いのちの魔法
「 形成されたばかりの心臓へ、
循環する血流が脈打っていた。
暖かな沈黙。
掬い上げた手の中の混沌に、小さく息づく真綿にくるまった可愛い私の生命の手触り。
悲しみを
苦しみを
痛みを、一体どれくらい繰り返したら
すべての夜を越える強さと引き換えられるだろうか。
この空っぽの入れ物を満たすだけの、
ささやかな時間を共にする手の中の重り。
色は自分で決めていい。
私はこの「 」にする。
海や空や夜の中に、共鳴できる無意識があるように。
生まれる前から君の欠片を持っている。
月明かりの下に灯るたくさんの明かりから、
ただ一つ、大切な人の鼓動をキャッチする為に。
生命が一回転する前に、今度は見つけられるか
少しだけ心配だけれど。
前よりも、
優しさと同義の強さをちゃんと手に入れて
今度こそ君を守ってあげたいの。
…決意だけはご立派。
いつもそう、悪い癖。
これも出来たら治したい。
† † †
そろそろ時間だね。
借り物の身体に手の中の私を飲み干せば完成。
この味を忘れてしまっても、
この重さはずっと忘れない。
鼓動が止まるその瞬間まで、傍にある可愛い生命の重み。
例えば誰にも望まれなくても、
私が望んで始まる世界。
結構楽しみにしているんだ。
…飲み終わったから、それじゃあ行くね。
願わくば、
綺麗な色をしたあなたのその生命に、
またいつかどこかで出会えることがありますように 」