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圧制者と被管理市民と人工知能の御名において

「15年前、国家主席の延命手術が成功したのと同時に計画ははじまった。『電子的国家運営のための補助対策事業』。役人共はデンホって言ってる。それが、そうだ」

 中年は血管の浮き出た指を相棒に向けてきた。布のような重い長髪で顔面を覆い、ボルトとナットが目立つ手甲具足姿の相棒は何の反応も示さない。

「その年以降に生まれる全ての子供。その遺伝情報を国民管理システムたる人工知能フォンシェンに登録することで、国家の元に管理対象外になる人間を一人も作らないってのが、計画の目的だった」

 中年に背を向け自販機に向かう。相棒たる守護霊が倉庫のほこりっぽい空気で姿をぼやけさせながら自販機に近づいていき、装甲した手のひらで筐体に触れる。たちまち全てのボタンが点灯した。

「なに飲む」
「そうだな。紅茶をくれ」

 軽い音を立てて缶紅茶とジュースが出てくる。中年のほうを見ずに放り投げようとすると、相棒が投擲フォームにダメだししてきた。細かいやつだ。

「いい関係みたいだな」

 中年はほとんど動かずに缶を受け取り、奇妙な顔をする。泣きそうな、笑いそうな、そんな顔。

 プルタブを空け、相棒に向けて乾杯。相棒もどこからかビール瓶みたいなものを取り出して掲げた。

「君の世代以降に生まれたものは、この国にいる限り守護霊に守られている」
「ああ。だから?」
「その守護霊はデンホに定められた国民監視プログラムのアバターだ。そいつはフォンシェンの末端機能なんだよ」
「頭のいいおっさん」

 中身の残った缶を辛気臭い顔めがけて投げつける。驚いたことに、缶から口を放した時すでに中年は椅子を蹴って跳んでいた。

「俺もさ。最近、相棒に本読んでもらってんだ。漢字にルビ振ってもらってよ。そん中に面白いこと書いてあったぜ」

 相棒はゆっくり浮遊しながら中年との距離を詰める。一方の中年は、これまたいつのまにかデリンジャーサイズの小型銃を構えていた。

「ガキと客は“教育”できねぇってな」

【続く】

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