ゲーム屋人生へのレクイエム 98
新たに設立されるゲーム会社の責任者のポジションを引き受けるかどうか悩んでいたころのおはなし
「スカイプで面談してね、待遇やら何やら話をしたんだけど、どうもしっくりこなくてね」
「何がしっくりこなかったんですか?」
「何というか、はっきりしないんだよ。子会社を作って何をしたいのか。ゲームの販売をやるという事はわかったんだけど、ゲーム販売を委託する会社はすでに別に契約してあるって言うんだ」
「え?じゃあどうして子会社が必要なんですか?」
「だからそこがしっくりしなくてね。相手も何か釈然としないまま話を続けているような感じがしたんだよ。それで一度日本に来て面談して欲しいって言われたんだ」
「行ったんですか?日本に」
「行った。役員と面談したよ。
このV社はゲームの開発会社で過去には自社開発タイトルを販売したこともあったんだけど、予想したほど売れなかった失敗が理由で販売することを中止したんだって。
しばらくは開発会社として経営してたけど、どうしても販売を復活したいってことでいくつかのタイトルを販売することになったって説明してくれたんだ。
日本だけで売るのもありなんだけど、英語版にして北米でも売れれば開発費を分散することができる、じゃあ子会社作ろうって事になった」
「ありそうなはなしですね」
「そう。自社で売るか、どこかにライセンスするのが普通だね。
だが、なぜか社長がアメリカにある別の会社と販売契約を結んでしまったんだ」
「なんでですかね?」
「誰もその答えがわからなかったから面談でも口ごもってたってわけだよ」
「販売は別の会社がやるとして子会社は何をするんですか?」
「当面は表向きだけ販売元にするというのと、現地でのこまごましたやりとりの対応ってことになる」
「当面って言うことはその続きがあるってことですね」
「そう。多くの社員が別会社との販売委託契約をなんとかしたいって思ってるって言われてね」
「子会社があるのに販売委託契約もあるってことは経費のムダですよね」
「そうだ。いいことを言うじゃないか。まさしくそれを役員が嫌がってたんだよ。それで俺が子会社に入ったらそれを何とかしてほしいってすごく遠回しに言ってた」
「なんで遠回しなんですかね」
「そりゃ面倒な仕事だからだよ。そればっかりを前面に押し出したら引き受けてくれないんじゃないかって心配したんじゃないかな」
「それでこのオファーは受けたんですか?」
「やってみるかって受けることにしたよ。会社をゼロからスタートする機会なんて滅多にあるもんじゃないし、面倒な話にせよ、面白くなりそうだったから決めたんだよ」
「矢を放ったんですね」
「そう。的はまだ見えなかったけどね」
続く