近未来建築診断士 播磨 -幕間と作品紹介-

近未来建築診断士 播磨

幕間と作品紹介
『ある日の診断風景』

「はい、調査終わりました」

 螺旋を描いて降りてきた球状ドローン3機が、地面で口を開けて待つスーツケースに着地する。続けて基礎換気口から、円筒形自走ロボットがコロコロと転がり出てとんぼ返りを一つ打ち、ケースに納まった。
 それを見て、依頼者の老婦人は小さく拍手して微笑んだ。

 ARグラスには彼らが撮影した3Dデータが、目の前に建つ現実の戸建に重なって表示されている。

「ごくろうさまです」
「いえいえ。報告書は2週ほどでできますので、その頃またご連絡します」

 ドローンの曲芸なんて、今日日珍しくもない。だが見た目も大事だと思い、取り入れてみた。反応は上々。『変なやつが珍しい仕事をしている』。そんな噂もあるが、あるだけまし。営業のツールとしては十分だ。

 戸建の向こうに市街地が見える。自己修復金属の外壁に覆われた高層ビル群と、それを覆うカーテンドームの針金めいた骨組み。空を行きかうドローンとVTOL、宇宙往還機がその間を通り抜けていくようだった。

 あんな巨大な建物も日々朽ちていっている。美しく煌びやかでも、仕上材一枚剥がせば本来の姿が見えるだろう。かといって、そびえるような巨大建築物を相手にしたいとは思わないし、ぼくではできない。

「あ、播磨さん。申し訳ないんだけど、キッチン流しも見てくださる?」
「はい、いいですよ。どうされました?」

 小さくは配管のつまり、エアコンの故障から、大きくはカプセルホテルまで。それがいまのぼくの実績。そうして細々と商いができればそれでいい。

「臭いがなかなか抜けないの。洗浄剤使ってるんだけどねー」
「管の中がくたびれて来てるのかもしれません。調べておきますよ」

 先生は言っていた。『建物にも医者がいていいだろう』と。人間を見る医者ほど儲かりはしないが、誰かがそれを勤めたほうがいいと。
 その言葉は間違いのないものだった。少なくとも、ぼくが診断してよかったことがいくつもあったのだから。


 旧市街の戸建住宅を後にし、自動トラックが行きかう大通りに出る。通りに面する建物は優先的に建て替えが進んだためか、新しく綺麗だった。その町並みが、バルーンツリービルの辺りに似ていた。

 あのカプセルホテルは変わらず営業しているだろうか。こんど時間を作って見に行こうか。いや、作るまでもない。不本意だがこのところ、少しヒマだ。以前に比べて仕事の件数が減っている。

 VRオフィスを商店街に登録したので見学者は増えたが、実際に仕事に結びつくケースは少ない。登録料と見比べて黒字になっているかどうか。確認するのが怖い。

 自然と拳を眉間に当てていた。いやな考えを追いやるように、軽く拳て額を突く。弱気になってはいけない。まだはじめたばかりなのだ。ここで店を畳んでなるものか。

 こういうときは気分転換だ。
 確かリサイクルショップが近かったはず。新しく入荷したらしいドローンでも見に行こうじゃないか。

 ◆
 SFが実現し過去になった時代。 
先端技術が陳腐化しても人の住まいは問題だらけ
 ◆

この場を借りて、いつもお読み下さっている方々に感謝を。
そして今回のこの記事で興味を持ってくださった方へ。

ようこそ。これはSFごった煮、いわば二次創作小説です。
あそこを見ればHALがおり、こっちを見ればZENGUNが落ちている。
そんな感じです。
おもしろ機械の展覧会場みたいにしたいと思い、毎話書いています。

それでは。
じゃあね。

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