ウルフズ・ワンナイト・スタンド ep-10 #ppslgr
スーパーロボット、ソウルアバター(略称:SA)乗りロックミュージシャンのリキヤを襲うは黒きエイ型空中戦艦。火力と防御力で三機は圧倒され続け、ついには敵主砲が放つ熱線にリキヤが飲まれてしまう。だがライブステージの残骸が彼を助けるのだった。
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エイ型戦艦は身震いして背部ウェポンコンテナ全てを解放する。16ビートの如き重低音の乱打と共にありったけのミサイルが冥王機へ向けて解き放たれた!
「させない!」
ラフィングジェミナスの分離狙撃機が空を睨んで長射程ライフルを撃ちまくれば、ミサイル群が端から吹き飛んでいく!だがミサイルはさきほどの密度とは比べものにもならない。撃ち漏らしたものが速度を増していく!
「リキヤさん!」
そのミサイルを迎え撃たんと構えていた冥王にワイヤーが届く。リキヤはすかさずこれを掴み、跳んだ!A・Z駆る複合重機巨人はマグロ一本釣り漁師めいてウィンチをうならせ、冥王機を力の限り引き寄せる!
上空から迫りくるミサイルレイン。冥王機は牽引され、砂地を跳び跳ね、その雨の下から逃れんとする!すれ違うミサイルと冥王機!近接信管が作動し、後方で爆炎の花が咲く!
冥王機は咄嗟にテージ天蓋を傘のごとく掲げ、衝撃波をしのぐ。爆発圧に押されるまま、リキヤはさらに跳んで砂丘の影に滑り込んだ。
「リキヤさん、無事か」
機銃掃射に追われながら、A・Z機がキャタピラを唸らせて駆けつける。リキヤはその姿を認めて息をつき、複合重機巨人にむけてサムズ・アップしてみせた。
「おう。ピンピンしてるぜ」
「よく言う。こっちは炙られたおかげでススまみれだ」
「歯が欠けてないだけ、まだましでしょ」
狼頭達は不平をこぼしながらも熱線砲による損傷を自己修復していく。その間、冥王機は円盾を砂地に突き立て、己を救ったワイヤーを盾へ括り付けた。
「これ頼む」
「え」
A・Zが疑問を挟もうとするうちに冥王機は複合重機巨人と背中合わせに立つ。そっと機体重量を巨人へ預けると、戦斧の如きギターを静かに爪弾きはじめた。ギターを走る紫電は背中伝いにA・Z機を、アンカーケーブルを、天蓋円盾を包み始める。
「あいつ目掛けて投げてくれ。これならきっとあのバリアも」
「破れるんですか?!」
「ぶっつけ本番だけどな」
冥王機の運指は低音を素早く叩き、徐々に速度を上げていく。狼頭達の遠吠えが掛け合い、ぶつかり合い、高まっていく。
A・Zは小さく首を振りながらも素早く敵艦と現在位置を計算する。あわせてD・A機とコンタクトをとった。
リキヤのインストゥルメンタルが辺りに満ち、紫電が円盾を妖しく輝かせる。そこへキャタピラを唸らせながら鋼色の重機が現れた。
「操作権限の一時移譲を確認。借りるよ、D・A」
重機はA・Z機の足元に擦り寄ると真っ二つに割れ、重機巨人の両脚部と一体化した。機体の背を冥王に預けながらひとつ、ふたつと大地を踏みしめる。コクピットでA・Zの指が滑らかに動き、合体の辻褄を合わせていく。認証が通ると、脚部連結箇所に赤い光線が走った。
「アンカー、セット!」
四股を踏むように右足が砂地を叩く。柔らかな大地が一瞬に踏み固められ、同時に脚部側面に備わったアースドリルが回転貫入、大地に食い込む。左足も同様に地を掴み、もはやA・Z機の脚部はびくとも動かない。
複合重機巨人は両手で円盾のケーブルを掴み、ハンマー投げの要領でそれを振り回しはじめた。
回転数が上がっていく。紫電が迸る。2機の頭上はいまや紫の光傘に覆われたかのようだ。
「行くよ、リキヤさん」
「おう!方向修正はまかしとけ」
いまや冥王機はA・Z機の足にすがるようにうずくまっている。竜巻のように回転するA・Z機の右腕、その回転が、解き放たれる!
