安井息軒《睡餘漫筆・西洋に地動の說あり》01
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原文-01:西洋に地動の說あり。“日は中處して動かず。地西より東に向ひ、一晝夜に一轉し、晝夜旦暮となり、三百六十六轉し、元の處に歸り一歳となる。人其の動くことを喩らざるは、大船に乗る者唯だ岸のあるくを見て、船の行くを喩らざるが如し”と云ふ。
始めて聞かば驚くべし。静かに之を思へば、其の說極めて是なり。
意訳-01:西洋には地動説という学説がある。〔それによると、〕“太陽は中央にあって動かず、地球は西より東へ向って、一昼夜に一回自転し、〔回転に伴って各地が〕明け方・昼間・夕方・夜間となり、366回転して、〔太陽を周囲を一周して〕元の所に帰ってきて一年(一歳)となる。ヒトがその〔自分たちが乗っている地球が〕動いていることを感じて取れないのは、大きな船に乗っている者にはただ岸が動いているように見えて、〔自分の乗っている〕船が進んでいるのを感じ取れないようなものだ”という。
初めて聞けばきっと驚くだろう。〔だが、〕落ち着いて考えてみると、その説は極めて正しいものである。
余論-01:西洋の地動説の紹介。
息軒〈地動説〉でほぼ同じ紹介の仕方をしている。ただ本段の説明では、地球が自転していることは読み取れるものの、太陽の周りを公転していることについては説明不足なように感じる。
なお、ヒトが地球が動いていることを感じ取れない理由を、大きな船に乗っている時の感じ方にたとえて説明するのは、《太平御覧》所引の《尚書緯考霊曜》にも見える。