春の呪い。
春は呪いだ、
自分で書いた物語の最後に、確かにそう言葉が連ねてあった。
生温い記憶を呼び起こす、春は呪いだ、と。
映像に引っ張られるようにして、欠片を拾い集めながら言葉を紡ぐ。
浮かんだ情景がその輪郭を失う前に、描写することに心が駆り立てられなぜだかいつも焦っている。
もしかしたらこの心はいつも空っぽなのかもしれない。
突然現れる景色で溢れてしまわないように
欠片と言葉を束ねている間は、この伽藍堂を忘れてしまえるから。だから。
アレルギーのように一定の容量が溢れてしまえば、ずっとそのまま取り返しがつかないかもしれない。そのことをどこか怖いと思う。
あれやこれやに徒らに傷つく時間を経て大人になり、平気なふりが上手になってそのうち本当に平気になった。そう思ってた。
色々なこと、仕方ないよな。
なんだか急に物分かりが良くなった。
成長したのかも?
違う、分かったふりして諦めるのが上手くなったんだ。
昔好きだったバンドマンの彼女は、
不都合を見て見ぬ振りするアダルトを揶揄する歌を歌ってた。
彼女の歌が好きだった。
大人になって再会したのに、夢を追いかける彼女と現実をもがく私とでは分かり合えない透明な壁が隔って、私は彼女を理解したいと思わなくなった。
彼女が揶揄した大人に、多分なったんだね。
自分の所為で壊してしまったものが嫌になる程ある気がする。
関わり合う中で善悪100%振り切ってしまうことは中々ない。
自分の所為だと決めつけるのは、多分傲慢なこと。そう言ってくれた人もいる。
今からでも遅くないから、頭を取り替えて欲しい。考えすぎて、何にもならない、仕方がない頭を。
春は呪い。
生温い風に混ざる花の香が、塞いだはずの場所に入り込んでしまう。
それがどこか心地いいから、春の儚さと見紛って委ねているうちに取り返しがつかない記憶の蓋をあけてしまう。
私は今年も、春に呪われてる。