ゲーム屋人生へのレクイエム 91話
会社を潰すための弁護士費用を値切ったら掃除屋を紹介されたころのおはなし
「会社を閉める準備は着々と進んだんだけど、もうひとつ重要なことをやらなきゃならなくってね」
「何です?閉める以外に何かあるんですか?」
「あるある。あるでしょ大事なことが。会社閉めたら俺たち失業するでしょ。次の仕事を探さなきゃならないでしょ」
「あー。そうでしたね。忘れてました」
「大急ぎで仕事を探さなきゃならないんだけど、今度は俺のアシスタントのKも失業するから彼の面倒も見なきゃならなかったんだ」
「彼が自分で探せばいいじゃないですか?」
「まあ、それもそうだが彼を雇ったのも失業させたのも俺の責任だから放っておくことはできなかったんだよ。
それでいろいろと考えて、ある会社の社長に頼んでみる事にしたんだ。
60話で出てきた板金部品の製造会社を覚えているかい?リンクを貼っておくから読み直してごらん。
この会社の社長に2人を雇ってくれないか相談したんだよ。ゲーム会社はどこも傾いて採用してくれないだろうから思い切って異業種へ飛び込んでみる事にしたんだ」
「全然違う業種ですね。ゲーム屋人生は終わっちゃうんですか?」
「それが終わらないのよ。まあ話を聞きなさい。社長に採用を頼んだら俺たちが会社にどう貢献できるのかって聞かれたんだ。それで俺はこう答えた。
私たちを採用いただければ日本のゲーム会社のO社の北米代理店契約をこの会社と締結します。これで社長の念願のゲームを事業に加えることができます。O社以外でも私がゲーム機械の部品やゲーム機械の組み立てを受注します。KはPRを担当させていましたが彼は営業の素質があります。きっと貢献できます。どうでしょう?」
「採用されたんですか?」
「採用された。採用してくれる確信が俺にはあった」
「どうして確信できたんですか?」
「それは社長がゲームの事業をどうしてもやりたいと以前から口にしてたからだよ。本業の傍らでゲーム機械の試作を作ったりしてたのを見てたから本気なんだなって思ってた。
なによりO社の代理店契約の効果はデカい。契約締結すればO社に認められたということになるから会社のゲーム事業は名実ともに確立できる。俺たちの採用を断るはずがないと確信していたんだ」
「O社の契約の話を勝手に持ち出して大丈夫だったんですか?」
「それは事前にO社に確認済みだったよ。いくら何でも勝手に話をすすめることはできないでしょ。
A社は閉鎖するので契約は次の就職先にそのまま持っていくことを了承してもらってたんだ。
O社としてもこの契約が北米事業の足掛かりだから消滅することは避けたい。契約する会社が変わっても担当するのは俺だから特に問題はない。だから次の会社へ契約を持って行くことは反対されないだろうと考えたんだ」
「考えましたね」
「何度も失業してエライ目にあったからな。この時は持ちうる全てを使って有利に展開させるにはどうすればいいのか考えに考えた策だったんだ」
続く
フィクションです