「射出ッ!!」
紫電の回転体が空高く舞い上がった!
「いくぜッ!ハウリング・ウィズ・ザ・ムーン!!」
冥王機の鉤爪が霞むような速度で弦を叩き、紫電エンチャントされた円盾が雷火を放つ!中空で姿勢制御を受けた円盤はその速度を増し、空中戦艦へと肉薄する!
ラフィングジェミナスを機銃掃射で追い回していたエイ型艦は、一瞬たじろいだように全兵装を止めた。雷光をまとって殺到する丸鋸のような物体を認識すると、我に返ったかその身を震わせ、バリアでもって真正面から回転体を受け止めた!
不可視の盾が轟音を伴って丸鋸の如きものを挟み込む!だが回転は些かも衰えない!冥王のギターと狼頭達の唱和とが猛り上げ、バリアの奥へ奥へと刃を押し込んでいく!
「まだまだァ!」
A・Z機が右腕を打ち振るい、ワイヤーを波立たせる!鋼線のしなりが紫電の飛沫をあげながら走って戦輪に届けば、戦輪はその軌道をかえてさらにバリアへえぐりこむ!切っ先が黒き船体へと、届く!金属を削り断つ音が空に轟いた!
だが次の瞬間、回転体は艦の表面を撫ぜながら弾き飛ばされた。
「何?!」
「効かないか……!」
「違う、バリアの角度を変えて受け流したんだ」
アイネは分離狙撃機と合流しつつ、下から空中戦艦を見上げる。エイの下部装甲は頭の方から尾へ向けて一直線にえぐれ、切り裂かれていた。その傷口からは火花が滴り落ちているが全体的に浅く、尾の方では自己修復によって少しづつ傷がふさがり始めていた。
弾かれた回転体はヨーヨーのごとくA・Z機のもとへ戻っていく。幾分衰えたその速度を、腕を振って再び加速に乗せた。
「だったら今度は船の真下からだ。次こそ真っ二つにしてやる」
応えるかわりにリキヤは高らかに歌い上げ、衰えた円盤の紫電に活を入れる。戦輪が風を切って笛のような音を立てると、それに怯えるかのように戦艦は高度を上げはじめた。
「あいつ逃げる気か」
「こっちに腹を見せるなら好都合だぜ。最後の一発―――」
その時、三機は同時に小さな振動を感知した。アイネがすぐさまレーダーを見、新たな光点を見つける。反応からしてモグラ型SA。戦地からやや離れたところに出現している。
素早く振り返りその方角を見る。ジェミナスのカメラアイが彼方の砂丘の上、もったいぶった仕草で胸部キャノンを展開するモグラ型SAを捉えた。その火砲が狙うのは
「二人とも待って。村が、敵の射程に入った」
「は?!」
「くっそッ!」
崩落都市に寄り添う廃墟のような村落の周辺。そこに一機、また一機と灰色軟泥装甲のSAが顕現していく。虚ろなその巨人達はゆらりと、町へ歩を進めはじめた。
リキヤの演奏が止まった。A・Zは振るいかけた戦輪を引き戻す。一方、消沈する二機を見下ろしながら黒エイはゆっくりと高度を上げていく。ワイヤーを握りしめる重機巨人の傍らで、狼頭達がぎりぎりと歯噛みした。
三機のコクピットに、新たな警報が鳴り響く。
「……まだ来るの」
「今度はなんだ」
「都市の向こう側よ。低空で侵入してくる機影多数」
徐々に傾いていく太陽の下、陽炎に歪む砂丘の彼方からいくつもの影が浮かび上がってきた。群れは砂の上を滑るように飛び、廃墟都市めがけて突き進んでくる。
上空の戦艦がジェット噴射を伴い、急速に上昇を始めた。
「あれは―――」
リキヤと狼達はあっけにとられて口を開けた。
陽炎の帳を破って姿を現したのは、灰色迷彩を施したダブルローター機の大群だった。ラフィングジェミナスの望遠には全機の側面に描かれたヒョウのデカールがはっきりと見えている。アイネはモグラや軟泥巨人と毛色の異なるヘリ群を困惑と共に見つめた。
「ちがう、連中じゃない。あれはどこの……」
『リキヤァ!てめぇ!!』
頂きに立つ大モグラの胸部キャノンが火を噴いた。都市への砲撃かと見えたそれは、しかしあまりにも大きな爆炎で当のモグラを包む!
