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近未来建築診断士 播磨 第3話 Part3-4

近未来建築診断士 播磨

第3話 奇跡的な木の家
Part3 『解析』-4

【前話】

 分析結果は想像外の結果だった。
この試料には植物の微細粒子、生物分解対応の樹脂微細破片、微小機械が含まれているとの調査結果が出た。

 植物は複数種類分の粒子が含まれているが、どれも同じような大きさである。樹脂破片は2種類で粒子のサイズは植物粒子と同じくらいだそうだ。

 しかし目を引いたのは微小機械だ。分析器はこれがなんらかのナノマシンであると言っている。拡大写真も出してくれているが、機能まではわからない。これの調べはジニアスに依頼しても大して金額はかからないだろう。

 ナノマシンは現在機能していないようだ。だが床をひとぬぐいした試料にも入っているくらいだから、あの家にはナノマシンがごまんといるに違いない。

 通例では、人に触れる部分に使われるナノマシンはヒト免疫に接触すると自壊する。これにもその機能が搭載されているはずだ。そうでなければ今頃ぼく達はナノマシン症にかかっている。たしかオーストラリアだったと思うが、局地的グレイグー発生事件以降のナノマシン運用は厳しく管理されている。

「しかし、一軒家にナノマシン使うなんてことあるの?」

 AR報告書をつまみながら、春日居翡翠は首をかしげた。娘もそれを横から読んでいる。

「無いでしょうね。基本的に住居には使いません」
「高耐久なんちゃらってやつ?」
「自己修復素材ですかね。でも一軒家じゃオーバースペックなんです。ナノマシン仕様なんて軍事施設や超高層くらいなものでしょう」

 春日居燕は横から報告書をコピーし、ぺらぺらとめくった。
不満げに呻く。その表情は暗い。

「ヤモリ。これじゃあなんも、わかんないかね?」
「いや、なんとなくだけど仮説ができた」

 ARデスク上で春日居燕宛の小切手を切り、差し出す。

「ジニアスに確認してみるけど、たぶんそのマシンは分解担当じゃないかな」

 彼女はそれを受け取らず、報告書をその上に重ねた。

「何を分解するのさ」
「ビニールクロス壁紙だと思う。樹脂の出所はそこからだ。そうでないと樹脂片が出てくる説明がつかない」
「なんで壁紙をはがすのにナノマシンなんて使うのさ」
「あの生木仕上のために必要なのかもね」

 思い出すのはあの竹管だ。1階のキッチン排水管。あれは確か途中で色と材質が変わっていた。あの滑らかな変質を見たとき、『そういう製品』があるのだと思った。

 しかしナノマシンが出てきたいま、別のことが想像される。もともとあった材料を分解し、あとから追加した材料と違和感無く合体させたのではないだろうか。目的はわからないが、いま手元にある資料をつなぐとそんな想像になる。なんにせよ、仮説ができればジニアスに検証させることができる。

「釣瓶さんに連絡して、もう一度あの家に行こう。もっとサンプルがいる。それが揃ったらジニアスに持ち込みだ」

 春日居燕は頷きながらAR小切手を受け取り、自身の端末に放り込む。得意げに傍らの母親に微笑んで見せた。春日居翡翠は苦笑して肩をすくめた。

【続く】

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