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ゲーム屋人生へのレクイエム 113

新たなブランドでの事業展開に喜んでいたころのおはなし

「第二弾は以前PSPで販売したタイトルのオンライン版のリリースだったんだ。キャラを増やしたりして若干の追加変更をして販売したんだ。

こうすることで新しくゲームを開発しなくていいからラインアップを増やすにはちょうどいい。すでにあるIP、IPって言うのは知的財産のことだ。このIPを使わない手はない。日本の開発元に話を持ち掛けたら二つ返事で了承してくれたよ」

「なるほど。そういう方法もあるんですね。それで売れたんですか?」

「タローは毎回同じことを聞くな。投資は回収できた。ダウンロード版への移植は安くできたから黒字だったよ。

これに続いてWii向けのダウンロードゲームの企画を4本用意して日本の開発会社3社に開発を依頼したんだ」

「すごい勢いですね」

「このペースでやらないと事業は黒字にはならないからな。タイトルごとの開発費は安いけど利益も小さい。もともとの売値がディスクやカートリッジの値段とは比べ物にならないほど安いから数をこなさなきゃならなかったんだ。
次々と開発して配信しててなんとか黒字化への道が見えるかなってところまできた時に緊急役員会をテレビ会議でやるから出席しろと言われたんだ」

「オンライン事業を褒めてくれたんでしょ」

「( ̄∇ ̄ハッハッハ。自慢じゃないがこの会社で俺は一度も褒められたことはないぞ。

その会議だが、議題の連絡もなく突然に出席を命じられたんだ。
そしてそのときのやりとりだ。このパターンで話すのは久しぶりだな。

「では緊急役員会をはじめます。まずは北米子会社の業績について。提出された事業計画では黒字となっていますが昨年度の決算は赤字でした。この原因を北米子会社の社長に説明してもらいます」

「今日の議題の連絡を事前にもらっていませんので資料はないのですが、そもそも事業計画を提出する際に実現不可能だと説明しています。初期投資が続いている状態での黒字化を望むことは現実的ではありません」

「提出された事業計画が全てです。それに説明する資料がないというのはあまりにも非常識です。本社から借り入れをしている以上、常に経営状態を説明できる資料を用意するのが当然です」

「わかりました。では次回までに用意します」

「次回ではなく今すぐ用意してください」

「それはできません。今から用意したとしてもこの会議が終わるまでに間に合いません」

「いいでしょう。後日あらためて会議を開催しますのでそれまでには用意してください」

「次の議題ですが、本社への未払金が2億円近くあります。返済はいつですか」

「2億のうち、7千万円は今開発しているタイトルの開発費です。残りの1億3千万は本社の開発費を子会社へ付け替えたものです。7千万円の借り入れはタイトルのリリース後に順次返済しますが1億3千万の返済の責任は問わないという子会社設立時の約束です。会社の収益が上がっていけば返済しますが現時点での返済は出来かねます」


「そんな約束は存在しません。何か証拠があれば提出してください。出せますか?」

「証拠はありません。専務と口頭で約束頂いたものです」

「証拠がないということはそれを証明することはできません。事実ではないということです」


続く
フィクションだよ

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