近未来建築診断士 播磨 第3話 Part7-1
近未来建築診断士 播磨
第3話 奇跡的な木の家
Part.7『完了報告』 -1
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仮称『木の家』に関する調査報告書
Ⅰ.概要
『木の家』は木造2階建の住宅である。本建物は行政による差し押さえにより一時、市の管理する物件となった。
本建物はその構成部材が目視調査段階で特殊であると判断されたため、詳細調査を行いその資産価値の有無を判断することとなった。
(中略)
Ⅱ.調査結果について
詳細調査により以下のことが判明した。
1.本建物は建設時から大幅な改修が行われていること。
この改装は法的な申請が不要なものである。
2.本建物は改修にあたり、無認可の工法を用いている。
なお後述の調査によりこの工法は現行法の基準を満たしている。
(中略)
本建物に用いられている工法は、遺伝子改良植物とナノマシンにより、建物全体を新陳代謝させることで建て替えと同等の更新を行うものである。この工法は未認可であるが、目視調査、電子計算および専門家の確認によって機能性、安全性が確認された。
(中略)
Ⅳ.資産価値について
本建物は調査の結果、一般的な建築物であるとは言い難く、従って市場価値を積算することが困難である。
(中略)
本建物の診断に協力を要請した専門家による追加調査の結果、本建物は調査・研究対象としての価値が認められた。よって本建物は競売による一般販売を行わず、研究機関への売却が現実的と考えられる。
具体的な売却手順については行政担当者、弊社による打ち合わせによって決定する。
(中略)
補足.本建物の前所有者について
本建物の前所有者であるH社について、本建物の所有当時に法令違反に関わっていた恐れがある。本件については今後、警視庁による調査が継続されるが本建物の売買への直接影響はないものと考える。
(後略)
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報告を終え、役所会議室の明かりがもどる。釣瓶氏は印刷された報告書を受け取ると笑顔で会釈した。同席する嘉藤教授もまた笑顔だ。
「では正式決定次第、またご連絡いたします」
「よろしくお願いいたします」
警察による正式調査で多くのことが明らかになった。釣瓶氏にとって大きかったのは『木の家』に違法性がないことが追認されたことだ。これにより資産価値がゼロという事態は避けられた。
とはいえ一般的な状態とは言いがたい家を競売にかけることはできない。そこで嘉藤教授に相談することを提案した。釣瓶氏は当初、守秘義務の問題でためらったものの、他に対案もないことから了承してくれた。
嘉藤教授はこれを聞いて小躍りして喜び、一度無くしたものを再び手にできると言って提案を受けてくれた。木の家を買い取り、より詳細に調べたいというのだ。
かくして市と教授は円満に契約を取り交わすこととなった。ぼくも仕事を完遂できた。リップサービスだろうが、釣瓶氏からは今後ともよろしくと手厚く礼を言われた。
だが、気は晴れない。笑顔で釣瓶氏達を見守る春日居も同様だろう。あの潜入捜査が明らかにしたのは『木の家』だけではなかったのだから。
【続く】