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5年経って二千万円問題は変わったのか

少し前に「老後2000万円問題」という言葉が流行りました。発端は5年も前のことなのに、最近この言葉を再び見ることが増えているように思います。
「老後2000万円問題」は本当なのか…?!今の70歳代はどのくらい貯蓄できているの?(LIMO) - Yahoo!ニュース
「老後2000万問題」といわれていますが、それは孫への「養育費援助」も含まれているのでしょうか?それとも生活費のみの計算なのでしょうか? (msn.com)

新NISAが始まって、いよいよ老後の資金を自分で用意するという土台が整ってきたからなのか、インフレによって年金の上り幅と物価の上り幅に乖離が出てき始めたからなのか、年金だけで本当に大丈夫かという不安が高まっているような気がします。

5年も経って、家計統計等も更新されているので、もしかしたら「老後に必要な額」も変化するのではと思い、老後に年金だけだといくら足りなくなるのか、調べてみることにしました。

1 2000万円問題の振り返り

もともとは、2019年の6月に「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」が公表されたことがきっかけです。

この報告書では、男性正社員・女性専業主婦の高齢夫婦(65歳、60歳)のモデルケースが示され、年金などの実収入が20.9万円、実支出が26.3万円と、毎月5.5万円の赤字となってしまっています。

毎月5.5万円なので、12カ月だと66万円です。夫婦が30年生きるとすると、赤字額の累計は1980万円なので、約2000万円です。こうしてみるとなかなかリアルな数字です。

色々と話題になりましたが、個人的には、「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」は公開されて本当に良かったと思います。

非常にわかりやすくまとまってますし、しっかりと「不足額の総額は単純計算で1,300 万円~2,000 万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支 出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。」とも書いてあります。

5年経っても結論は変わらず「人による」です。
ただ、親世代よりも長く生きることになるのだから、その分お金は必要になるということをはっきりさせてくれたことは非常に価値があると思います。

2 現時点で足りない額はどれくらいか?

そうはいっても、どれだけ「足りなくなる」と思っておけばよいのかという目安は知りたくなります。

最新の家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯について、実収入は246,237円、 可処分所得は214,426円です。およそ、2.2万円の不足です。5年前よりも赤字が減っています。
家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要 (stat.go.jp)

ただ、これは、2019年のワーキング資料では、その他収入が9,000円ほどだったのに対して、2023年では25,000円以上と大きく上昇していることが大きいように思われます。

新型コロナや物価高騰の影響で、低所得世帯に対して給付金が配布された影響もあったりと、その時によって収入を大きく変化させる要素があるので、赤字額が解消し始めていると断定はできないと思います。
住民税非課税世帯等に対する 臨時特別給付金(10万円/1世帯)のご案内

実際に、年金は引きあがってはいますが目減りしている状態にあります。今年の初めに、公的年金を2.7%引き上げると、厚生労働省が発表しました。年金受給額が年間200万円だとすると、およそ5万円のアップで、なかなか大きい上り幅のように思われます。
「いくらもらえる?」年金支給額 2024年4月から物価上昇などで2.7%引き上げも… | NHK

しかし、物価と現役世代の賃金は、わずかですが、それ以上に上がっています。2023年の物価上昇率が3.2%、名目賃金の上昇率が3.1%(過去3年の平均)です。

物価上昇率よりも公的年金の上り幅が抑えられているのは、マクロ経済スライドによるものです。これは、現役世代が減少傾向にあることから、将来においても年金財政を継続させるために、年金の引上率を物価の上昇率よりも少し控えめにして、負担を分かち合おうという趣旨です。

将来において、年金がどれだけもらえるのか、これは国も5年に一度見直しを行っています。財政検証というものです。
将来の公的年金の財政見通し(財政検証) |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

