《段ボール猫》

「このごろな有為留主とやらが跋扈してゐるさうな」
「なぜだか僕らにはちつともだねえ」
さう言ひながら
紺亭なんていふ薄暗い屋敷に
ぞろぞろと入つて行くのでした。

思ひ出が蒸発して
洗濯物のやうに畳まれたのも居れば
せつけんで揉まれて
くしゃくしゃになつてゐるのもおりました。

ぜんたい
ここいらの猫は皆してさうなのです。
人間様が
新しい羽織と棲み家に着替えやうと
すると
ですからくつついて
想い出を運ぶ手伝いをするのです。

ある時なんぞは
草原を滑り落ちる遊戯を
ほっぺたのまあるくて赤い子供たちと
やつて
きゃっきゃっとさわいで
たいそう楽しいものでした。

つぎの宝物をはこぶ時まで
風に揺られて
ぐつすりぐつすりと眠るのでした。

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