【事業分析vol.1】地元の掲示板『ジモティー』
はじめまして。こんにちは!
IT企業で働く20代社会人です。このコーナーでは自分の好きなサービス、興味のある事業を分析して、分析したサービス・事業の良いところやノウハウなどを自分の中に蓄積していきたいと思い、今更ながらnoteをはじめることにしました。第一弾は表題の通り、『ジモティー』となります。
なぜ最初にジモティーを取り上げたのかというと、端的に顧客体験に感動したからです。
私は新型コロナウイルスの影響で3月よりテレワーク勤務(在宅勤務)となりました。もともと家で仕事することはあまりなく、長時間の作業ができる仕事環境はありませんでした。そこで先日思い立って自宅の作業環境を整えるべく、まずは椅子から買い替えました。そこで以前まで使用していた椅子を処分しようと、CMでおなじみに地元の掲示板「ジモティー」に投稿して、無料で引き取っていただける方を探しました。
以前から度々使っていたのですが、毎回投稿すると、かなりの数の問い合わせがあり、アクティブに使われている方が多い印象でした。案の定、今回も無事出品した椅子は翌日に引き取って頂けました(しかも自宅前まで来ていただき無料で引き取ってもらいました。)
今までは引っ越しの際など、家具家電を処分する場合は粗大ゴミや業者の手配を行うなど、有料で廃棄することが当たり前だと思い込んでました。ですが、ジモティーを使うことで無料で引き取ってもらう新しい選択肢があると知り、本当に便利で良いサービスだと使うたびに実感しております。こうした体験を経て、まずはジモティーから分析していきたいと思いました。
前置きが長くなり恐縮ですが、下記から具体的にジモティーの中身を見ていきたいと思います。
会社・事業概要
(株式会社ジモティー 2020年12月期 第1四半期決算説明資料より抜粋)
2011年2月にIVP(インフィニティー・ベンチャーズ)の小野裕史氏により創業された株式会社ジモティーは、その後現在代表である加藤氏が社長に就任し、着々とユーザー数を伸ばし、2020年2月に東証マザーズに上場しました。
主要事業である「ジモティー」は地域の無料掲示板として、個人と個人をマッチングさせるサービスです。アプリ(iOS/Android)およびWebで使用することができ、現在は主に下記の目的で使用することができるようです。
・売ります/あげます
・中古車
・メンバー募集
・教室/スクール
・不動産
・求人
利用用途は本当に多岐に渡り、まさにオンライン上の地元の掲示板という感じですね。冒頭でも記載しておりますが、大きめの家具家電だと処分するのに割と費用がかかったりしますが、ジモティーを通して他の方にお譲りすることができれば、0円で引き取ってもらうことができます。場合によっては有料設定も可能です。引っ越しとか家具家電を買い替えた際にはかなり重宝できるサービスだと思います。
ジモティーのビジネスモデル
(株式会社ジモティー 2020年12月期 第1四半期決算説明資料より抜粋)
決算説明報告書を参照すると、「ジモティー」のユーザーの約75%は40代以上で構成されており、子供がいるご家庭のユーザーが多く、女性比率も約60%と高いことから、お母さん世代の方が多く利用しているサービスなのでしょうか。他のITサービスの利用ユーザーよりも年齢層が少し高めなのが特徴です。
上図は「ジモティー」のビジネスモデルとなります。マネタイズ方法は主に
①ADNWを中心とした広告収益
②マーケティング支援売上
となります。すごくシンプルですね。
①の広告収益は、ユーザーの投稿と投稿の間に出てくるこれになります。
また②のマーケティング支援売上とは、下記の大きく2つに分類されます。
・機能課金:投稿を目立たせる機能
(この機能を使うことで、一定期間画面上部に投稿が表示されるようになり、より多くのユーザーの目に留まるようになります。主に一般のユーザーが使用する機能です。)
・成果課金:提携サイトへユーザーを送客する
(サービスを開くと、投稿の右下に「提携サイト」と記載された投稿がありますが、これを開くと別のサイトに遷移するようになり、課金が発生します。主にメディアやサイトを運営している企業が使用する機能です。)
財務数値/KPI情報
(株式会社ジモティー 2019年12月期 決算短信より作成)
(株式会社ジモティー 2020年12月期 第2四半期決算説明資料より抜粋)
ジモティーの財務数値とKPI数値は上図のとおりです。売上やPV数ともに順調に右肩上がりに成長しており、直近では月間平均PV数が8億を超えております。めちゃくちゃ大きいですね。2019年12月期では売上が1,263百万円、営業利益は88百万円(営業利益は7%)と、他のITサービスと比較してかなり利益率が低い印象です。
(株式会社ジモティー 2020年12月期 第2四半期決算説明資料より抜粋)
上図は四半期ごとの構成別売上推移です。上図を参照すると、売上の約80%が広告収益(自動配信売上)で構成されております。マーケティング支援売上も多少は成長しているようですが、現状は広告収益に大きく依存しているビジネスであると言えます。2020年1Qまでは順調に右肩上がりに成長しているものの、直近決算では広告収益が減少したことで売上高が300百万円程度と減少。
