
釣瓶氏がきびきびと指差す先には、先ほどから見えていたツタの塊が鎮座している。想像通り、普通の2階建住宅だ。屋根も窓も特別な形ではない。ただその全てが緑のツタで埋もれているため、なにもかも異質に見える。
「いやーよく買おうと思ったなこれ」
「買わざるをえなかった、というのが正直なところです。はい」
作事刑事と釣瓶氏は気さくに話し合っているが、こっちはそれどころではない。唖然とする。いったい前の家主はどういう人物だったのか。普段どんな生活をしていれば、こうまでツタの生い茂る家を作り出すことになるのだろう?
冬場だというのに濃く深い緑の葉が茂る。本来の外壁は、それらをかき分けないと見ることができない。かき分けたところで、モルタル塗りの外壁は縦横に走るツタが蹂躙してまわっており、どこがヒビでどこが枝なのか判然としない。
外壁がこれでは、内部はそうとうのダメージを負っていることだろう。