今日の気分はこの曲
Vol.9「Autumn Almanac」The Kinks
1967年10月13日、キンクスの20枚目のシングルとして発表された曲です。
作詞・作曲はもちろんリーダーのレイ・デイヴィス。
イギリスではヒットチャートの3位に入りましたが、
アメリカのヒットチャートではサッパリでした。
理由は簡単。
「イギリス人によるイギリス人の為のイギリス人の生活を歌った曲」
だからなんです。
歌詞を見るとわかりますが、平凡なイギリスの一市民、
庭師の老人の歌なんですよ。
よく言われる
「リウマチが歌詞に出てくるヒット曲はキンクスだけ」
なんですけど、それだけじゃないんです。
「明日は昨日と同じ」を是とする慎ましい暮らしが描かれています。
これはキンクスならではですね。
だから彼らは「もっともイギリスらしいバンド」と言われるんです。
だってこの曲が発表されたのは、先程書いた通り1967年。
1967年はアメリカ西海岸からのサイケデリック・ブームが世界を席巻し、
人々はそれまでの愛を語らう歌詞の歌をやめ、
自己の内面や死について歌う歌詞の歌になった時代ですよ。
日本でも11月にモップスが、サイケGSとしてデビューしてます。
そんなブームの真っただ中、反旗を翻すかのように一般庶民の生活の歌。
しかもレイはこの時まだ23歳。
普通は大学を出て社会人になりたて、右も左もわからない歳なんですよ。
なのに人生を達観したかのような歌詞です。
まぁ突然こうなった訳ではなく、変わり始めたのは2年前の1965年6月3日、
アメリカでシングルとして発表された「A Well Respected Man」から。
当時イギリスの庶民であった、労働者階級の事を歌いはじめます。
それが進化するのは翌1966年6月3日に発表されたシングル、
「Sunny Afternoon」。
小説家志望の男を歌ったビートルズの「Paperback Writer」を追い落とし、
ヒットチャートの1位となったこの曲は、没落貴族の悲劇を歌ったもの。
もはや彼らを一躍有名にした「You Really Got Me」のような恋愛要素は、
欠片も残ってません。
そして「Sunny Afternoon」の次のイギリスでのシングルが、また問題作。
1966年11月18日発表の「Dead End Street」では、
貧しい下層階級の貧乏生活とその悲惨さが描かれた歌になってます。
ちなみにこのプロモーションフィルム、BBCでは放送禁止になりました。
メンバーが棺桶を担いで歩くシーンが、「極めて悪趣味」だということで。
レイは「貧乏は良くて死はダメなのか」とかなり怒り心頭だったとか。
あとこの曲はジャムのカバーも秀逸ですよ。
そして非常に詩的で美しい「Waterloo Sunset」を挟んで、
その次が本作「Autumn Almanac」なのです。
ちなみにこの路線は更に進化してコンセプト・アルバムとなり、
1969年に傑作「Arthur (Or the Decline and Fall of the British Empire」と、
シングル「Shangri-La」となって結実します。
セールス面では大失敗でしたが、最もキンクスらしくかつイギリスらしい、
曲とアルバムだと思います。
歌詞が本当にイギリスらしいんですよ。
でも歌詞中の
「All Houses on the street have got a name
'Cause all houses in the street they look the same」
(通りの家にはみな名前がついてる
だけど通りの家はみなどれも同じに見える)
ってなんだか日本のニュータウンにもよくありますねぇ。
名前はついてないけど。
なんだか他人事ではないような。
だから自分はキンクスに魅かれるのかも知れません。
という訳でキンクスの名曲、「Autumn Almanac 」についてでした。
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