次亜塩素酸水について実験したり調べたりしたことをまとめてみた
消毒用アルコールの代用品として、一躍注目を浴びた次亜塩素酸水とは。
次亜塩素酸水とは、塩化ナトリウム水溶液または塩酸を電解することで得られる次亜塩素酸を主成分とする水溶液のことである。
「効果を発揮したあとは水に戻るから安全な除菌剤である」という触れ込みで話題になったが、実際に調べてみると「通説」通りではないこともあったので、まとめてみた。
問題になった次亜塩素酸水生成器
「水道水と食塩を入れてスイッチを入れると、電気分解されて次亜塩素酸水ができる」という謳い文句で、中華製の次亜塩素酸水生成器がたくさんネット販売されていた。ところが、ほとんどの製品は「弱アルカリ性の次亜塩素酸ナトリウム希釈液」が生成されるものだったので、物議を醸したのが2020年4月頃の話。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液は噴霧してはいけない。前述の次亜塩素酸水生成器は、スプレータイプになっているものもあったため、スプレー噴射している人も少なくないと推測される。事故の原因となっている可能性は否定できない。ややこしい話なのだが、pH7.5を超えて弱アルカリ性の次亜塩素酸ナトリウムが主成分になっている水溶液を「電解次亜水」と呼ぶこともあるので、これも混乱のもとになっている。
食塩水を単純に電気分解するだけだと、次亜塩素酸ナトリウム希釈液ができる。希塩酸を電気分解した場合は、酸性の次亜塩素酸水ができる。食塩水を単純に電気分解した時に起きる化学反応を、アニメーションにしたものを紹介しておく。
https://youtu.be/m_YbMTYYlik
酸性度pHと有効塩素濃度が重要
次亜塩素酸水を語る上で重要なことは「酸性度(pH)」と「次亜塩素酸濃度 / 有効塩素濃度(ACC)」である。これは酸性度が変わると、次亜塩素酸の溶存比率が違ってくるために性質が異なってくるからである。
「次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムは全くの別物」という説明は、正確な表現ではないと思う。(ナトリウムなどが水溶液中に存在する場合は)pH7.5を超えてアルカリ性になっていると、次亜塩素酸ナトリウムが主成分となり、漂白作用やタンパク分解作用が強くなる。逆に弱酸性(pH5.0~6.5)領域だと次亜塩素酸が主成分となり、水溶液の性質が変わってくる。「pHによって性質が違ってくる」ということである。
厚生労働省の文書の影響で「電気分解」という製法にこだわる人も一部にいるが、政府関係の文書の特徴から考える限りは「便宜的に製法を示しただけ」と言えそうだが、無難に「広義の次亜塩素酸水」という表現を政府関係筋が使うシーンも見られるようになった。電気分解以外に、化学的に合成する製法もあるからである。
https://youtu.be/HfrBbj_ZpIQ
また、電気分解で作られたものと、化学的に合成されたものとでは「除菌効果などに違いはない」と新光電気工業の技術論文で明言されている。
https://youtu.be/Opq0i_Oan7k
玉石混淆な次亜塩素酸水業界
次亜塩素酸水が急に注目されるようになったのは、2020年3月頃のことで消毒用アルコールが手に入りにくくなったため「代用品」として市民の目が向くようになったと思われる。そして、ニーズの高まりから生成器や液体製品も多く見られるようになった。ただし、不適切な製品も出回ったために混乱を招いたことも事実である。
https://youtu.be/XMm8jQM1iyA
実際に製品の提供を受けて調べてみたところ、濃度が不明なもの、成分や原材料が不明なもの、製造年月日が分かりにくいものなどがあった。
次亜塩素酸水の基本的な使い方
基本的な使い方としては「ジャブジャブ使う」のが原則となるので、消毒用アルコールの使い方とは少し違っている点には注意が必要である。
感染予防対策として、石けんを使った手洗いは基本となるが、外出先や店舗では手指消毒にアルコールを用いるシーンが多く見られる。せっかくの機会なので「衛生学的手洗い」というものを頭の片隅にいれておくのも良いと思う。
https://youtu.be/B1wNLinEgl8
ジャブジャブ使うという条件だと、次亜塩素酸水は除菌効果や抗ウイルス効果が確認されており、日本環境感染学会などで報告されている。ただし、酸性度と次亜塩素酸濃度によって効果に差が出ることがあることも忘れてはならない。
