ゲーム屋人生へのレクイエム 87話
会社の買収提案で常務を引っ張り出してみんながびっくりしていたころのおはなし
「君の会社を買収することはやぶさかではない。いやこの際買収したいくらいだ。だが、海外に子会社を持つことは社長の決裁も必要だし役員会で決めなければならない。向こう5年の事業計画も必要になる。
これは重要案件だ。この場で決めることはできないな。この件は引き続き検討させてもらえないか」
「承知いたしました。ではご検討いただいている間に御社と弊社で北米事業サポート契約をさせていただくことでいかがでしょうか?」
「それでかまわない。本部長。異存ないな?」
「はい。ございません。それで進めさせていただきます。詳細は彼と詰めてあらためてご報告させていただきます」
「常務、お忙しい中お時間頂戴し、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします」
「という話をO社でしたんだよ。これで会社間での契約が決まっておまけに北米代理店の年間契約を結ぶこともできたんだ」
「とんでもない提案をしましたね」
「想定外のことが起こると誰しもがそれに注意をひかれるものだよ。この提案で俺と個人契約を結ぶ話は吹っ飛んだんだ。
O社はアメリカで事業をサポートしてくれる人が欲しい。俺もサポートしたい。だけど個人的に契約することはできないから会社の契約にしたい。
だがO社では海外の会社間の契約は常務以上の決裁が必要だからということではなしがそこで止まっている。
ならばはなしが常務に伝わればいい。ちょっとやそっとのはなしでは常務にまでは届かないから会社の買収提案をした、というわけだ」
「本当に買収されたらどうするつもりだったんですか?」
「本心では買収して欲しかった。O社はメーカーだからやろうと思えば何かしらビジネスはできるからな。
でも買収されないという確信があったし実際買収されなかった。
子会社をあらたに作るとなると常務の話にもあった5か年の事業計画が必要になる。そんなものを作ることができる人はOにはいない。そもそもアメリカに子会社を持つことなんて想定していないからな。何も商売のネタもないのに5年も先の商売なんて計画できるわけがない。だから買収されないと確信してたんだ」
「ひどい詐欺ですね」
「聞こえが悪いな。詐欺というのは騙されて損をする人がいる。この場合はだれも損をしていないだろう。俺は両社が納得できる着地点に誘導しただけだよ」
「本社のMさんにもそう説明してあったんですね」
「そう。Mさんにはあらかじめ全部説明してあった。買収されないこともね。冗談で万が一買収されたら社長を説得してくださいとお願いしたら滅茶怒られたよ。
しかしこれで毎月安定した収入を得られるようになったんだ。俺の給料や経費も払えるようになった。O社公認の北米代理店という看板も堂々と掲げられるようになったしな」
「いいことずくめですね」
「まあ、急場は凌いだというところかな。本業は相変わらずピンチの状況からは脱出できていなかったからな。Mさんが交渉中の案件がもし決まらなければ会社を閉鎖される可能性大だったんだ」
続く