2024年アニメーション私的ベスト10+番外
このイベントをきっかけに、せめて「年間ベスト」くらいは備忘録もかねて記録し、シェアしていくべきかもしれないとおもった。noteはずいぶんと放置してしまっていたが、そういうわけで筆をとっている。
今年は映画祭の選考だけでも1200作品以上は観ているので、最低でも合計1500作品以上は新作アニメーションを鑑賞している(記録をつけていないので正確な数字はわからないが、おそらくはもっと観ている)。そのなかから「短編」「長編」「その他」各10作品ずつを「2024年アニメーション私的ベスト10」として選出。くわえて「番外」として5作品を選出した。「2024年」としているが、おおむね2023年までの作品を含み、ごく一部2022年の作品も含む。とはいえ、いずれにせよ今年初見の作品のみに限定している。選出の基準にかんしては深く考えていない。こういうのは厳密に考えだすと書くのが億劫になってしまうからだ(一般的にどうかはわからないが、わたしの場合は)。なので、選出の理由をはっきりとは説明できない作品もあるだろう。まあ、ぼんやり個人的な趣味くらいに考えてもらえれば。それから、「どうしてあの作品がないのか」という意見もあるかもしれない。それにかんしては「昨年ないし一昨年に観てしまい、今年のベストとしては検討しなかったから」という可能性を考慮されたい。とくに短編はジャパンプレミアに先だって鑑賞済みの作品が多いからだ。
それでは、さっそく順に発表していこう。なお、原則順不同だが、わけても個人的にイチオシの作品には★をつけてみた。あわせて参考にされたい。
◎短編
① Pubert Jimbob(Quirijn Dees、ベルギー、2024年)★
②Such Miracles Do Happen(Barbara Rupik、ポーランド、2022年)★
③UNDO(Hiroshi Kondo、日本、2024年)★
④Zima(Tomek Popakul & Kasumi Ozeki、ポーランド、2023年)
⑤とても短い(山村浩二、日本゠アメリカ、2024年)
⑥At the Ends of This Cavern, When We Would Have Truly Met(Eric Ko、アメリカ、2023年)
⑦MIMT(Ted Wiggin、アメリカ、2024年)
⑧The Posthuman Hospital(Junha Kim、韓国、2023年)
⑨Missed Connection(Jack Gray、アメリカ、2024年)
⑩私は、私と、私が、私を、(伊藤里菜、日本、2024年)
①②③は、アニメーションの新鮮な「文体」が、いままさに眼前で生成されていくような感覚をおぼえ、興奮で画面に釘づけにさせられた。わけても①は、クリーピーな3DCGアニメーションと、『イレイザーヘッド』と『裸のランチ』が婚姻したような世界観に驚嘆。今年鑑賞したアニメーションのなかで、もっとも印象に残っている──のだが、わたしの周囲での評価はかんばしくない。よほど自分のセンスがズレているのかと不安にもなったが、「アヌシー国際アニメーション映画祭」では学生部門審査員特別賞を受賞している。毀誉褒貶の激しい作品なのかもしれない。惜しむらくは今後日本で観られるチャンスがなさそうということか……。いずれネットで公開されることに期待したい。ちなみに、②の監督は前作も同様の手法で制作している。そちらもすごい。⑨⑩は、正直、初見ではあまりピンとこなかったのだが、何度か観返すうちに「これはすごい作品だ……!」とおもうようになった。そういうことはけっこうある。
◎長編
①ウマ娘
プリティーダービー
新時代の扉(山本健、日本、2024年)★
②傷物語 -こよみヴァンプ-(尾石達也、日本、2024年)★
③Boys Go to Jupiter(Juilan Glander、アメリカ、2024年)★
④Glass House(Boris Labbé、フランス、2024年)★
⑤劇場版モノノ怪
唐傘(中村健治、日本、2024年)
⑥ルックバック(押山清高、日本、2024年)
⑦化け猫あんずちゃん(久野遥子&山下敦弘、日本゠フランス、2024年)
⑧きみの色(山田尚子、日本、2024年)
⑨インサイド・ヘッド2(Kelsey Mann、アメリカ、2024年)
⑩Journey of Shadows(Yves Netzhammer、スイス、2024年)
原則順不同と書いたが、純粋な新作という基準なら、①がダントツでベスト。心が震えた。総集編の②をここに含めるべきか迷ったが、まるで新作を観たあとのような新鮮な鑑賞後感ゆえ。もともと監督のファンで、初長編の制作が発表せれてから完成を心待ちにしていた③。期待にたがわず大傑作(怪作?)。GenAIを導入したアニメーションのなかで、個人的に今年もっとも印象に残ったのが④。AI生成イメージと手描きの融合。『ヱヴァンゲリオン新劇場版:Q』の前田真宏パートが最初から最後まで続くといえばイメージしやすいだろうか……? こちらのトークの模様もあわせて参考にされたい。
こうしてふりかえると、長編は総じて海外作品よりも日本作品のほうが好印象な年だった。もっとも、それはわたしの鑑賞タイミングと日本公開がズレているせいもある。たとえば、今年日本公開された『リンダはチキンがたべたい!』『めくらやなぎと眠る女』『ニッツ・アイランド
非人間のレポート』はいずれも「年間ベスト」級だが、昨年すでに鑑賞している。それから、今年、世界中のアニメーション映画祭を席巻したAdam Elliot新作『Memoir of a Snail』とGints Zilbalodis新作『Flow』は未見(両作とも日本公開がすでに決定している)。わたしは両監督のファンで、どちらも大いに期待している。この2作品を観ていたら、ラインアップはまた違ったものになっていたであろう。
◎その他(インスタレーション、TVシリーズ、MV etc.)
