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近未来建築診断士 播磨 第3話 Part3-3

近未来建築診断士 播磨

第3話 奇跡的な木の家
Part3 『解析』-3

【前話】

 明くる日、旧市街の一角にひっそりと店を構えるリサイクルショップ。その奥に雑然と並ぶ検査機械の前でARオフィスを展開した。
 傍らには春日居燕とその母、翡翠。

「あんたちゃんと仕事してたのねぇ」
「当たり前。超有能な助手よ、ウチ」
「播磨くん大丈夫?この子、迷惑になってない?」
「大丈夫ですよ。多少がめついくらいで、よく気のつく助手です」
「オイひとこと余分だ」

 検査器は駆動音を立てて試料をスキャンしている。そのログデータを眺めつつ、『木の家』の断層写真データを見る。

 エラーも多いが、それ以上にこの家の異常さが目立つ。外壁のツタ、内壁の板張り、生木の柱。これらから伸びる枝等が絡み合い、溶け合い、渾然一体となっているように見えるのだ。

 それだけではない。当たり前といえば当たり前だが、これらの植物は基礎のコンクリートを迂回して敷地周囲に伸びている。つまり、あらかじめ植える場所が決まっていてその部分はコンクリートを打つことを避けた、というわけではない。コンクリートがあるところに、あとから生えさせたのだ。
 柱だけは例外で、基礎を一部解体して地面を露出させて植えたようだ。

 壁面緑化や屋上緑化は土が全てだと聞く。土の量と、その土の細菌環境をいかに整えるかが重要なのだそうだ。だから新築で行われる緑化は細菌学者がオブザーバーとしてつくのが通例だ。

 この家はどうだろうか。この生え方を見ると、緑化が目的とはとても思えない。建物と木々を一体化させる、それこそが目的でなければこんなことはしないよう思える。あるいはこれも手段の一つに過ぎないのだろうか。

 ふと親子漫才が途切れていることに気がつく。振り向くと春日居燕がいなかった。データの渦を眺めている春日居翡翠と目があう。

「ああ燕?お茶取りに行かせたよ」
「いえ、特に用があったわけでは」

 思えば春日居翡翠をまじまじと見るのは初めてだろうか。
 年齢はおそらく50手前。娘と似たぼさぼさの癖毛をボブカットにしている。着飾ってはおらず、部屋着姿で化粧も薄い。外見に気を使わないところも親子らしい。

 彼女はゆるめだった表情を少し引き締めた。

「時に播磨くん、例の社長とはその後どう?」
「ああ。音沙汰なしです」

 山田太郎社長。斡旋業と情報屋を営む胡散臭い人物。彼とは先日支払い凍結をして以来、連絡をとっていない。普通であれば向こうから連絡をかけてくると思うのだが。

「やっぱりか。娘のことを感づいてるのかもね」
「どうでしょう。こちらから連絡すれば通じるかもしれませんが、正直なところ用はありませんね」
「ほんと?仕事無くて困ってるって聞いたよ」
「大丈夫です。いまのところは」

 事務所を開業してからしばらく、仕事の斡旋は山田社長頼みだった。大いに助けられたことは間違いないが、いまではそれなりに軌道に乗っている。
あくまで、それなりにだが。

 それでも再び山田社長の世話になろうとは思わない。彼はこちらの業務に干渉してきたのだから。とても信頼する気にはなれなくなっていた。

【続く】

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