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能管一管曲としての津島

津島という曲がある。能管のみで演奏する上演形式があり、これを一管(いっかん)という。単に独奏というだけではなく、通常吹かれている曲にアレンジを加えたものを演奏したり、一管でしか演奏しない曲がある。そのような一管専用曲の一つが津島だ。今回は津島に関して公開されている情報を簡単にまとめておきたい。

現存する能の笛方の流儀には森田流、一噌流、藤田流の三流があり、津島はどの流儀においても最奥の秘曲として扱われていると聞く。超絶技巧と呼ばれるような他の洋楽器の曲を知っている現代の感覚から言えば、技術的にはなんら難しいところはない曲なので、最奥といわれてもピンとこない。他の曲に比べると固有の旋律が多く、しかも6分強と演奏時間も長いため、秘曲扱いにすることで時の権力者の気まぐれなオーダーを避ける意味合いもあったのかもしれない。

津島の曲調

曲調はおおらかでゆったりとした印象を受ける。「津島は豪壮に吹く」とも聞く。低音をメインにした呂(リョ)と高音をメインにした甲(カン)のパートを交互に繰り返す構成となっており、繰り返しの中で徐々にアレンジが加わっていく。また、一曲を通してユリといわれるフレーズを多用している。ユリは女性神や巫女の舞である神楽、能にして能にあらずともいわれる翁舞などに使われており、聴いてみるとわかるが一種のトランス状態を誘発するような音形となっている。なお、津島祭の囃子に取材したとのことだが現行の津島祭の映像をみても共通点を見出すのは難しい。

秘曲とされてるのでなかなか上演機会はないのだが、藤田流の故藤田六郎兵衛師の尽力もあり、師が主催していた会において数度演奏されている。また、2018年には森田流の笛方が一堂に会した森田流笛の会においても演奏されている。さらに本年2020年の正月には一噌流笛方の一噌幸弘師の演奏動画がYouTubeにアップされこれは度肝を抜かれた。呂と甲の区切りで構えを解いて再び吹くというやり方をとっているのでわかりやすい。


演奏に際して

演奏に際してはまず譜が必要になるが、これは高桑いづみ著「能の囃子と演出」に三流の譜が記載されている。

実際の上演に際しては、譜を基本としながら差し指と呼ばれるフレーズへのアレンジを加えていくことになる。これは流儀や家によって異なってくるため、言うまでもなく師匠からの教えあってのものである。とはいえなかなか教えを受けられるものでもないので、耳コピする際はどこまでが本来の譜でどこからが演者のアレンジなのかに十分に注意した方が良い。

津島が使われている曲

津島はその一部が他の一管曲に使われていたりもする。森田流にこれもまた秘曲とされる五様亂曲、七様亂曲、九様亂曲という一管曲がある。これらは複数曲のメドレーとなっており、それぞれ五つ、七つ、九つの曲を吹いていくものでその冒頭に津島の譜を吹く。先に紹介した森田流笛の会では津島に加えて、これらの亂曲も吹かれており、演者のクセがそれぞれにあらわれて実に面白いものだった。なお、異なる漢字で五葉蘭曲というものもある。メドレーである点は共通であるものの、これは太鼓と笛の一調一管という形式で奏されるもので使われている曲も異なり、津島は吹かれない。

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