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社会人MBAから博士課程というルートについて考える③

前回の振り返り

 前回の記事では、M2の修論執筆前に博士課程進学(D進)を検討していることを当時の指導教員に告げてから、修士論文を書き上げるところまでを記事にしました。パート①にて、『「博士課程に進んで何をしたいか」を考えるのではなく「博士学位を取得して何がしたいか」を念頭に置くべき』などという偉そうなことを主張しつつ、パート②にて、当の本人は、あまり深く考えずに博士課程に進んでいたことを自ら暴露しました。
 このシリーズは今回のパート③で一旦区切りをつけるつもりなので、今回の記事はある程度は時系列に沿いつつも、エピソードを前面に出して語るのではなく、振り返ってみて「これはやっておいてよかった」ことと、「これをやっておけば(なお)よかった」と思ったことを強調しながら説明します。今回のテーマは、「社会人MBAから」とは書いてありますが、純粋な博士課程の大学院生にもぜひ参考にして頂けたらと思っています。

修論提出後〜D1開始の期間に潜むバグ

 意外と見落とされがちなのですが、社会人MBAから博士課程というルートは、仮に同じ大学院、同じ指導教員の下であったとしても、シームレスなようでシームレスでない部分があります。研究者養成コースの場合、5年間をトータルで考えて、その中間報告的な位置づけとして修士論文を書くのではないでしょうか(知らんけど)。
 他方、社会人MBAからD進する場合、多くの同期は2年で大学院から離れることになりますし、修論の口頭試問(2月上〜中旬くらい?)が終われば、大学院生活は事実上その時点でほぼ終わりとなります。指導教員もその時点では修士のゼミ生として扱うでしょう。つまり、M2の2月〜3月頃は、周囲は思いっきり終盤モード(語彙力よ)に入っています。また、指導教員としても、その頃は後期課程の合否が発表される前の状態であることも多く、来年度を見据えた指導は行いにくいという事情があるのかもしれません。このあたりは大学によって多少事情が異なるかもしれませんが、大なり小なり共通点はあるのではないかと思っています。

 こうしたバグが存在している一方で、経営学系の大学院生にとって、2月〜3月は結構重要な時期です。なぜかというと、毎年6月頃に開催される「組織学会研究発表大会」の「大学院セッション」の報告原稿(4ページのショートペーパー)の締切が毎年3月頃だからです。
 僕はこの点を完全に見落としており、M2の2月〜3月は殆ど何もしていませんでした。

「組織学会研究発表大会」の大学院セッションの重要性

 博士学位取得を目指す大学院生が、組織学会研究発表大会の大学院セッションで研究発表をすることは大変重要な意味を持ちます。理由はいくつかありますが、①同世代の院生のレベルを肌で感じることができる、②おそらく国内の経営学系の学会で最も注目度が高く、発表者はネットワーキングの取っ掛かりを作りやすい、③優秀な報告はドクトラル・コンソーシアムへ招待される可能性がある、あたりでしょうか。じっくり探せば他にもあると思います。上記のうち、③の説明については、組織学会のウェブサイトへのリンクを貼って楽をしようとしたのですが、組織学会のウェブサイト内のリンクが上手く機能していないようでエラー表記になってしまうため、ここで補足をしておきましょう。
 組織学会ドクトラル・コンソーシアム(通称、ドクコン)は、大学院セッションでの報告(例年25件から30件)の中から5名前後が選ばれ、秋の「組織学会年次大会」の前日に開催される非公開形式のPaper Development Workshop(PDW)です。もう少し補足を続けると、大学院セッションの報告から1〜2週間以内に招待メールが届き、指定された締切までにフルペーパーを準備することが可能かを問われます。ドクコン当日は、『組織科学』のSE経験のあるベテランの研究者3名前後からフルペーパー改稿の方向性などの指導を受けることができます。また、ドクコンで指導を受けた原稿は、『組織科学』に投稿することが強く推奨されるため、SEダブルリジェクトをくらいにくい可能性があります(※個人の見解です)。

 ロケットスタートを決める院生は、M2の2月ないし3月に修論を提出しつつ、返す刀でそれを3月締切のショートペーパーにまとめ直し、6月の組織学会の大学院セッションで発表します。その発表が晴れてドクコンに招待されれば、様々な収穫が得られることは想像に難くありません。それゆえ、社会人MBAのM2の2月頃からD1の4月の期間には「バグ」が潜んでいると表現した次第です。

研究が進まない人が陥りやすい思考回路

 これまで説明してきたように、組織学会研究発表大会の院生セッションは、博士課程の院生にとって様々な収穫となる機会が用意されているので、ぜひ果敢に挑戦して欲しいと思います。これは社会人MBAからD進した院生だけでなく、純粋な博士課程の院生にも当てはまる指摘かもしれません。
 ここで、学会発表に挑戦する上での最も陥ってはいけない思考回路を示しておきましょう。

