安井息軒〈文論〉01
01-原文:自「立言」列三不朽、操觚之士、呶呶乎多言矣哉。然或數百年而堙、或數十年而堙,或身未死而世無復知有是言者。其卓然立於千載者,蓋無幾耳。安在其爲不巧哉。
01-訓読:「立言」の三不朽に列せられてより、操觚の士、呶呶乎として多言するかな。
然れども或ひは數百年にして堙(うず)もれ、或ひは數十年にして堙(うず)もれ、或ひは身未だ死せずして世復た是の言有るを知る者無し。其の卓然として千載に立つる者、蓋(けだ)し幾(ほとん)ど無きのみ。安(いづく)にか其の不巧と爲す在らんや。
01-意訳:〔《春秋左氏伝・襄公二十四年伝》において、范宣子に「死して朽ちず」という言葉の意味を問われた穆叔が、「大上は德を立つるに有り、其の次は功を立つるに有り、其の次は言を立つるに有り。久しと雖も廢せざる、此を之れ不朽と謂ふ」と回答して、〕「立言」(=意見を述べること)が三不朽(立徳・立功・立言)の一つに並べられてより、文士(操觚の士)は〔すっかり勢いづいて、競うように詩文を発表しているが、いやはや〕ぺちゃくちゃと口数が多いことだ。
しかしながら〔そうした詩文の多くは〕あるいは〔作者の死後〕数百年にして埋もれ、あるいは数十年にして埋もれ、あるいは作者はまだ死んでいないのに、世間ではそんな文言があったことを知る者がいない〔という状態にある〕。際立って優れ、千年間も存続した文言など、思うにほとんど無い。〔こうしてみると、「立言」の〕いったいどこに「不巧」とするだけの理由があるだろうか、いや、ない。
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