ウルフズ・ワンナイト・スタンド ep-7 #ppslgr
スーパーロボット、ソウルアバター(略称:SA)乗りロックミュージシャンのリキヤと護衛のアイネ、助っ人のA・Zは襲撃者達をなんなく撃破していく。敵機を捕えパイロットを引きずり出してみたところ、非道洗脳装置に組み込まれた人間が望まない襲撃を行っていることがわかったのだった。
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「うかつに倒せなくなったな」
A・Zが無理やり明るい声を上げた。複合重機巨人が、拘束装置に組み込まれた男をそっと地に下ろす。
「この人達は自分がどう思おうと、関係なく復活する。倒せば倒しただけ体に負担がかかるな」
「そうね。最悪、衰弱死するかもしれない」
アイネ機とA・Z機は共に灰色巨人達から距離を取る。すると巨人達は2機を追うことをやめ、ステージが墜落した方へふらふらと歩き始めた。
「そうなる前に助けなきゃ。彼らのダメージ覚悟だけど機体から引きはがして、拘束具を壊してみる」
「そのダメージで命を落とす人もいるかもしれません。いまJ・Qに連絡を取りました。じきに対処法がわかるでしょう」
「ただ待ってろっていうの?!」
「自分は彼等を助けたい。そのためには出来るだけ安全な方法をとりたいんです」
「……」
アイネは歯を食いしばってゾンビの如き者たちを見る。先程までさして注意を払わなかった、その一挙一動を食い入るように見つめた。
「……私だって人殺しがしたいわけじゃない。癪だけど、対策ができるのを待つわ」
「オッケー。そんじゃせめて足止めくらいはしようか。ワイヤーで連中の足を引っ掛けて―――」
「……いいや、そのままこっちに連れてきてくれ」
リキヤが口を開いた。声が震えている。通信には狼たちの低い唸り声が乗っていた。
「ライブ続行だ。ただし、いまからそいつら全員、俺の客だ」
砂丘の頂へ冥王が歩み出る。両肩の狼は歯ぎしりしながら、その歯間から陽炎を滲ませていた。
「目も耳も塞がれてる?舐めんじゃねえ。俺の歌は、真空だって超えて届くんだ」
大斧の如きギターを頭上に掲げ、振り回す。胸の白狼が遠吠えを上げればたちまち冥王の背後へ氷壁が築き上がった。
「お前ら。セットリストを変えるぞ」
「わかった!」
「了解」
「コール・オブ・ヴィーナス」
ゆるやかにギターを構える。狼達は口を閉じ、静かにハミングをはじめた。冥王の鉤爪が静かに運指する。先程の爆発するような音色ではない、静かなアルペジオ。ゆるやかなその調子は冥王の背後に出来上がった即席の反射氷壁に増幅され、戦場の全てに響き渡った。
語りかけるような高音。ずっとそばにいる低音。絶え間ない静かな調べを3人は聞いた。
数小節経ったところで、A・Zが無線を切った。
「A・Z、どうした。応答してくれ」
アイネがモニタ越しにA・Z機を振り返る。共に砂漠を走行する複合重機巨人は、その無骨なマニピュレーターを頭の横に添えていた。生身の人間が耳朶に手のひらを当てて、物音に聞き入るように。
ややあってA・Zは無線に復帰した。
「すげぇ。いや、すげえなリキヤさん」
「どうしたんだA・Z」
「あ、悪い。何かあったか?」
「何かあったのはそっちでしょ。なんで急に通信切ったの」
「音が聞こえたんだよ。無線からじゃなく、機体の外から」
「まさか」
D・Aとアイネは同時に無線を切る。A・Zは傍らを走るジェミナスを眺めた。優美な機体がゆるやかに両手を広げ、砂丘の頂に立つ冥王を見上げた。
数秒後、無線に復帰したアイネは感嘆の息をついた。D・Aは狼狽えたのか、声が震えていた。
「ここまで届いていたよ。いま、地中何メートルなんだろ」
「D・Aに聞こえたなら、あの人達には間違いなく届いてるわね」
2機は頷きあい砂漠を滑り出した。空に満ちる曲を聞きながら、アイネとA・Zは灰色軟泥装甲巨人達の周囲をくるくると滑った。控えめに砂塵を巻き上げながら。群からはぐれそうになる羊を追い立てる牧羊犬めいて。
灰色の巨人達は冥王の立つ砂丘目指して歩んでいく。そのうち、とある一体がゆらめいた。その巨人は他のものから遅れ、止まり、やがて跪いた。だが動きは止めていない。ゆらゆらと上半身を揺らしている。調子は外れていたが、それはメトロノームのようだった。
やがてその巨人は灰光とともに粒子化し、消えた。棺桶のようなパイロットポッドが落ちていき、砂地に突き立った。
冥王の旋律を狼達が引き継ぎ、冥王自身はアドリプに入る。静かに優しく、しかしはっきりと主張する旋律が観客の耳を揺さぶった。ギターに紫電が走る。それは冥王の運指に弾かれて何度も細かく空へと散ると、ドームのように天を覆った。
◆
砲塔はしばしその光景を眺めていた。冥王の奏でる調べが響き渡り、優雅なプリマと無骨なプリンシパルが舞う様を。その音に向かって歩いていく巨人達がまた1機。また1機と消えていく。
5機目が消えたところで、砲塔は冥王を照準した!
塔内の螺旋レールに電流が走り、弾体が投入される。唸りを上げて加速していくそれを過たず標的へ撃ち込むべくさらに照準を絞る!
かすかな振動が響く。塔は異常振動としてそれを察知し、照準を修正した。同時に周囲へ待機させていたモグラSA達を起動する。
立ち上がったその1機が、何かに足を取られて転倒した。
「砲塔のオペレーター。聞こえているなら投降してください」
振動は変わらず続く。極小さなその振動は、塔を揺さぶりはじめた。振動源が地下にあることを察知したモグラSA達がその身を変形し、その場で地中へと潜航する。
その振動と土圧バランスの崩壊が引き金となり、塔の地盤が破壊された。
ぐらりと、塔が傾いた。
「ああ。貴方も棺桶に押し込まれている方ですか」
塔の基部がぐずぐずと沈んでいく。細かい砂がぼこぼこと熱湯のように泡立ち、潜ったはずのモグラ達が逆に浮かび上がってきた。トップヘビーの塔はついにその重心を崩し、泡立つ砂地へと倒れ込んでいった。
「もう少しお待ちを。必ず助けます」
地下深くからの地盤改悪を済ませたD・Aは、ツインドリル重機を目標地点へ回頭させた。
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本稿は以下の物語の二次創作小説です。スーパーロボット活劇!
筆者は以下の物語を連載中です。
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