  • 学会を遠い異世界の出来事だと思いこんでしまう

  • 修論の出来に納得していないので、全く別のテーマに取り組んでしまう

  • 自分の研究がある程度煮詰まってきてから発表先を探し始める

 これらはいずれも、過去に僕が見てきた現象です。
 1番目の罠を避けるためには、M2やD1の序盤のうちに、自分の発表テーマがなくても院生セッションの発表を見に行くことをお勧めします。2番目の罠に陥る人は僕の周りにはとても多かったです。基本的に、修士課程の2年間で蓄積してきた知識は馬鹿にできません。3番目の罠も比較的多く見てきました。それぞれの学会は、年に1回か2回程しか発表の機会が用意されていません。学会発表に申し込んで退路を断ち、それを研究推進のドライバーにするという荒業があるということも知っておいてください。

  • 学会を遠い異世界の出来事だと思いこんでしまう → 発表している人と自分の違いは申し込む勇気だけ。

  • 修論の出来に納得していないので、全く別のテーマに取り組んでしまう → 全く別のテーマを設定するのならば、もう一度修士課程からやり直す位の覚悟が必要です。

  • 自分の研究がある程度煮詰まってきてから発表先を探し始める → 研究が完成することはない。締切日の状態が研究のひとまずの区切り。

(5/2追記)
 如何でしょうか。この記事をご覧頂いた方の中で、現役の博士課程の院生の中には、ドキッとされた方も少なくないのではないかと推察しています。お気づきの方も多いと思いますが、上記の項目は互いに独立しているのではなく、それぞれの要因が相互に影響しあい、自らの研究を学会発表や論文投稿を躊躇させる要因になっている気がしています。こうした思考に陥りがちの人達は、常にスマッシュヒットを目指さなければならないという呪縛に囚われているのかもしれません。常にホームランを狙って三振し続けるよりも、ファーボールでも良いから塁に出ることも時には必要ですよ。
 ここで、僕のエピソードを1つ紹介します。博士課程に入って最初に取り組んだ論文が運良く『組織科学』に掲載されたのはよかったのですが、その次に取り組んだ研究がどうしても上手くまとめられず、何度かリジェクトされた後、最終的に紀要に研究ノートとして掲載されました。当然、僕個人としては、それを主要な業績としてはカウントしていません。しかし数年後、その研究ノートがある論文に引用され、その論文はある学会の賞を受賞しました。もちろん論文が学会賞に輝いたのは、著者の研究者の能力であり、僕の手柄でもなんでもありません。しかしながら、リジェクトされまくった僕の研究は、(working paperとしてどこかに眠り続けるのではなく)研究ノートとしてでも世に送り出されたことによって、ほんのささやかであったとしても経営学に貢献することができたのです。
 このエピソードが示唆するように、研究の価値を決めるのは自分ではなく、自分の研究の上に新たな何かを積み上げてくれる人達によって決められるのかもしれません。
(5/2追記終)

「博士学位を取得して何がしたいか」という問いが持つ2つの意味

 これまでぼくが見てきた社会人MBAからD進した院生、つまり先輩や同期、後輩達(ここでの先輩・後輩は学年を指しており、必ずしも年齢の上下は意味しない)のうち、博士課程からフェードアウトしていった人達に圧倒的に多く共通している点があります。それは、博士課程在学中に転職し、その仕事が忙しくなってフェードアウトしていくパターンです。
 僕がパート①から何度か言ってきた『「博士課程に進んで何をしたいか」を考えるのではなく「博士学位を取得して何がしたいか」を念頭に置くべき』という指摘には、実は2つの意味があります。
 1つ目の意味は、文字通り、博士学位を取得して何がしたいかです。最もシンプルでストレートな回答は、博士学位を取得して専任教員(研究者)へキャリアチェンジするということでしょうか。あるいは、外資系企業やコンサルティング会社に勤務している方々にとっては「博士(経営学)」が社内でのキャリアアップにプラスの影響をもたらすかもしれません。
 2つ目の意味は、1つ目の意味の変形です。すなわち、「博士学位を取得するまで、つまり博士課程在学中は他のことをするな」という意味です。ただでさえ働きながら研究(勉強)を続けることは相当な困難を伴いますから、モチベーションの維持も簡単ではありません。それにもかかわらず転職するという行為は、ある意味キャリアアップという目的を達成してしまったわけですから、「何が何でも学位を取得するぞ」という思考状態から自分を遠ざける結果を生み出しかねません。もちろん、そうした方々が転職した先の環境が暇ということもまず考えられません。

 働きながら博士学位取得を目指す方は、「博士学位を取得して何がしたいか」という問いが持つ2つの意味をぜひ、心に留めておいてください。

まとめと今後の内容について

 今回の記事は、前回とテイストを変えた内容にしました。前回の記事の方向性のままですと、僕自身の成功体験談のようになってしまう気がしていて危険な予感がしたためです。その為、今回は僕自身のエピソードはあまり書きませんでした。読者にとってはどちらがよいのか今もまだ確信はありませんので、よかったらnoteやツイッターでコメント頂けると嬉しいです。
 いずれにしても、今回のパート③にて、「社会人MBAから博士課程というルートについて考える」シリーズはひとまずの区切りとします。もし、後日思い出したことがあれば、このパート③の記事をアップデートするかもしれません。
 
 今後の内容についてですが、しばらくは「研究書の出版に関するエトセトラ」と「院生向けの何か」を並行して書いていこうかなと思っています。今後も応援のほど宜しくお願いします。


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