時の砂
幻の雨の音がする。
いつも通りの真夜中と自分。
もうすぐ雨季になるから、また夏が一つ近づいたね。
夏に生まれて、忘れられないものはいつだって夏の中にある。
同じ時間には戻れないけど、
美化することもなく ただそこに確かに流れていた時間として、
記憶の瓶から砂は溢れて波は寄せかえす。
高い空を見上げて息を吐き出した。
何もない中に全てがあったあの時も、
大雨に雨宿りしたあの夕方も、
通り過ぎたんだ。
今はもう失った時間の中に混ざっている。
それが思い出ならそうだし、
それが陶酔なら 未練なら 過去なら。
でもどれでもない気もするし、その全てな気もする。
相変わらず私は真夜中の生き物。
太陽と生きていく術を探しながら、
それでも夜の静けさに安堵している。
夏は白昼の煌びやかさより、
どうしようもない夜のやるせなさや懐古さが美しいね。
今年も探しにいく。
だからちゃんと待っていて。
夏以外の季節に、希望を見出せるように。