直近では2019年に行われ、ちょうど5年が経過するので、今年の夏ごろに検証結果が公表されることになっています。

2019年の財政検証によると、2019年の年金による所得の代替率は61.7%です。これは、現役世代の平均手取り額の何%を年金で賄えているかという数値です。

財政検証は2018年度の平均標準報酬月額を基にしており、現役世代の平均標準報酬額(月額給与と賞与の月平均を合わせた額)は43.9万円で、手取りに直すと35.7万円です。
参考:2019(令和元)年財政検証結果レポート

賞与と給与を合わせた月額=43.9万円で税金等を引いた手取り35.7万円
これだけ聞くとかなりもらっているように思えます。そんなに給料日に銀行に振り込まれていたでしょうか。

3 財政検証と現役世代の手取り額

他の統計を見ても、大体、手取り額の平均値は同じくらいのようです。
国税庁の民間給与実態統計調査の値の中で、財政検証と同様に、男性正社員の平均給与額を見てみると、平均年収は563万円です。
令和4年分 民間給与実態統計調査|国税庁 (nta.go.jp)

これを12で割ると月の額面は46.9万円で、可処分所得割合である0.814を乗じると、月の手取り額は38.1万円です。こちらの方が額が大きくなっています。

家計調査にも、勤労世帯の平均可処分所得は掲載されており、世帯主の収入だけで45万円となっています。

つまり財政検証だけ、現役世代の給料を飛びぬけて高い数値を使っているという訳ではないようです。むしろ、2019年と昨年公表の資料を比べれば、明らかに手取りは上がっています。

物価が上がっているため、給料も上がっていく、今までの日本では見られませんでしたが本来は自然な流れのように思います。

4 このペースで物価が上がったら

CPI(消費者物価指数)を見ると、2022年は2.5%、2023年は3.2%です。日銀によれば、高く見積もって2024年の見通しは2.5%、2025年は1.9%らしいです。つまり、物価の上昇率平均2%が標準化しています。

仮に、これから34年間ずっとでっこみ引っ込みはあるでしょうが、2%ずつ物価が上がっていったとすると、2022年の家計調査上の65歳以上夫婦の消費支出である約23.7万円はいくらになるのでしょうか。

とある計算サイトで出した数値は46.5万円です。月々の生活費が2倍近くも上昇しています。ただ、物価が上昇していれば、給料も上がっているはずなので、今と同じ生活ができるはずです。

しかし、財政検証上は所得の代替率が下がることになります。つまり、マクロ経済スライドもあって、現役世代の手取りほどは年金の給付額は上がっていきません。

財政検証によると、今から34年後の2058年(ちょうど私が年金をもらいそうな年齢です)の所得代替率はちょっと悪い想定で44.5%となっており、現役世代の46.7万円の手取りに対して20.8万円の年金が支給されます。

生活費46.5万円に対して20.8万円で、月々25万円以上の赤字です。年間に直すと約300万円で、年金をもらう70歳前後から20年間生きるとなると、6,000万円足りなくなります。老後2000万円問題が3倍になりました。

5 まとめ

とはいえ、6000万円足りないという上記の計算は大変雑です。日本の物価上昇率2%がずっとキープされるかも不明ですし、生活費以外にかかる費用は除外しています。

老後にいくらかかるかの回答としては、最初に述べた通り、「人による」なのですが、財政検証から4年が経過して、大きく変わったことは、年金と銀行預金だけで老後生活するのはかなり困難ということだと思います。

年金は物価の上昇率に負けてしまいますし、銀行預金の預金金利であればなおです。インフレが受け入れられつつある中で、日本円現金だけを持っておくのはなかなかリスクがあることが鮮明になってきたように思います。

今から取りえる手段は、できるだけ長く働いて現役として継続的に給料を得ること、そして、インデックス投資をはじめとして日本円現金以外の金融資産を持つことであると思います。

今年の夏には、5年ぶりに財政検証が公表されます。出生率などを見ても、数値が今までよりもよくなっていることはないでしょう。より、今から将来のリスクヘッジをして自分で老後に備えるようにしていかなければいけません。

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