※次亜塩素酸水のウイルス6種に対する効果
https://youtu.be/a9cmNwwcPbI
空間噴霧の安全性について
次亜塩素酸水溶液の空間噴霧については、賛否両論となるテーマではある。無難な考え方としては、超音波加湿器のレジオネラ菌対策として活用するというのもアリだと思う。
安全性については「ふたつの視点」から考えて判断してもらえば良いと思う。個人的には緩衝作用を持つ炭酸系次亜塩素酸水溶液であれば、より問題となりにくいと考えている。
次亜塩素酸水生成パウダー
「次亜塩素酸水をつくる」ことを目的とするのであれば、次亜塩素酸生成パウダーとも呼ばれるジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの市販品を使うのがコストパフォーマンスは良さそうである。これはお風呂やプールの洗浄剤として知られているものである。ただし、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの取り扱いには注意が必要なことは忘れてはならない。
https://youtu.be/J-8QZOE3hF0
クエン酸は混ぜるな危険、そして無意味
また「次亜塩素酸ナトリウムに酸を加えれば次亜塩素酸水ができるんじゃないか」という考えで、家庭用塩素系漂白剤に酸性洗剤(塩酸やクエン酸)を混ぜると危険である。酸性度が著しく下がってしまった場合、毒性の強い塩素ガスが発生する事故が起きるからである。しかも、クエン酸を使った場合は次亜塩素酸の劣化が激しいので、危険な上にやるだけ無駄になってしまう。
https://youtu.be/nEqoZRzdRMM
緩衝作用を持つ炭酸系次亜塩素酸水
実験用材料として、次亜塩素酸ナトリウム製剤「ピューラックス」と炭酸水を混ぜて自作したことは何度もあるが、簡単な上にある1か月程度であれば劣化もほとんど見られないようだ。できあがったものの成分は、次亜塩素酸と炭酸水素ナトリウム(重曹)だと化学反応式から考えている。
https://youtu.be/6m_aws1IKiI
保存容器の注意点
市販品にせよ、パウダーから合成したものにせよ、保存する容器については少し注意は必要かもしれない。アルコールなどの消毒剤はポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などの反応性の低い素材が選ばれる。次亜塩素酸水の場合は、濃度も低いためPETボトルなどでも問題はなさそうだが、気にする人はアルコールに準じた容器にすれば良いと思う。
https://youtu.be/HOz7Mo761IQ
遮光性容器が好ましいとか、アルミホイルを巻いた方が保存性が上がるという話もあるが、直射日光に当ててなければ無視できるレベルかもしれない。むしろ、保存する容器が小さいと劣化が早まるという実験結果が出ていたりもする。
紫外線や直射日光で劣化するのか
試しに殺菌灯を用いて次亜塩素酸水を紫外線に24時間曝してみたが、ほとんど劣化が見られなかったことに驚いている。製法によって、挙動が変わるのかもしれないから、まだまだ研究の余地はありそうだ。
https://youtu.be/rGPC-7_KCyk
殺菌灯から出る短波長の紫外線(UVC)付近に、次亜塩素酸や次亜塩素酸ナトリウムの紫外線吸収極大(230〜300nm)は存在する。直射日光の方が分解されやすいことから、分解されやすい光の波長は吸収されやすい紫外線とは別のようだ。
また、次亜塩素酸は光分解されると塩化水素に変わって、水溶液のpHを下げる傾向がある。ただし、製法や成分によっては異なる挙動を示す可能性があることが分かった。
https://youtu.be/nvjrX0xVzCk
次亜塩素酸水の有効性
【朗報】次亜塩素酸水の有効性が35ppm以上で確認されたNITEの最終報告書と、次亜塩素酸水溶液普及促進会議
https://youtu.be/y4gxviGNjjg
空間噴霧については『次亜塩素酸の科学 ―基礎と応用―』の著者である三重大学の福﨑智司教授の見解を参考にしてもらいたい。
https://www.tokyoheadline.com/500602/
「次亜塩素酸水溶液普及促進会議」という団体が発足したようで、学術的な知見がここに集約されてくれることを期待している。次亜塩素酸水という言葉を避けたのは、電解水への配慮だろうか。
https://jia-jp.net/