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HEAV-延命装置運搬用途人型車両- #逆噴射小説大賞2024

 ようやく『医療専用道路』の看板までたどり着いた。遠くから見ても目立つそれは、真下に立つと押しつぶされそうなほどだった。

 上がった息を整え、壁のような看板の前で地面に這いつくばる。右足を軋ませながらその鉄板をくぐり、道路の上に出た。

 真新しいアスファルトの大通りが街灯に照らされて、黒く輝いていた。六車線道路が東京と甲府の方へ、果てしなく伸びている。そこに等間隔に並んだ光は教科書で見た神殿の柱みたいだ。

 ガードレールに背中を預け、プラカードについた土汚れを袖でぬぐう。

『横山ニュータウン 二十階建てに 
 エレベーター設置 お願いします!』

 我ながらへたくそな字だ。読んでもらえるだろうか。字にこびりついてしまった泥を爪でこする。右足が無事だったなら看板を汚さずにすんだかもしれない。けど右足が無事だったなら、ここに来ることもなかった。

 低い振動が腹の底を揺らす。東京方面を見ると、大きな車が姿を現した。

 壁みたいなトラックだった。金色のヘッドライトに銀の車体。荷台には何十本もの人工内臓缶が並ぶ。運転席のガラス中央に皺だらけの顔がうっすらと映っていた。まちがいない。前田の御隠居様だ。

「前田さーん! お願いしまーす!!」

 ぼくはプラカードを掲げて振った。見過ごされないように街灯の下で、金属の右足も一緒に。

 父ちゃんと母ちゃんはこの足を見るたび泣くようになった。四階の検問所連中すら目を逸らす。皆を嫌そうな顔にさせる、ぼくの右足。
 説得の肝要は人の心を打つこと、と先生は言っていた。それならこの足は役に立つ。役所や不動産屋は駄目だったけど、あの人ならきっとわかってくれる。ぼくと同じ、欠けた体を持っている人なら。

「前田さ―――」

 大型トラックが速度を上げた。車は左右に大きくすべりながら、ぼくめがけて蛇のように荷台を振った。
 巨大な鉄が迫ってくる。運転席の中心に浮く老人の顔が、ガラス越しに嘲笑った。

【続く】

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