ここで四半期ごとの財務数値とKPIを整理しました。多少概算の数値もございますがご容赦ください。まずは営業利益です。四半期単位で営業利益率を見てみると上は44%、下は▲44%と大きく変動しております。これは広告宣伝費の増減が主要因です。その結果、年次で見ると営業利益率は10%前後となっております。他のITサービスと比較して利益率は低いですが、黒字を維持できる範囲で投資フェーズにあるということでしょう。
(株式会社ジモティー 2020年12月期 第2四半期決算説明資料より抜粋)
次にPV単価について見てみます。2020年1Qまでは平均して0.15円〜0.17円で安定して推移しておりますが、2020年2QはPV単価0.10円と大きく減少。これは新型コロナウイルスによる影響で他サービス同様、広告単価(PV単価)が減少したことを表しています。
まとめると、2020年2Qにおける売上減少の背景には、PV数は増加したものの、それ以上に広告単価(PV単価)が大きく減少したことで、全体として売上が減少したようです。こうした自社でコントロールしにくい領域での要因により、売上や営業利益が振り回されてしまうという点が、広告ビジネスの欠点であると言えるでしょう。
新型コロナウイルスの影響
(株式会社ジモティー 2020年12月期 第2四半期決算説明資料より抜粋)
今回の決算では新型コロナウイルスによる影響度合いがスライドでまとめられています。前述したとおり、新型コロナウイルスの影響によりPV数の増加につながったものの、広告単価が減少したことで、全体として売上減少という結果になりました。
新型コロナウイルスの影響を受けて、今後は増加したユーザーを繋ぎ止め、アクティブ化させることができれば、短期的にはマイナスの影響が出た状態でも、中長期的にはプラスの影響という解釈に変わるのではないかと思いました。
誰の(Who)/どんな課題(What)を解決しているか?
ここからは、少しミクロな視点で事業を見ていきます。
「誰の(Who)」の部分について、冒頭でも記載している通り「ジモティー」は40代子持ちの女性がメインユーザーとなります。またプラットフォームという性質上、投稿者と閲覧者という大きく2つの視点があります。
では、「何の課題を解決しているか」について、多岐にわたる使用用途があるため一概に断定することは難しいですが、現時点のジャンル別投稿数を見ると、「売ります/あげます」が群を抜いて多いことから、下記であると考えます。
・投稿者:不要なものを無料で(有料で)引き取ってもらいたい
・閲覧者:必要なもの/掘り出し物を引き取りたい
これだけ見ると、メルカリやラクマと同じような個人間取引を行うフリマサービスが提供している価値と近いのかもしれません。ただメルカリやラクマは基本的に対象商品を発送して購入者に送るのに対して、ジモティーは近隣在住の方への受け渡しが中心のため、直接の取引(商品受け渡し)も可能です。
およそこうしたところに地元の掲示板として、地域のつながりを創出するという会社のビジョンが反映されており、ユーザーへの魅力の一つとなっているのだと思います。
また投稿内容を見てみると、メルカリのように商品説明を細かくしていない投稿が多いように感じます。写真についてもメルカリよりもラフな感じで撮影されているものが多い印象。また無料で投稿・出品されているものが多いですね。その点でいうと、メルカリやラクマ等のフリマアプリよりも、手間を掛けたくない/無料で引き取ってもらいたい・引き取りたい/手軽に引き渡したいというユーザーの意向もあると思います。
・投稿者:いらないもの/不要になったものを無料で手軽に引き取ってもらいたい
・閲覧者:必要なもの/掘り出し物を無料で手軽に引き取りたい
・メリット:直接取引による地域のつながり創出/有料の場合は手数料無料
ユーザー獲得方法
「ジモティー」はApp(iOS/Android)とWebの大きく2つでサービス展開しています。Webのユーザー流入経路をSimilarWebで参照すると、
・Search:約50%
・Direct:約35%
・Email:約10%
※2020年8月8日時点の数値となります。
という結果でした。流入比率として一番多い「検索流入(Search)」ではユーザーの投稿内容が検索結果で表示され、投稿ページに遷移することでユーザーが流入します。ということで、中長期的にユーザーの獲得促進のためには、
①既存ユーザーの投稿促進をさせること
②新規ユーザーが滞留する仕組みをつくること(ユーザーのファン化)
の大きく2つが重要だと思います。新規ユーザーがGoogle等の検索結果から流入し、良質な体験ができれば、Appのインストールにも繋がります。こうした正の循環を創出することで着実な成長を実現してきたのでしょう。
既存ユーザーの投稿数増加
↓
たくさんのキーワードで検索流入する可能性が高まる
↓
ユーザーのファン化(UI/UXの向上)、Appのインストール
↓
ユーザー数の増加
↓
既存ユーザーの投稿数増加
