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近未来建築診断士 播磨 第3話 Part2-3

近未来建築診断士 播磨

第3話 奇跡的な木の家
Part2 『現場調査』-3

【前話】

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 住宅の間取りを改めて頭に入れるべく図面を眺める。

 家は築15年ほど。
 1階は玄関、居間+書斎、キッチンにトイレ。
 2階は大小の寝室が2つに風呂とトイレ。部屋配置に特別なところはない。

 居間を見渡すと、奥の暗がりにキッチンがある。防火のため内装がタイル貼りとなっているそこは生木板張りではない。

 市が今後この家を売るとすれば、住めることが最低条件だ。それなら設備の劣化の状態が問題になる。構造強度のこともあるが、現場を見た限り生木に支えられた床や屋根がたわんでいる様子はない。確かめるべきは水廻りだ。

 キッチンは伝統的なアイランド型で、居間を一望できるようになっている。店のカウンターのような天板があり、これは生木のような見た目だ。そっと撫でてみるとやはり、しっとりとした感触。

 カウンターを回りこんでシンク前に立つ。釣瓶氏が室内照明のスイッチを入れてくれた。
 耐水合金製の流しは多少の汚れはあるものの、十二分に綺麗だ。清掃すれば問題ないだろう。戸棚や冷蔵庫置場も同じようなもの。問題は見えない部分だ。

 ポケットから、包装された使い捨て排水管調査機を取り出し、排水口に落とす。5、6分ほどで結果が出てくるだろう。

 続いて釣瓶氏に断わってから蛇口をひねり、試験管に水を採った。作業用ズボンの小物入れから簡易分光分析機を取り出し、試験管を装填してスイッチオン。ARグラス上に調査ログが現れ、『OK』と表示される。簡易診断は合格だ。水は持ち帰って精密診断しよう。

 こちらの様子をしげしげと眺める男2人を尻目に、キッチンシンク前にしゃがんで下部収納の開き戸をあける。当然だが何も入っていない。シンク排水管が縦に走っているだけだ。

 横に寝たS字を描く排水トラップはごくふつうのもの。だが材質が奇妙だった。シンクから降りていく排水管は流通している樹脂性のもののようだ。灰色で、わずかに光沢がある。

 床に伸びていくにしたがって、その光沢が消えていく。色も灰色から薄緑色に変わっていき、縦に繊維状の筋が見えてくる。そのまま収納の下板を貫いて床下に伸びていった。

 見たことの無い素材だ。継ぎ手もなしで途中から材質が変わるなんて。そっと手で触れていくと、プラスチックの滑らかな感触が徐々に有機質のものに変わっていく。まさか、排水管まで生木を使っているとでも言うのだろうか。ライトを当て、しっかりと写真に残す。

「これも私共の悩みの種です。いったい、どういった素材なんでしょう?」
「ちょっと調べてみます。オーダーメイドの可能性もあります」

 そう言ってから、頭の中で反論が浮かんだ。役所が差し押さえた物件だ。当然、図面やら資料は揃っているはず。それら資料にカタログくらい載っているはずだ。

 しかし貰った書類にその類のものはない。もしかしたら釣瓶氏は、手元にある資料を全部見ているわけではないのかもしれない。あとで確認するとしよう。

【続く】

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