ゲーム屋人生へのレクイエム 40話
寿司シェフ見習いとなって巻きずしづくりに精を出す毎日に楽しさを覚えてゲームのことを忘れそうになったころのおはなし
「へい!いらっしゃい!」
「わ!何なんですか突然。びっくりするじゃないですか」
「お寿司屋さんらしくて威勢がいいでしょ。寿司シェフの仕事が楽しくなって3か月くらいした頃に俺の目の前の席にどこかで見たことある人が座ってね。すると向こうもあれ?って顔しててさ。で、思い出したのよ。このひと、日本でアメリカとかブラジル向けのゲーム機械を探していた時に何度も訪問した中堅ゲームメーカーの海外事業部長だって。それで、あんたこんなところで何してるのって言われてね。いろいろあって寿司シェフ見習いをやってますって答えてさ。大変だねえって言われて、いえいえ楽しくやってますよ、この商売も好きですよって答えたのよ。そしたらゲームであたったら大儲けだけど、寿司であたったら病院行きだって言ってね。面白いおっさんだなと思ったよ。このひとはアメリカ子会社に出張に来ててさ、俺とアメリカや南米のゲーム市場のはなしをして、それでありがとうございましたって別れたのよ」
「雇ってくださいってお願いしたらよかったのに」
「お客さんにそんなこと聞けるわけないでしょ。それにこの頃、別のゲーム会社に雇ってもらえないか交渉中だったしね」
「やっぱりゲーム会社に戻るんですね。そうこなくっちゃ」
「居酒屋オーナーは、どっかの企業に就職しなさいって言ってくれてたから、あれこれ伝手を頼って話をしてたのよ。それで、最初に勤めた会社でアメリカ行きを勧めてくれた先輩がいたでしょ。13話にでてきたひと」
「はい。アメリカ子会社を辞めたひとですね」
「そう。その先輩が別のゲーム会社のアメリカ子会社に転勤してきてね。それで先輩に頼んで就職のはなしを進めてもらってたのよ。会社の人手が足りなくて困ってるからたぶんOKだろうって」
「いいタイミングですね」
「うむ。それからしばらくして、ようやく先輩の勤めるゲーム会社への就職が決まってね。居酒屋オーナーにはすごくお世話になったから申し訳ない気持ちだったけど、お礼を言って店を辞めて入社準備をすることになったのよ」
「よかったじゃないですか。クリエーターの道に戻れましたね」
「ところが」
「え?何があったんですか?」
「入社が決まって、居酒屋を辞めて、さてこれからって時に先輩から電話があったのよ」
「なんかいやな予感」
「本当に申し訳ない。入社のはなしは無かったことになった。ってさ」
「あああ、予感的中じゃないですか」
「酸っぱいんだよね。寿司も俺の人生も」
続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。