また上記に加えてTVCMを定期的に行うことで認知拡大に努めています。TVCMの訴求内容も非常にシンプルかつ、思わず口ずさんでしまうリズムでサービスコンセプトを伝えています。こうしてサービスコンセプトとリズムが記憶され、いざGoogle等の検索サイトで表示されたときに「あ、聞いたことある!」という体験を創出しているのだと思います。
プラットフォームの健全性
「ジモティー」はユーザー投稿型のプラットフォームであることから、前述したとおり、
"いかにユーザーのニーズを汲んで、投稿数を増やせるか"
が非常に重要です。そのため、決算報告でもKPIとして投稿数を開示しております。プラットフォームという性質上、運営側は場所を提供しているに過ぎず、あくまでもユーザー同士がやり取りを行います。そのため、ユーザー同士のトラブルを可能な限り避けて良質な体験ができるように、プラットフォームの健全性を保たなくてはなりません。
そのプラットフォームの健全性という点で、ユーザーの評価機能があります。この機能は実際に取引を行ったユーザー同士がお互いに3段階で評価することができます。多くのユーザーが安心して使用するために、悪質なユーザーを除外していかなければなりません。
加えて安心/安全な取引ができるように運営側としても下記の点に注意して運営しております。プラットフォームの健全性を追求し続けたことで、一人ひとりが安心してサービス利用できるようになり、ユーザー数や投稿数が順調に右肩上がりに拡大してきたのでしょう。
(株式会社ジモティー 2020年12月期 第2四半期決算説明資料より抜粋)
事業の将来性についての考察
最後に事業の将来性についてです。現時点でも月間8億を超えるPV数を誇っておりますが、今後の将来性について、ざっくりですが自分なりに考えてみました。
ユーザー
ジモティーは冒頭でも紹介したとおり、40代以上で約75%程度を占めていることから、今後は若年層の獲得に注力しないと、中長期視点での拡大は厳しいのではないかと思います。新しいジャンルを追加していくことでユーザーニーズを満たすことで若年層の取り込みを行ったり、UI/UXの設計変更を行うなど、何らかの方法で若年層の獲得に踏み切るべきなのかなと思いました。
また、プラットフォームという性質上、ユーザーは投稿者と閲覧者の大きく2つに別れ、サービスの拡大には双方の増加が必要です。ここで四半期別のPV数に対する投稿数(投稿数÷PV数)を見てみると、主に0.10%〜0.14%の間で推移しております。一概にこの数字が低いのか高いのかは競合サービスや市場相場を知らない為、意見することは差し控えますが、私の実体験として、商品を投稿すると1投稿あたり10〜20件ほど問い合わせが来ることから、閲覧者のほうが多い状況ではないかと思います。
プラットフォームサービスではニワトリ卵問題として、どちらのユーザーをどのように集めていくかが重要と言われています。そこで今後はユーザーの中でも特に投稿者を集めていくこと(投稿数÷PV数を高めていく)が重要なのではないかと思いました。もちろん投稿者と閲覧者のバランスを保ちながらという前提の上に立っての話ですが。。。
マネタイズ
上場してからの財務数値はこれまで黒字となっている状況です。ただ営業利益率は年次で見ると10%以下であり、IT企業の利益率水準と比較すると低く、またADNWを中心とした広告収益に依存していることから、景気の変動に大きく左右される可能性が極めて高いです。実際に今回の新型コロナウイルスの影響により広告単価(PV単価)が減少したことによる売上減少が起っています。
そのため今後は景気変動の影響を受けにくい、広告以外のマネタイズ方法を確立させていくなど、財務基盤を安定させていくべきだと思います。
サービスの方向性
中長期的には地元のインフラサービスとなりえるように、地域に関係するあらゆる情報をまとめられているといいですね。ゴミの収集日やお祭りなどの地域イベント情報とか同窓会の管理とかとか。
業者、企業、団体が地域住民に対してアプローチできるようになったり、地方自治体と連携を行うことで必要な情報をジモティーから調べられるようになったら、確固たるインフラになりますよね。ステークホルダーが増えることにより、新たなマネタイズの選択肢も増えると思います。
地域のインフラサービスとなるまでの道のりは簡単ではないと思いますが、地元の掲示板から地元のインフラサービスとして、事業展開の幅(事業の拡張性)は広いのかなと思いました。
まとめ
ここまで読んでいただきありがとうございました。調べられていないだけかもしれませんが、「ジモティー」は直接的な競合がおらず、無料で不要なものを引き取っていただけるなど、顧客体験としては申し分ないと思いますので、これからも定期的にウォッチしていきたいと思います。
もしよろしければ、ここまでまとめた内容の感想をいただけると非常に嬉しいです。またこの視点での分析が欠けているなどのアドバイスも頂けると助かります!これからも定期的にいろいろなサービスを見ていきたいと思っておりますので、よろしくおねがいします!
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