①ガールズバンドクライ(酒井和男、日本、2024年、TVシリーズ)★
②HAPPENING(AC部&橋本麦、日本、2024年、Webサイト゠アプリケーション)★
③かむかもしかもにどもかも!(橋本麦、日本、2024年、MV)★
④My Day is Sold by the Hour(Eric Ko、アメリカ゠韓国、2024年、MV)
⑤The Amazing Digital Circus(Gooseworx、オーストラリア、2023年–、ONAシリーズ)
⑥My Way(Jesica Bianchi、アルゼンチン、2024年、MV)
⑦Soulbreaker(Gustaf Holtenäs、イギリス゠ギリシャ゠スウェーデン゠アメリカ、2024年、MV)
⑧Danza Marilù(Arthur Sevestre、フランス、2024年、MV)
⑨ONE PIECE FAN LETTER(石谷恵、日本、2024年、TVスペシャル)
⑩触れてなどいない(束芋& Josh Shaffner & Lea Vidakovic & Stephen Vuillemin、日本゠アメリカ゠セルビア゠フランス、2024年、インスタレーション)★
映画以外まとめて「その他」としてしまったせいで、10作品にしぼるのは難儀した。ともあれ、3DCGアニメーションの可能性を拓いた①、今年の「東京TDC賞」で受賞した②③は、わけても印象に残った。アニメーションをインスタレーションとして展開する試みはいまやめずらしくないが、率直にいえば、空間全体を作品化する視点が欠如しているように感じられることも少なくない。その点、映像インスタレーションを牽引してきた束芋の新作⑩は、アニメーションが空間全体へどのように作用するのか綿密に設計されており、好印象だった。国際的にも高く評価される3人の独立系アニメーション作家(いずれも映画祭関係者なら知る人ぞ知る作家だ)との共作という話題性も含め、特筆に値するだろう。⑩については、こちらとこちらの記事も参考にされたい。
◎番外
①パーキングエリアの夜(村本咲、日本、2024年、短編)
②ブタデスの娘(岩崎宏俊、日本、2024年、インスタレーション)
③Mind Replacer(大谷たらふ、日本、2024年、MV)
④すっぽんぽん(土屋萌児&最後の手段、日本、2024年、MV)
⑤孤(ajisa、日本、2023年、短編)
今年のアニメーションをふりかえるうえで重要な話題のひとつは、日本長編アニメーションのさらなる躍進であろう。長らくアメリカと並んで長編アニメーションを牽引してきた日本だが、安定した国内市場を有する裏返しゆえか、映画祭への出品はやや消極的だったようにおもわれる。だがしかし、近年、ヨーロッパや北米のディストリビューターと関係が強化されたことで、そうした状況にも変化が生じている。今年、世界最大のアニメーション映画祭「アヌシー国際アニメーション映画祭」の長編部門オフィシャルコンペティションでは、じつに1/3を日本作品が占める異常事態となった(うち1作品は日仏共同製作)。この「事件」におどろいた映画祭関係者も多いだろう。
だが、存在感をしめしたのは、なにも長編アニメーションだけにかぎらない。今年は例年以上に日本の独立系アニメーション作家たちの意欲作が記憶に残った年でもあった。そのなかでも「2024年アニメーション私的ベスト10」からは惜しくも漏れてしまったものの個人的に特筆に値すると考えている5作品を、「番外」として選出した。
①は「短編」のベストと比較しても遜色ない。すばらしい「時間」の流れ方。この作家のキャリアハイ。大傑作。②は、純粋にアニメーションのみでは評価しづらい部分があるため迷ったが、アニメーションをインスタレーションとして展開する手際に感心したゆえ。今年の日本製MVのなかで、とくに印象に残った③④。繊細なテーマをあつかうために「方法」から創意工夫する姿勢に胸を打たれた⑤。
しかしながら、今年もっとも日々たのしみにしていたのは、内田清輝a.k.a.グ弐がSNSに──おそらくはほぼ毎日──アップしていたショートアニメーションであったことを付言しておきたい。
「2024年アニメーション私的ベスト10+番外」は以上。
じつはインフルエンザをこじらせてしまい1週間以上、病床に伏していた。師走の多忙な時期にもかかわらず、まるで時間を盗まれた気分だが、そのおかけでこうしてnoteを執筆する時間が生まれたとポジティブに考えたい。年末年始はおだやかにすごしたいものだ。それと、こうして今年をふりかえる過程で「美術の『バイヤーズガイド』のようなかんじで、『短編アニメーション年鑑』みたいなものがあるといいかもしれない」とふとおもった。まあ、たんなるおもいつきなので、なにか具体的な計画があるわけではないのだけれども……。興味があるメディアや出版社は、ぜひご連絡ください。
それではみなさま、今年もありがとうございました。よいお年を。
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