異造人間ソル #逆噴射小説大賞2024
「私たち、人間じゃないんだって」
赤い日差しに染まる教室で、彼女は鈍色の頭を傾けた。ぼくは気のないふりをしながら言葉を選ぶ。
「なにそれ」
「ネットに流れてたの。私たちは人間によく似せて作られたもので、本物はずっと昔に別の星で滅んでるんだって」
肩をゆすって彼女は笑う。自らの髪をいじる白い指先は、軽やかだった。
「信じてるの? それ」
「ううん。でも」
『ソル。崩壊発生だ。顕在化まで約三十』
音を無視して彼女を見つめる。彼女は吐息の形に口を緩めながら肩を落とした。
「気になるの。自分が今まで思ってた自分じゃないって、どんな感じなんだろ?」
「何も変らないよ。きみはきみなんだから」
「気持ち悪くない?」
「まったく。だってきみが人間じゃないなら、ぼくだってそうだろ」
「なら、ならさ」
『防御しろソル。巻き込まれるぞ』
「好きになってくれる? 人間じゃない、わたしのこと」
その時、赤い日差しが白へと変わった。
「なに?!」
彼女が驚いて窓の外を見る。空には赤い太陽と、白い閃光がだぶって見えた。強い光はすぐに収まり、とってかわる様に地平の果てからもくもくと湧き上がるものが現れる。
「爆発……?」
赤い日の下で街並みが崩れていき、校内放送が甲高く鳴り響いて避難を呼びかける。彼女達にしか見えない崩壊が迫ってくる。
『応答しろ、ソル』
でも聞かない。彼女の言葉が、頭の中で強く響いていた。
「ぼくも」
「ソル……?」
「好きだよ。だから、忘れない」
スイッチを入れる。両手が人の形をほどいて網になり、周囲に真円の盾を編んだ。
風が校舎を吹き抜ける。ガラスも壁も黒板も机も、彼女の姿形も。すべて一緒に砂に還っていく。頭上から降り注ぐ彼女たちの粒子に埋まりながらエンジンに火を入れた。
「こちらソル。移動、開始します」
『確認した。現在、惑星表面の波高は二十基準程度。今回はスレスレを狙いたいな』
「了解。海抜±五基準を目標にします」
【続く】