館、また人を殺す
烏の声と羽ばたきがやかましい。パトランプの明滅に驚いたのだろう。屹立する崖と竹林で姿は見えないが、窓の外の少女が空を仰ぎ見ていた。
「三人目か」
警部補の声で視線を室内へ戻す。白髪頭の上司は手を合わせながら、脱げおちたスリッパの片方を見下ろしていた。
被害者の男性は大の字、仰向けで床に横たわっている。Tシャツとボクサーパンツで覆われた部分以外は火傷により赤く腫れあがり、首にはつるりと黄ばんだ紐が絡みついている。後頭部からは黒々とした液体が床にあふれ出ていた。
「玄関、窓ほかいずれの開口部も施錠されていた」
「まだ調査中で―――」
「何を調べる?さすがに忍者屋敷は移築してない。今回もまた、密室だ」
早口でまくし立てたあと、警部補は部屋の外に立つはげ上がった男へと向かう。
「ここは呪われてるんだ。違いますか?」
大家は脂ぎった頭をしきりに拭き回した。
「何を仰るんです。事故でしょうこれは」
「ただの事故でこんな死に方しますか。一回目は確かに不幸な事故でした。二回目もまぁ、そうです。しかしこれで三回目。さすがに万一のことを考えねばなりますまい」
上司はそう言って数珠をもみながら出て行く。おろおろとした様子で大家はそれを見送り、かと思うとこちらを向いた。たるんだ頬を揺らし、口をぱくつかせて言葉を探している。
天井を仰いで溜息を隠した。
この大家に同情する気は無いが、あのロートルにも困り者だ。確かに同じ集合住宅で死亡事故が続くのは異常かもしれない。だがこれまで俺達はしっかり仕事をし、その結果事件性は無いと結論付けたのだ。
再び窓の外を見る。パトランプが幾重にも光り、隣の尖り屋根と茅葺屋根を叩く。少女はいまだにこちらを覗いていた。
「これは事故なんだ。殺人、まして呪いなんて!」
「全力で捜査に当たります。まずはお話を伺えますか」
大家はうめき声をあげる。
窓の外で蓬髪の少女が、はっきりと頷いて見せた。
ああ、わかってるよ。
【続く】
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