#14日、27時ごろ。
毎年恒例の記憶喪失シーズンがやっと終わった。
職種ゆえのバレンタイン繁忙期は避けられない。
そんな時期を繰り返して、もう7回目。
去年まではお世辞にも優良とは言えない会社で店長をしていたので、精神的、肉体的な追い込みが半端じゃなく酷かった。
人間関係は息がつまる。
仕事しに来てるだけなのに、何故こんなに揉め事に巻き込まれるかな?
元々人があまり好きな方ではない。
加速度を増して、人との繋がりから私が離れていく。
その感覚を持て余しすぎて、なんだか恐ろしかった。
そんな中色々なタイミングがあわさって、
今の職場にお世話になってからもうすぐ一年だ。
職種自体は変わっていないから、ある種の即戦力として引き抜いてもらった。
でもこの一年で、自分の至らなさや仕事自体の難しさ、対人関係の繊細さを痛感してばかり。
今年は自分の職場と別の館の催事責任者になった。
自分以外は短期のアルバイトさん、派遣さんだけ。
はじめましての6人を1人で教えて運営しなくちゃいけない。
そう思っただけで、催事前日からちょっと胃が痛かった。
何もかもを1人で背負わされてしまう前職のイメージが拭えなくて。
初日の夜に知らない間に揉め事が起こり、1人契約解除になった。
他人の感情的に言い合う声が本当に大嫌い。
初日の夜から泣きたくなった。
そのあと2人新しい人がはいって
高校生が2人、20代前半の子が2人、年上の方が3人。
全員で7人になった。
その人たちがそれぞれ、とてもいい人間で仕事熱心だったこと。
それがなんだか、新しい価値観を見たような気がしてとても驚いたんだ。
なるべく一人一人と会話をするようにした。
2日、3日が経つにつれ、全体の会話が多くなって、
それぞれが楽しそうに話しているのを見かけるようになった。
勿論、私には自分に課せられた仕事がある。
うまくは出来なかったかもしれないけれど、
何年も苦しい立場だった環境からやっと抜け出して
新しい扉を開いた先の景色は、少しだけ前に進んでいるように思えた。
何日目かに高校生の女の子がハサミでざっくり指を切ってしまって、一時大変なことになってしまった。
その2日前くらいにもハサミで切ったばかりで、
危ないから気をつけてねと話した矢先のことだった。
絆創膏持ってないですよね?
しゃがんで作業をしていたら、
いたずらが見つかった子供みたいな声で話しかけられた。またー?なんて軽く返して視線を向けたら、
床にポタポタと血が落ちてくる。
指先を押さえる反対の指、手の甲と血まみれだった。
他人がこんなに流血しているのをあまり見たことがなくて、一瞬体がこわばってしまった。
指の根元からぎゅっと押さえて、心臓より上にキープしていても出血の勢いが止まらない。
傷口が見えず、どのくらい切っているのかもわからない。
平静を装うのに必死だった。
放心状態の高校生。
一番怖い思いをしているのはこの子だ。
少し落ち着いてから、傷の確認をして手当をする。
効果があるのか分からないけど鉄分補給のドリンクを飲ませて、消毒液とモイストヒーリング用の絆創膏を買って渡した。
会社から、早退して病院へ行くように指示が出る。
営業さんや店長への報告でバタバタしながらも、
"高校生でもカッターやハサミの危ない使い方を把握していない人もいるから、きちんと見てあげてね"
と言われた言葉が心の中に鉛のように残った。
高校生はそんなに子供じゃないって私はそう決めつけていたけれど、経験値が少ない分何が起こるかわからない。
ちゃんと見てあげなかった自分にも責任があったことを思い知らされて少し落ち込んだ。
その後大事には至らず、普通に仕事にも復帰してくれて本当に安心した。
たったの2週間だったけれど、特に歳の離れた若い子たちから色々なことを教わった。
知らないことがたくさんある彼女たちが、一つずつ知りながら一生懸命頑張っている姿にとてもポジティブなものを感じた。
自分自身、10代20代前半のころ 年齢と自分の中身とのアンバランスさに本当に苦しんだ。
分からないことを分からないと言えない環境が多かった。
そんな時間を過ごして大人になったから、
分からないことを素直に分からないと言って教わろうとする姿勢が眩しく感じる。
二十代前半のひとりの女の子は、日本独特な煮詰まったような息苦しさが苦手で留学へ行くと言っていた。
友達や周りには色々な国の人がいて、楽しいと。
自分の好きを追求する、瑞々しい心。
最終日、入館口まで見送ると みんな優しかったし楽しかった。本当に大好き、って言ってハグしてくれた。
無意識に頭を撫でて "留学頑張ってね" と言った自分の声音や仕草が、普通に大人の人のそれだったので
ひとりになってから思い返すと笑えた。
若い子たちがみんな すごい楽しかったと言ってくれたり、年上の方々があなたで良かったよと言ってくださったり。
たいへんな場面はたくさんあったけど、今までとは明らかに違う充実感があった。
環境を他人任せにしないことは、本当に重要なことだって感じる。
指を切ってしまった高校生の女の子が、指を切った時に色々してもらったのでといってフラペチーノを買って休憩室までもってきてくれたことがあった。
グランデサイズでホイップやらシロップやら色々追加してくれてるフラペチーノ。
かなりびっくりしたけど、とても嬉しかった。
それを今日、世間話でお世話になってる整骨院の先生に話していたら、
「本当ならショートとかトールが妥当だけど、
その子の中では感謝の気持ちを表現するためにグランデサイズにしたかったんでしょうね」
そう言われて、ちょっと泣きそうになった。
(…私ってちょろいやつかも笑)
毎年バレンタインは仕事の事で余裕がなくなる時期だったけど、今年はポジティブに学ぶことの多い時間だった。
記憶喪失にはならず、1日1日に意味があった気がする。
14日の27時、眠る前に記憶を整理した。
15日から、また私の日常が戻ってくる。
ストップしていた勉強ややりたいことと、また一つずつ向き合っていこう。