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ゲーム屋人生へのレクイエム 104

大手小売りからの追加注文を断ったころのおはなし

「その後PS3ゲームの売れ行きはどうなったんですか?」

「予想通りの赤字だったよ。初回出荷の1/3が売れ残った。おかげで定価で販売した分の利益は全て吹っ飛んだ。本社から背負わされた開発費を除いたとしても赤字だった」

「どうして売れなかったんですか?」

「それはマーケティングをしていなかったからだよ。広告は出してたけどね。前にも説明したけどマーケティングと宣伝広告は違う。マーケティングは開発前に既に始めていなければならない。出来上がったゲームをマーケティングするのは間違っている。そもそも市場が求めていないものを作ってしまったかもしれない。

ファミコン時代ならなんでも出せば売れたけど、もうそんな市場ではなかったんだよ」

「準備不足だったんですね。このゲームのあと何かリリースしたんですか?」

「PSP向けを用意していたんだけどソニーの企画審査をパスできなかった。そして本社ではある決定がされたんだ」

「どんな決定なんですか?」

「それはゲームの自社開発、販売を中止するという決定だったんだ」

「え?でも商品の供給は本社が行うって約束でしたよね」

「そうだ。約束はあっさり反故にされたんだ。まるで二階に上らされて梯子をはずされたようだったよ」

「どうして販売を中止することになったんです?」

「それは、プライスプロテクションの存在を本社では知らなかったからというのが一番の理由だったよ。日本にはこんなルールはないからな。

子会社を設立して最初のタイトルをリリースするときに俺がプライスプロテクションの経費をどのくらい見積もるかという質問を本社にしたとき、誰も俺の質問の意味が分からなかったんだ。それで俺は説明した。すると本社はパニックに近い状況になったんだ。

売れるだけ売れればいいなどという悠長な商売はアメリカには存在しなかったから、アメリカでの事業展開の根幹を揺るがすことになったんだ」

「勉強不足ですね」

「全くだ。こんなことは常識だよ。ゲームに限らずどんな商品もプライスプロテクションのルールがある。そしてPS3でリリースした最初の商品もそのプライスプロテクションの対象になってしまった。これを本社は大きなリスクと感じたんだ」

「だからと言って中止しなくてもいいじゃないんですかね。やり方を考えることはしなかったんですか」

「しなかったから中止になった。この決定のプロセスには俺は一切関わっていなかった。突然中止を通告されたんだ。会議に参加してたら違う結果になったかもしれないな。

とはいえ、本社が商品の供給はしないという決定には対応しなければならなくなった」

「何か方法があったんですか?」

「本社が供給しないのなら、どこか供給してくれるところを探せばいい。つまり開発会社にアメリカ向けにタイトルを製作してもらうということだ。

ただ問題は、時間だったんだ。企画を考えてマーケティング、開発、生産、という一連の流れはどう見積もっても最短で半年はかかる。並行してその次、そのまた次のプロジェクトを次々と立ち上げなければならない。

本社に商品供給を依存しない安定した会社経営ができる体制に切り替えるのに数年はかかってしまう。それまで会社が持ちこたえることができるのかというのが一番の心配だったんだよ」

「閉鎖の危機もあり得ますもんね」

「そうだ。だけど本社に商品開発を依存しなくていいということは歓迎したんだ。開発会社にはそれぞれ得意な分野がある。それを生かせばタイトルごとに個性的な製品開発ができるんじゃないかって期待したんだ。災い転じて福となすって事にしたかったんだよ」

続く

フィクションです



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