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ゲーム屋人生へのレクイエム 18話

前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。ゲームの開発には莫大なお金がつぎ込まれることをはなししたころのはなし

「ROMってわかる?」


「何ですか?それ?」


「今のゲームはみんなディスクかダウンロードでしょ。昔はROMカセットだったんだよ?」


「ああ、ネットで見たことありますよ。ファミコンとかですよね?」


「そう。ディスクゲームが発明される前はROMカセットだったんだよ。容量も今のディスクとは比べ物にならないくらいちっさくてさ。例えると、ブルーレイのサイズは小さくても25GBだよね。それでファミコンで有名なスパーマリオのサイズで考えてみよう。こいつのサイズは40KB。25GBを40KBで割ると62万5千になる」


「はあ。ちょっとわかりづらいです」


「25GBサイズのゲームが今は当たり前、いや小さいくらいかな。このディスクにスーパーマリオを入れると62万5千本入るということだよ」


「ひゃあ。スーパーマリオってそんなに小さいんですね」


「あの頃はみんなこんなサイズだよ。それがROMという半導体に入れられてカセットとして売られていたのさ。それでさ、俺の仕事の話に戻るけど、家庭用の開発の仕事の手伝いというのはこのROMを焼くことだったんだよ」


「ROMを焼く???どういう事ですか?」


「どんなゲームにもプログラムがあるよね。それと絵のデータ。こいつらは日本の開発で作るんだよ。で、これをアメリカに送って販売担当にプレイしてもらってフィードバックが欲しいわけだ。今ならネットを使ってメールに添付するなり、VPNなりすぐにデータを送ることができるよね。これが昔は無い。いやあったけど今ほど便利なものではなかったんだよ。だから当時は日本からカセットやROMそのものを郵送することもあったんだ。えらい時間かかるし、紛失しちゃう可能性もあるんだけど、しょうがなかったんだよ。それで、モデムを使ってデータを送るということをやってたんだ」


「モデム?ネット回線につかってるやつですよね?」


「まあ、似たようなものだけど、当時のモデムというものは電話回線からアナログ信号を受けてデジタルに変換するということをやってたんだよ。まず、日本の開発からアメリカのモデムに国際電話をかける」


「え!?国際電話?電話をどうするんですか?」


「電話がかかってくると、モデムがデータの受信を始める。このモデムがROMライターという機械につながっているんだけど、そこへROMのデータをどんどん受け取るんだ。でさ、データはROMライターに入ってるからそれをEP-ROMという読み書きできるROMにデータを書き込むんだよ。で、そのEP-ROMをファミコン用の基板に差してファミコンに差し込めばゲームができるという訳なのよ」


「へええ。面倒ですね」


「このEP‐ROMちゅうやつは半導体の表面に窓があって、ここに紫外線を当てると中にはいっているデータがきれいさっぱり消すことができてさ、また書き込めるようになるんだよ。これが64KBとか128KBとかのサイズがあったよ。こうやって開発中のファミコンソフトをROMに焼いてセールス担当に遊んでもらってたよ。家庭用のゲーム開発の手伝いはこんな感じだったなあ。家庭用の開発の人は誰も出張とか来ないからこの会社ではあんまり絡まなかったよ」


「この会社ではっていう言い方は続きがあるんですか?」


「ここは最初に働いたゲーム会社だったから。このあと何度も転職したから、まだまだ話は続くよ」


「げえええ」

続く

*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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