ゲーム屋人生へのレクイエム 107
ブランディングについて考えていたころのおはなし
「それでオンラインゲームはどんな企画だったんですか?」
「マルチプレイを考えてスポーツものにした。チームで遊べる球技だ。キャラはゲームのサイズも考えてシンプルな一昔前のゲームっぽいデザインにしたんだ。ルールも分かっているし、とっつきもいいだろうと考えたんだよ。
ハードはアメリカでは主流だったXBOXを選んだ。マイクロソフトとは以前A社でゲームをリリースをしようとしたことがあって要領はわかっていたからね。XBOXもオンラインダウンロードゲームのラインナップを増やしたいという事だったので企画審査もすんなり通ったんだ」
「XBOXですか。日本じゃさっぱりですよね」
「そうだな。いまだにマイクロソフトのハードは日本じゃ売れないな。日本はともかくXBOXなら世界同時配信もできるしハードの数で考えても十分勝負できると思ったんだ。
開発のディレクターにも恵まれてね、とてもよく対応してくれて助かったよ。どこの会社でもふつうは販売と開発はとても仲が悪いんだけどこの時のプロジェクトに関しては後にも先にも例外でお互いの意見を話し合ってすごくいいものができたんだ」
「売れたんですか?このゲーム」
「それがリリースしてから大問題が発生したんだ。
マルチプレイで遊んでいると処理落ちしてスピードが遅くなってコマ送りになることがわかったんだよ。
回線速度が遅いプレイヤーがオンラインゲームに参加すると一番遅い回線速度に引っ張られて全体が遅くなることはわかっていたんだけど、わざとそういう環境を作って実験してもそれほど悪い状態にはならなかったんだ。
けど確かにコマ送り状態になることがある。それでマイクロソフトに何度もサポートを依頼したんだけど結局何もしてくれなかった。
リリースしてから悪い評判が独り歩きして売れ行きがガタ落ちになったんだ」
「大赤字だったでしょ?」
「いや、赤字だったけど大赤字とまではいかなかった」
「どうしてです?」
「それは値引きや返品がなかったからだよ。オンラインならではだよ。一番の売りのマルチプレイにケチがついたのは痛かったけどいい経験になったんだ」
「そんな悪い状況でどんな経験なんです?」
「ネットスピードが多少なりとも問題に関係していることは明確だったから、オンラインマルチプレイをしばらくは仕様に入れないことにしたんだ。
ネットのスピードはこれから更に高速化することはわかっていたけど、ゲームのプレイヤーの過半数がその環境になるまでにはまだ時間がかかるだろうと考えて、それまではシングルプレイのゲームを企画制作することにしたんだ。
プレイヤーの負担にならないでゲームを遊んでもらうことが一番だと考えたんだよ」
続く
フィクションです