立て続けにリキヤ達のスピーカーから女の胴間声が響き渡った!
『次のライブ会場くらい教えろよッ!!』
「クレア!!」
灰色迷彩ヘリ部隊から次々にSAが降下し、軟泥装甲巨人に突撃していく。SA達は瞬く間に巨人達を組み伏せ、砂漠へ釘付けにしてしまった。さらにヘリ部隊のうち数機が廃墟都市群をかすめて上昇し加速。退却しつつある飛行戦艦へ向けて砲撃を開始した。
「リキヤさん、知り合いか?」
「厄介な知り合いだよ。おいクレア、どうしてここが」
『自力に決まってんだろ。最後の一歩はお前のバイトに助けられたけどな!』
ヘリ群の掃射を受け、戦艦のバリアが白熱する。クレア率いるヘリ部隊は戦艦を中心に取り巻き、ありたけの̠火線を集中させた。バリアが焼けただれたように白濁していく。ついには球体の内部が視認できないほどになった。
その時、バリア障壁がかすかに収縮した!
「危な―――」
リキヤの警告も間に合わない。バリアはさく裂し、光の津波となって全方位に解き放たれた。吹き飛ばされて制御を失うヘリ群を戦艦の迎撃機銃が襲い、次々と蜂の巣へ変えていく。制御を失って失速したヘリ群は炎を上げて落下していった。エイ型戦艦は勝ち誇るかのように、またもバリアのヴェールをまとう。
リキヤの目の前で墜落していくヘリ群。だが、落下の途中でそれらはこつ然と姿を消した。
漆黒の戦艦下方、砂漠の上にゆったりと立つ者あり。遠目には少年か老人か判然としない。その人物がするりと腕を揺らすと傍らに輝く円陣が生じる。ひときわ強く光が瞬くと、その中から人々が吐き出されて砂漠の上に転がった。
豹のごとく引き締まった体躯の女傑はあっけにとられてあたりを見回し、頭をかきながら立ち上がる。
「あー……スマン、助かった」
「大丈夫かい?」
「問題ねえ。悪いな、何から何まで」
『クレア!無事か!』
「……当たり前だろ。この程度でくたばってたら、なんのために出てきたかわかりゃしねえ」
そう言ってクレアは己の頬を張り、小柄な人影に歩み寄った。
「こっからは任せてくれよ、魔法使い殿」
「ああ」
クリームホワイトの髪が風にゆられ、小柄な人影がふわりと上昇していく。中空で魔法陣が瞬き、その身を包む。
ついと物憂げな眼が動き、A・Zの駆る巨人を見た。
『M・K。来てくれたのか』
「うん。でももう次に行くよ。そろそろ助けてあげないとね」
そう告げて複合重機巨人に向けて軽く会釈すると、魔術師は日差しの煌めきの中へ消えた。
「さて」
見送りを終えると、クレアは高々と端末を掲げた。部下の男たちもそれに続き、一斉に構える。
「行くぞお前ら!」
「「応!」」
「「「マテリアライゼーション!!」」」
砂漠の上に光が満ちる。強い風が砂塵とともに光を舞い上げると、そこには灰色迷彩色に統一されたソウルアバターの軍勢が膝をついて整列していた。軍勢は統率された所作で立ち上がり、手に手に重火器を携える。
そして頭上の獲物を見上げた。
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本稿は以下の物語の二次創作小説です。スーパーロボット活劇!
筆者は以下の物語を連載中です。
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