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「私の若草物語」に感じた溢れてやまない原作愛がたまらない
今年はコロナの影響で日本でも多くの映画作品が今でも公開延期に。
やっと緊急事態宣言が解除され、延期になっていたのを待ちに待った公開後、一目散に映画館へ行って観たのがこちら。
「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」
あらすじ等はこちらの公式サイトをご覧ください。
脚本と監督は、青春映画の傑作「レディ・バード」で鮮烈な監督デビューを果たしたグレタ・ガーヴィグ。
彼女が「若草物語」を映画化すると知った時は「あの若草物語?」とちょっと意外でした。超個人的体験を映画化した1作目からかけ離れてるような気がして。
「若草物語」といえば、ルイーザ・メイ・オルコットの不朽の名作で何度も実写化、日本ではアニメ化もされた作品。私も原作もアニメも実写も親しんできた作品です。
前評判の高さもあり、期待大でシアターに入りました。
映画はニューヨークに一人住むジョーが、自分の作品をなんとか出版社に売り込む事に成功し、喜びで街を走るシーンからスタートします。このシーンを始め、この映画のジョーはその細い体で走る、動く、喋る、書く。とにかく躍動感に溢れています。喜びも悲しみも迷いも全て行動で前に進もうとする彼女は、やっぱりこの作品の魂のような存在でした。私は出版社での編集長とのやりとりと本の装丁を嬉しそうに見つめるシーンが彼女の戦いを一番表していて好きです。
演じるシアーシャはまるでジョーが彼女のためにあった役かのように演じていると感じました。女性の成長を演じるのが本当に上手いですね。「レディ・バード」もですが「ブルックリン」の演技も大好きです。
この映画でとにかく好きだと思ったところは、四姉妹が集まるシーンがとにかくわちゃわちゃしてリアルにうるさいこと(笑)。女が四人、しかも姉妹となればうるさいに決まってます。その喧しさを映画の最大のエネルギーに変えてしまうグレタの演出がいいなと思いました。
映画はニューヨークで夢に向かって生きるジョーが妹ベスの容態が悪くなり、故郷に帰る場面からの回想として作品のエピソードを連なわせます。その手際がとても良くて、これにも驚きました。原作のエピソードから拾う点と抑えめにする点のバランスが見事でした。複雑な構成なのにどのエピソードも捨てずにちゃんと入ってるのが原作への愛を感じて嬉しかったです。
この作品には「女性の自立」という今作ならではのテーマを中心に描かれていますが、そのポイントをジョーではなくエイミーに語らせるのも凄く自然で面白かったです。これほどまでにエイミーを立てて描いたリメイクは観たことがありませんでした。演じるフローレンス・ピューの上手すぎるほどの表現もあって、エイミーの苦悩やローリーとのつながりを印象的に感じられるのは新鮮でした。生きるための手段である結婚をしなければならない女性の立場をはっきりと語るシーンは近年の映画の中でも重要なシーンだと思います。
そこで対峙するのがメグの選択。結婚したからといって決して楽ではないこと。それを分かりながらやっぱり愛する人と生きていく事を選択するメグは恐らく今までなら一番共感を呼びやすいキャラだったかもしれません。エマ・ワトソンがしっかり引いて演じていたことで今までと少し違う映画になっていたと思います。
ベスの死の描き方も今までで一番好きでした。ベスは性格も大人しくエピソードが少なく重いキャラクターなので、なかなか内面が見えにくいのですが、その死の直前にジョーに語りかける「私のために書いて」という言葉はとても胸に迫りました。彼女は自分のためではなく、ジョーのためにそう言ってる気がして、ベスの性格をよく表しているようでした。砂が風で舞うこのシーンはいっそう悲しく美しかったです。
ローリーをティモシー・シャラメが演じると知った時はピッタリだと思った反面、「レディ・バード」でも観たコンビなので、「同じ役者使うってリスクじゃないかな」と思いましたが、作品を観たら全然そんな事は無く、「これほどローリーをその魅力を持って演じた役者もいないな」というくらいティモシーはいい演技でした。絵になるだけでなく、ジョー演じるシアーシャとの相性がとても良いのが画面から伝わります。恐らくグレタは前作からキャスティング考えてたのかなと思いました。
ジョーに対する新解釈や、原作のラストに重きを置かない構成など、新しい事をする時は勇気がいると思います。まして「若草物語」は誰もが知ると言っていい大名作。それをグレタはしっかりとした役者の演技や細部まで行き届いた衣装やセット、何よりこだわっただろう原作からの大切な一つ一つのエピソードをパズルのように組み合わせた脚本から、自分の語りたいことを語っていたように感じます。
それが成功したのは、並ならない「若草物語」への愛だったのかなと思います。自分の物語として体に染み込んでるくらい、どのエピソードも自分のことのように語れるくらいの想い。観ていて私も子供時代に夢中に本を読んでいた頃を思い出し、泣けました。
今の若者や子供達にはこれからを生きる支えとしてぜひ観て欲しいし、作品を愛してきた大人になった私からはその溢れる原作への愛と新しい風をくれたグレタに「ありがとう」と心から言いたい大切な作品になりました。
グレタの次作が本当に楽しみですね〜。